まずは妹を置いていく
俺の運命が大きく変わった日、その日は、雪がよく降った日だった。
「えー、今回も僕たちお留守番なの。」
幼き頃の俺は、妹とよく、留守番をしていた。
「ああ、すまないな、傑、綾瀬、お土産は、必ず買ってくるからな。」
綾瀬は俺の双子の妹だ。
父さんが申し訳なさそうに言った。そして母さんが、優しく微笑みながら言った。
「そうね、帰ってきたら、バームクーヘンを作ってあげるから。」
「ほんと、わかった、お留守番、頑張るよ。」
「お母さん、お父さん、傑のことは、私に任せて、依頼をしっかり解決してきてね。」
「ああ、帰ってきたら、僕の解決劇を、聞かせてやるからな。それじゃあ、行ってくるよ。」
「「うん、楽しみにしてる、行ってらっしゃい。」」
「さあ、傑、晩御飯の作るの手伝って。」綾乃は妹のくせにいつも姉面をしてくる。
「ああ、手伝うが、俺の方が兄なんだぞ。」俺は綾乃の頭を軽く叩いた。
「イタ、叩かないでよ。大体、私たちは双子でしょ生まれたのが数時間早いか、遅いかで兄面してこないでよ。」腰に両手を付き怒った
「俺がいつ兄面したんだよ。」俺は呆れ気味に言った。
「ん、そんなことはもういいからさっさと夕飯を作りましょう。」
(こいつ、誤魔化したな。)
「ああ、わかった、さっそと作るぞ。」俺は頭に手を付き、綾乃の自分勝手なペースに呆れた。このときは、うざいとか思ったが、後で気づいた、こんな会話ができたのは幸せだったことに。そんな生活が続いた六日後、俺達兄妹は、父さんの武勇伝も、母さんのバームクーヘンを食べることも叶わなくなった。
父さんと、母さんは帰りの便の飛行機で墜落し、死んだ。そのショックで、綾瀬は精神崩壊を起こした。
そして、この時だったのだろう、俺にとっての、最も、重要な瞬間で手遅れになった瞬間だったのだろう。そして、俺は、どの道この運命に俺は、抗えなかっただろう。天才と褒め称えられて、育てられた俺は、全くもって強くなかったからだ。そう思うと、俺は、自分の不甲斐なさに、打ちのめされた。そんな期間が、一週間ほど続いている中、一通の手紙が届いた。俺は、宛名を見るや否や、涙があふれ出た。父さんがからだった。俺は、理解が追いつかず、恐る恐る手紙を取り出し読んだ。
『傑へ まずはじめにこの手紙は、綾瀬に見せるかはお前に任せる。小学5年生の息子と娘を置いて、両親ともにこの世を去るのは、親としてとても心苦しかった。傑、お前には僕の書斎にある本棚の裏のインシデントの魔道書を解いてほしい、いや、解くんだ。それが、僕たち一族の呪いを解くための、生き残る唯一の方法だ。この際、リーシャの科学室の中の道具も好きに使うことを許可する。そして、死んで尚、息子一人にこんな、宿命を背負わせる僕を許してほしいとは言わない。僕は知っているよ傑は実は心がとても強いからこんな呪い見たいな手紙でも信じてくれることも、だが、頼む、頼むから死なないでくれ。本当にすまない。解けるまであきらめるな、逃げるな。最後に僕の息子として生まれてきてくれてありがとう。 獅穏 恭司であり、君の父親より』
この手紙を読んで、俺は、声が出なかった。手紙の意味がわからなかった。手紙を読んでいる限り、俺達はインシデントの魔道書を解かなければ俺達は生きていくことができないということだ。そして今までどんなに頼んでも入ることを許されなかった、父さんの書斎と母さんの科学室に入ることを許されたのだ。だが、そんなことは傑の頭にはなかった。なぜなら、父さんは俺のことを強いと言った。確かに、まわりの同い年の子よりは物理的にも精神的にも強いかもしれない。しかし、それでも十一歳は十一歳だった。そんなことを急に言われても困る。
