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第1話 勇者召喚

真っ暗なマブタの裏を見ながら頭の痛みを確かめる。

少しだるい体に意識を流してみる。

指先。

つま先。

5体満足だ。


「勇者よ。」

 

なんだ?声か聞こえる


「勇者テックスよ、さあ 目を開けなさい」

 

目を開けると初めに飛び込んできたのは優しそうな人の顔。

布のような服をまとって帽子をかぶっている。

帽子に入れられているマークを見るとゲームに出てくる教会の神父が被っている帽子だ。


次に紫色の青白い光とそれを取り囲むようにロウソクの光が建物を照らしており、壁の壁画を見るにここは教会のようだ。

さっきまでは気づかなかった。

青白い光は円を描いており魔方陣になっている。

その周りにはローブを着た魔導士が5人立っていて、すべての力を使い果たしたといった顔をしている。

信じられないが召喚されたのだ。


オレはゆっくりと体を持ち上げて教会の中を見渡すと、オレよりも少し若いくらいの教会の女の子。

シスター見習いか?

その周りには村人たちが囲み、どこかの黒猫までがこちらを見ている。


神父は器から濡れた布を取り出すと絞ってオレに手渡してきた。

「私はウオーマと言う。みんなからはウオーマ神父と呼ばれている。さあ この布で顔を拭くといい気持ちがスッキリする」


聖水でも染み込ませた布だったのか、布で顔を拭くと本当にサッパリとした。

「ここはどこだ?」


教会の中に笑い声がコダマする。

村人たちの声、魔導士たちは疲弊しながらも嬉しそうに笑みを浮かべている。

ウオーマ神父はオレから布を受け取るともう一度、布を絞って顔を拭くように進めてきた。

「ここは 異世フリージア。どこかにある断片の世界に過ぎません。

それよりも、ご気分はどうですか?」

「布はもういい。 だいぶスッキリした」


体をゆっくりと起こして立ち上がるとまだ頭痛が少し残っているがしばらくすれば消えるだろう。


ざわざわ ざわざわ

教会にいる人たちが両壁に移動し始めた。

すると通路が姿を現したがその先にあるはずの聖母様の像がない。

代わりに淡く光りを放つ剣が一本刺さっていた。

オレは思わず美しい光に誘われて剣の近くに歩み寄った。

「美しい」

美しいなんて言葉を使ったのは初めてだ。


「さあ 始めましょうか?」


神父の声がして後ろを振り向くとウオーマ神父は細身の剣をサヤから抜いてブンブンと素振りをするとカッコよく剣を構えた。

まさか 戦えと?

村人たちは娯楽でも楽しむかのようにオレと神父を(アオ)る言葉や口笛を吹いて盛り上がっている。


「さあ 勇者テックスよ。聖剣を抜きなさい、試してあげましょう」


紳士的、スポーツと言った感じはするが神父が振り回そうとしている者は刃物だ。

地球人のオレの体は心臓が波を打ち手に汗がにじんだ。

だってオレは!


神父が剣を構えて走り寄って来る。

早い!

剣先がヤリのように真っすぐ突き出されていくとオレの右手は聖剣に伸びた。

「爆発?」

バキン! バッシャン!!


聖剣に触れようとすると半透明な壁が現れてオレは弾き飛ばされる。

ギリギリのところで吹き飛ばされたおかげで神父の一撃を交わすことが出来たが体が転がるほど吹っ飛ばされた。

まるで神父の動きは2倍速再生の動画だ。

どうして聖剣に触れることが出来ない?

心当たりがないわけでもないが。

神父は ニヤリと怖い笑顔をこちらに向ける。


「まだまだ のようですね。誰かぁ!剣を!テックスに剣を貸してあげてください」


オレの前に剣が放り投げられた。

神父よりも太い普通のソードと言うところだろう。

立ち上がって剣を抜くと膝がカクカクし、剣が震えている。

でも 俺は勇者なんだろ?強いんだろ?

