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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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出会いの形は最悪だ 13

 悩みに悩んだ結果、僕は何の用事もないスマホを必死に触った。普段は見ないようなネットニュースやここぞとばかりに迷惑メールの削除を行なった。ただ、ニュースを見るのもメールを削除するのもどちらも大した時間潰しにはならず、悩みの時間は再びやってくるのだった。そんな時だった。山河内さんは合掌するように突然手を叩いた。

 

「そうだ! 私、中田君に訊きたいことがあったんだ」

 

 その言葉を聞いて僕の体温は一気に下がり、暑くもないのに汗が止まらなかった。

 

「中田君って、下の名前なんて言うの?」

 

 唖然とした僕は手の力が抜けて危うくスマホを落としかけるが、落とす寸前で力を取り戻し何とか落とすことは避けられた。

 

「な、何でそんなこと?」

 

「だって、せっかく友達になれたのに下の名前を知らないって変でしょ? それに、歌恋がここまで話せる男子って本当にいないから嬉しくてつい」

 

 後者については僕から否定しようとしたが、如月さんの方が口を早く開いていた。

 

「私と中田さんが付き合うのは、地球が宇宙人に支配されるよりありませんよ」

 

 例えが絶妙に分かりにくい。

 

「あ、間違えました。例え天と地がひっくり返ることがあってもあり得ませんよ」

 

 まともな例えに戻っているが、そこまで否定しなくても。まあ、僕も如月さんと付き合いたいとか、全くもって思っていないからそう言われる方が清々するからいいけど。

 

「そんなことないと思うよ。私はお似合いだと思うけどな」

 

 山河内さんがそう言うから僕と如月さんは見つめあった。いや、お互いを睨み合った。こんな僕が人を選ぶ権利はないかもしれないけど、如月さんだけは勘弁だ。如月さん自体は、普通にしていればかわいいとは思う。だけど、何がそうさせているのか全くもってわからないけど、どうしても異性として意識できないのだ。

 

「碧ちゃん。あんまりしつこく言うのなら私だって切り札はありますよ。誰にも知られたくない碧ちゃんの秘密を私はたくさん知ってますよ」

 

 如月さんは、山河内さんを言葉で脅していた。

 こんな言葉に山河内さんが屈するわけないと、彼女に視線を向けると。

 

「もう言いません」

 

 如月さんに深くお辞儀をしていた。

 

「まあ、分かればいいのですよ。私の心は寛大ですからそんなことでは怒りませんよ」

 

 僕は開きたい口を必死に押さえて声が漏れないように耐えた。それとほぼ同じくらいのタイミングで電車が到着した。

 

「中田さん。今日も護衛ありがとうございました。さっきの返事は明日の午後六時までですので早めの返事をください。では、また明日」

 

「じゃあね、中田くん。バイバイ」


 山河内さんは笑顔でこんな僕に手を振った。僕も小さく手を振返したが、そんのことよりも脳裏に山河内さんの笑顔を焼き付けることに何よりも集中した。

 山河内さん可愛すぎる。こんなに可愛い子と話ができている僕はもしかしたら人生勝ち組なのでは? そんな妄想を膨らませながら駅から帰った。

 

 今日はいつもより早めに起きた。昨日は割とギリギリの時間だったからとか電車組と出会して思うように進めないとか、そんなわけじゃない。昨日は朝一発目から如月さんに出会うし、その後朝に一番会いたくない樹とも出会ってしまったからだ。本来なら家が近い僕は、ギリギリまで眠りたいのだが、あの朝からうるさい二人に会いたくない。そんな不純な思惑に僕の心は突き動かされたのだ。

 

「おはようございます、中田さん」

 

 僕の思惑は一瞬んで崩壊した。それは、靴を履き替えるために校舎に入った瞬間だ。先に靴を履き替えている如月さんに出会してしまった。

 

「お、おはよう。きょ、今日は早いんだね」

 

 本音を隠したつもりでも、如月さんはエスパーのように僕の本音を言い当てた。

 

「そんなぎこちない挨拶をすると言うことは、私に会えるのを楽しみにしていたのですね。昨日はもう少し遅い時間だったのに、どうして今日はそんなに早いのか。気になりますか?」

 

 笑顔でそう話す如月さんだが、僕には分かる。この嫌味っぷり、絶対に怒っている。

 

「気にはなるけど、わざわざそれを訊いたりなんかしないよ。誰が何時に家を出ようかなんてその人の勝手だから」

 

 思い当たる言葉をそのまま繋げてテキトーに話していたが如月さんから逃げることはできなかった。

 

「ははは、そんな言葉を使えば逃げ切れると思ったのですか? 中田さん、あなたは私に『今日は早いんだね』と言いました。それなのに『わざわざ訊かない』とは、矛盾していますよ」

 

「………………………………………………」

 

 僕は如月さんに何も言い返せなかった。

 少し早い時間に来たせいで、廊下にはほとんど人は居らずまともに、いや、変に会話をしているのは僕と如月さんの二人だけだった。僕はこの場から途轍もなく逃げ出したかったけど、行き先は同じしかも廊下は長い。会話がなければ死ぬほど気まずい。だけど、会話もなく過ごす方が楽なのかもしれない。そう思い始めたのであった。そんなわけで、僕は教室の前に着くまで一言も喋らず、如月さんも僕に話しかけることなく無言のまま隣どうしで歩いた。

 その均衡を破ったのは言うまでもない如月さんだ。

 

「中田さん。昨日の話ですが私は本当に今日の午後六時までしか待ちません。一分一秒過ぎた瞬間になかった話になります。後悔する前に決めてしまってもいいのではないですか?」

 

 そんなこと急に言われても………いや、猶予は与えられていたのか。たったの一日だけど、その一日で決めきれない優柔不断さを今だけは嫌いたい。

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