三日が経った。ベッドの上からほとんど動いていなかった。まだ迷っていた。やるか、やらないかでは迷っていなかった。どの道やらなければ俺達の長い未来はないからだ。だが、やるに決まったとして、プロの魔法師が今までやってきて一度もクリアできてないものを一小学生にどうしていけばいいがわからなかった。いっそ誰かが説いてくれないかとさえ考えた。インターフォンが鳴った。当然、家に来客の予定などなかった。配達員の可能性はあったが、俺は出る気はなかった。だが、予想が外れた、家の鍵が開く音がした。
「何だ、こんなときに泥棒かよ。」
こんな人が悩んでいるときに時に呑気に泥棒が来たのがとしたらと考えると聊か腹が立った。玄関の死角で待ち伏せた。家に泥棒だと思われる人物が入ってきた。傑はすぐさま自分が使える魔法の中で殺傷性の高いポイズンを使いナイフに装填して、奴当たり気味にぶっ刺した。死んだ、そう思った。だが俺には意味がわからなかった。ポイズンは普通なら一瞬で死ぬはずなのに普通に生きていた。
「ほう、この子が両立型の魔法師なのか躊躇なく人を殺せるのか、素質があるな。」老人だった。
「もう、いいよ殺してくれよ。この泥棒が。」いろんなことが積み重なり自暴自棄になった
「なにか、勘違いしてないか。私は泥棒じゃない、君を預かり、手助けをするようにA一つまり、君のお父さんに頼まれているものだよ。手紙に書かれてなかったのかね。」
「と、父さんにそんなこと手紙には一個とも書かれてなかったぞ。」
「はあー、仕方ない、これを見せればわかってくれるかね。」
父さんとのツーショットだった。心の余裕のない俺には簡単に信じられた。いや、信じたかった。
「わかりました、ただ、父さんとどんな関係なんですか。」
「私は君の父さんの師匠だった。」
「すみません、俺ってもしかしてとてつもなく失礼なことを。」
「いや、大丈夫だ。それで、覚悟はできたかね。」
「覚悟ですか、そんなものはありません。」
「そうか、なら今日のうちに決めなさい。」
「そんなことを言われても。俺はまだ十一歳なんですよ、どうすればいいなんてわかりませんよ。」
「そうか、じゃあ、インシデントの魔道書のことで少し話をしよう。君はそのインシデントの魔道書を他の人に解かせればいいではないかと考えたんじゃないか。」
「は、はい、考えました。」
「そうだろうな、十一歳の少年がわざわざ解かなければいけないものではない。だがな、君のお父さんが言ってた通り呪いなんだ。その呪いに君はもうかかっている。他の一族が解こうとすると、君や君の大切な人が死んでしまうそんな作りになっているんだ。」
「じゃあ、おれが解くのを諦めると、大切な人、つまり妹と俺だけが死ぬんですか。」
「半分正解だ、君が大切だと考えた瞬間、全員死ぬ。」
「そ、そんな、俺にはインシデントを解くしか方法はないんですか。」
「いや、君が大事な人を捨てればいいだけの話だよ、そして責任転換して生きていくって選択肢もある、だがな、甘えるなお前のお父さんはお前を信じて、お前ならできると信じて任せたんだ。それを踏みにじるか、運命を受け入れるかそれを決められるのはお前だけだ。」
「すみません、少し考えます。」部屋に戻った。だが、選択は初めから決まっていた。心を整えた。そして俺は、すぐさま、父さんの書斎の前に立った。恐る恐る、中に入った、書斎の中には、家族写真がたくさん並べられていた。奥に進むと、父さんが言っていた、それらしい本棚を見つけた。裏を見ると、とてつもないほど古い魔道書を見つけた。 息をのんだ。恐ろしいほどの魔力に満ちていたからだ。
