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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同親睦会 3

 こうしてどのカレーを食べるのかは全員決まった。如月さんは早速メニュー表を二冊とも持ってカウンターの方へ向かった。そこで白髭の老人にメニューを伝え、メニュー表を手渡し僕らの席に帰ってきた。

 

「みなさん緊張でもしているのですか?」

 

 確かに如月さんがメニューを伝えに行っている間に僕らに会話はなかった。多分だけど、みんなどんな話をすればいいのか悩んでいるのじゃないかな。それに僕もそうだけど、中村君や堺さん、相澤さんは話をするのが多分苦手だ。山河内さんか岡澤君が先陣を切って話し始めないと僕らは自分から話し出すことができないのだから。

 こうも他人任せなのが自分の悪いところだと自覚していても、そもそも踏み出す勇気がないから解決はしないこともわかっている。だからこの性格は一生かけても変わらないことを僕は知っている。

 

「緊張しているなら、これからの予定をカレーが来るまで話しておきましょうか?」

 

 如月さん以外の全員が無言で頷き満場一致で今後の予定を聞くことになった。

 如月さんはため息を吐いていた。

 

「分かりました。では今後の予定をお話しします。まずはこのあとですけど、九時十五分発池田行きの汽車に乗ります。その汽車での所要時間は二時間と少しです。それから、辻駅で途中下車して今度はバスを使って移動します。川島運動公園行き十一時五十分発のバスに乗り、美里キャンプ場前で降ります。移動の所要時間は十分くらいです。コテージの開放は十三時からなので、それまではデイキャンプ場でお昼ご飯を食べながら時間を潰します。夜のバーベキューを本格的にしたいので昼ごはんは簡単なものを用意しています」

 

「だから朝からガッツリなのか」

 

「お昼まで時間があるので」

 

「そうなると思って、お菓子は持って来ているよ」

 

「さすが碧ちゃんです!」

 

 如月さんによる今後の予定についての説明だったけど、途中からお菓子の話にすり替わってしまっていた。どこどこのパンケーキが美味しいだのどこどこのクッキーが美味しいだの如月さんと山河内さんの話は盛り上がっていた。が、その会話に水を刺すようにカレーが僕らの席に運ばれてきた。一番は如月さんのカレー。何もトッピングがなくご飯とルーと福神漬けが盛り付けられたカレー。匂いを嗅ぐだけで美味しそうだった。

 

「嗅がないでください。私のカレーです!」

 

 嗅ぐなと言われても、何もしなくても鼻に入ってくるから仕方ないのだ。それとも息をするなと言いたいのか? なんて言葉を如月さんに言ったらどんな言葉が返ってくるのだろう。いい言葉は絶対に返ってくることはないから、何も言わないのが正解。


 如月さんの次は堺さんと相澤さんのカレーが運ばれて来た。チーズカレーとナスカレーだがどちらも美味しそうだ。特にチーズカレー。色の違うチーズが上に乗っかっており、見た目だけで食欲をそそる。ナスカレーはナスカレーでとろけそうなナスがカレーの中で輝いていた。

 

「意外と美味しそうだね。写真撮ろ」

 

「意外ととは何ですか! 格別に美味しいです!」

 

「ごめん、私が悪かったよ」

 

「分かればいいのですよ」

 

 よく分からない如月さんと相澤さんの件を経て、次は山河内さんのチーズナスカレーと僕の揚げ野菜カレーが運ばれて来た。

 チーズナスカレーは言葉の通り堺さんのチーズカレーと相澤さんのナスカレーが合わさったもので、僕の揚げ野菜カレーはインゲン、ナス、カボチャ、レンコンがルーの上に盛り付けられていた。その数分後に岡澤君のエビフライカレーと中村君の温野菜カレーも運ばれてきて、カレーを食べ始めた。

 全員のカレーが運ばれて来た時に、僕はあることに気づいた。

 

「如月さんだけ多くない?」

 

「気のせいです」

 

「気のせい」とは言っているが、明らかにご飯の盛り方が僕らとは違う。僕らのご飯は言うなれば丘くらいだが、如月さんは一人山のように盛られている。他の人は気にしていないようだけど、僕の気のせいではないと思いたい。

 僕らの会話を聞いて、山河内さんだけが微笑みを浮かべていて、何か知っていそうだけど僕に聞き出す勇気はないので、僕も静かにカレーを食べることに集中した。

 普段はよく喋る如月さんも岡澤君も、食べる時には何も話さず、このカレー屋にはガチャガチャとガラス食器に金属のスプーンが当たる音と微かに聞こえるオルゴールの音だけが響いていた。そんな静寂を打ち消すように如月さんは言った。

 

「ごちそうさまでした!」

 

 その脅威のスピードに男子は驚き全員で目を負わせた。競争とかそんな思惑はなくても、何故か気持ちだけは焦っていた。そのせいで男子は全員急に早食いになり、僕はこの謎の競争に負けた。男子の中で一番に食べ終わったのは、岡澤君だった。

 

「ご馳走さん! うまかった!」

 

「お口に合ったようでよかったです」

 

 次に食べ終えたのは中村君だった。

 

「ご馳走様」

 

「中村さんはどうでした?」

 

「え、あ……うん、おいしかったよ」

 

「そう言ってもらえてよかったです」

 

 言葉に詰まっている中村君を横目に僕もカレーを食べ終えた。

 

「ご馳走様」

 

 如月さんは僕には何も言わなかった。

 

「僕には何も訊かないの?」

 

「寂しん坊ですか? 生憎、寂しん坊に構っている暇なでありませんので。遊ぶなら一人でしていてください」

 

 何故かいつもに増して冷め切っていた如月さんを前に、僕は完全に萎縮し言い返す言葉が何一つ浮かばなかった。

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