出会いの形は最悪だ
教室に着くと、入った瞬間に全員の視線が一気に僕に向いた。ただその視線は一瞬で散開した。偵察というか、どんなやつが来るかみんなが気になっているだけの注目だ。そうと分かっているけど、さっきの一件があった僕にはその視線は痛かった。背筋が凍りそうな勢いの寒気に襲われた。
はあー。僕のこれからの高校生活、本当に大丈夫なのか?
自然と漏れていた溜息を、一番と言っても過言ではないやつに聞かれてしまった。
「よう! 大智! 溜息なんて吐いてどうしたんだ? 相変わらず朝から暗いな!」
このやけに明るくてバカなやつは中学からの同級生、佐古樹。悪いやつではないのだけれど、バカ全開のペースに付いていけない時だけはしんどい。特に、朝イチと放課後、それに疲れている時。
「大智おはよう。入学早々樹に絡まれているんだね。災難だね」
明るいバカとは正反対のこの落ち着いた雰囲気、正真正銘のバカである樹を唯一自分のペースに巻き込むことができる樹の幼馴染、うちの中学じゃサッカー部のエースだった小南綾人。こんなベストタイミングで現れてくれるなんて救世主呼ぶ他ない。
取り敢えず自分の席に荷物を置いた二人は、僕の机を囲うようにに集まった。
「なあ、そう言えば、大智さっき知らない女子と話してなかった?」
突然何を言い出すかと思えば、さっきの樹に見られていたのか。これは少しまずい。いや、大分まずい。こいつバカなんだけど、昔から妙に勘だけはいいのだ。索敵能力というのか、同じ部活だったけど、顧問の先生が隠れながら姿を現しても必ず気付いていた。たとえ物陰に隠れていようとも、何故か樹が見つけていた。そのおかげで何度も救われたけど、まさかここで足を掬われるとは。でも大丈夫だ。万策尽きたわけではない。何度も言うがこいつはバカなのだ。適当に誤魔化せばそれを信じる。問題があるとすれば綾人の方だろうな。普通に頭が良くて顔もいい。幼馴染の樹のことを一番分かっているやつだから全く信じない、と言うことはないだろう。綾人が信じそうな嘘……
「ああ、落とし物していたみたいだから、大丈夫って声をかけてみただけだよ。そしたらそいつ、すっごい顔で睨みつけてやんの。怖いから何も言わずに慌ててやって来たってわけだよ」
名も知らないどこかの女子ごめん。心臓の音が煩すぎて、頭がちゃんと回らなかった。
「なーんだ、つまんねえの。大智に春が来とたのかと思ったのに」
「大智に僕より先に春が訪れるなんて絶対にないよ」
「確かに。大智女子と話せないもんな」
誤解だけは解けたようだけど、何だろうこの気持ち。二人に笑われるのは慣れているのに過去一番にムカつくし、心が傷つく。