「こんな古い魔道書が、世界に四つしかないインシデントの魔道書なのか、でも、父さんに解けなかった魔道書を俺に解くことができるのか?」と、早速、意気消沈していると、父さんは、それを予測していたかのように、魔道書にメモが貼られてあった。そこには。そして次に、母さんの科学室へ向かった。母さんの科学室では、母さんが錬金したであろう、魔法が施された、二丁拳銃の風神と雷神、小刀の来国丸をいただくことにした。
傑はさっきの老人のところに行った。
「先生、やっぱり、覚悟なんて大層なものはありません。ですが、唯一の家族を守るためやる気はあります。逃げる気も毛頭ありません。だから、これから、お世話になります。」
「そうか、覚悟じゃないなら、それはなんなのだね。」
「そうですね、うまく言えませんが、呪いと復讐心を併せ持った何かですかね。」
「ふぁっふぁっふぁ、そうか、そうかそれは、覚悟よりも丈夫そうだな。私の名前はリュカ・リカルドだ、簡単に先生でいい、お前の名前はなんだ。」
「獅穏傑です。これからよろしくお願いします。」
「獅穏だと・・・。」
(そうか、どこまで考えているんだ、恭司。)
「いや、なんでもない。それでお願いとは何だ。」
「それは、―――」
「ほんとにいいのか……。」
先生と俺はお願いを叶えてもらうために綾瀬がいる病院に向かった。
「先生こんな夜中に病院に入れるんですか。」深夜二時だった。
「ああ、病院長が私の知り合いなんだ。」そうして、深夜の病院に入れてくれた。
綾瀬の病室に入った。綾乃は当然寝ていた。悪夢を見ているような顔をし、汗がだらだら流れていた。
「四日ぶりだな、綾瀬、四日ぶりに会って、なんだけど今日は別れを言いに来た。先に謝るごめん、今から綾乃の記憶をいじる、俺のことを忘れてもらう、綾瀬が悪いんじゃない、唯一の家族の俺がお前のことを守っていく自信がないだけなんだ。すまない、だけど、これからは優しい新しい家族と一緒に幸せに暮らせるんだ。俺がいなくなことは忘れてくれ。」
微笑みかけながら言った。
「まあ、俺が強制的に忘れさせるんだけど。」さっきの顔と裏腹に自嘲しながら言った。
「お兄ちゃん?」
綾瀬が起きた。いや、起きていた。そんなことより傑は、綾瀬にお兄ちゃんと呼ばれたことが何より驚きだった。最後にそう呼ばれたのを俺は覚えてなかった。
「やっぱり、一人で行くんだね。おかしいと思ったよ、お兄ちゃんの性格なら毎日来るのに、三日も来ないなんて何かあったとしか思えなかったよ。」
「お前を危険な目に遭わせたくない。それに、そんな状態のお前を連れていくことはできない。」父さんに委ねられた選択の答えだった。それが本質ではないが嘘一つない本音だった。
「わかった。お兄ちゃんの思うようにして。」綾瀬の答えは傑の予想を反した。綾乃は反発すると思ったからだ。綾乃を気絶させる手立てまで考えていた。
「良いのか。」
「良いも、悪いもないよ、お兄ちゃん。だって、お兄ちゃんが私のことを第一に考えてくれてることなんて生まれてきてから一度も疑ったことなんてないよ。だけど・・・」
「なんだ。」
「だけど、だけど、全部、全部終わったら絶対、絶対に迎えに来てね。絶対だからね、これは約束であって呪いなんだから。」綾乃は泣いていた。
「約束であって呪いか、それはただの約束よりも大切だな。」
「うん、絶対なんだから。死んだりしたら私が死んでやるんだから。」
「それは困るし、絶対に死ねないな。」
そのあと二時間程、談笑した。
「もう行かなきゃ。」
「うん、約束忘れないでね。」
「ああ、先生お願いします。」病室の前にいた先生に言い残し、病院を後にした。