「うりゃ!!」


ウオーマ神父に向かって突進をする。

前進をバネのようにしならせて上段から剣を振り下ろす。

「とらえたぁぁ!」


ウオーマ神父は動かなかった。

動かなかったはずなのに剣が振り下ろされたときにはオレの視界にはいなかった。

「みなのものよ!残念です」


神父の声が後ろから聞こえたと思うとため息や落胆の声が聞こえてきた。

ざわざわ ざわざわ


何だか胸元が熱い。

交わされて恥ずかしいのか?

オレは違う。でも同じなのか?

だが 胸元に手をやると手は濡れておかしいと思って手のひらを見た。

「血だ」


浅い傷だけど交わされただけじゃない、斬られたんだ。

神父はふところに手を入れるとポーションが入ってそうな小瓶を取り出して剣に振りかけていく。

「これは教会の裏の湖から汲んできた聖水です」


剣が淡く光り始めた。


「これが最後です。これから放つ力は私の力ではありません。聖水の力。聖なる斬撃で死になさい!!」


オレ、死ぬのか?

村人たちを見た。

「いいぞ! やれ~!」 

ダメだ。


オレと神父との間には結構な距離があるのに神父は腰を低く落とすと力を込めたように剣を振るった。

その瞬間、光っていた剣から光だけが離れてこちらへ飛んできた。

魔法的な奴?

飛んでくると思ったけど、本当に飛んでくるなんて信じられるか?

逃げる機会を失って死を覚悟した。


「死にたくないぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


光の刃に剣を打ち付けた。


バキン!!


閉じてしまった目を恐る恐る開けてみる。

もしかしたら胴体が真っ二つになっているかもしれない。

剣が見えたがオレの剣だ。

次に胴体を見たが、繋がっている。

生きてるぞ!

死ぬと思ったら、なんだかすごい力が湧いてきたんだ。

だけど すっかり腰が抜けて倒れこんでしまった。


パチパチパチパチ


拍手の音が聞こえる。

神父も近寄って来てオレを立ち上がらせてくれると掴んでいる手をそのまま持ち上げて勝利の宣言をした。


「勇者 バンザイ!!」

バンザイ

バンザイ

パチパチパチパチ


大歓声だった。

薄暗い教会の外に出ると外もよるだったけどランタンが飾り付けられており、テーブルの上にはいっぱいの料理が置かれていた。


「どうぞ、どうぞ。勇者様 お酒は飲めますか?」

「ああ 飲めるさ」


長老と思われる人や料理を運んでくれる婦人。

お酒を注いでくれる若い村娘たちに持成(モテナ)された。

さっきのシスター見習いの子。可愛かったのにいないのかな?

いるわけないか。シスターだもんな。

それでも 美味しい料理がお腹を満たしていく。

自分自身が祝福を受けていると感じるのは子供の頃いらいだ。

村の人たちは本当に喜んでくれている。

オレを勇者だと思っているのでいい気持ちしかしない。

本当の感情を取り戻した気がした。


「それはそうと、テックスさま。異界の話を聞かせては下さいませんか?」

村の長老は異世界に興味があるようだ。

オレの名前はアイビー。

簡単に言えば9%ある、強いお酒を飲むのが日課のニートだ。

あの日だって。。。

「うるせぇ!くそばばぁ~!!」

「はぁ、アンタなんて産まなければよかった・・。」


将来の事で母親に説教をされて、途中から無視をしてお酒を飲み始めたら酒の瓶を頭に投げつけられて気を失ったんだっけ。

それで気が付いたら、ウオーマ神父の顔があったんだ。

異世界転移だ。

でも、そんなニートだったことを話そうとは思わないし気になることはそれだけじゃない。


「なあ 休みたいのだが静かなところはないのか?」

「転移の影響でお疲れのようですね。静かなところですが教会の裏の聖水の湖をご覧になって来てはいかがでしょう?

宴もそろそろおひらきにしようと思いますので宿まで案内の者を連れてきますのでお待ちください」


教会の裏に回るとランタンの明かりが星明りに代わって急に暗くなった。

賑やかな声も小さくなり虫やフクロウの声が聞こえるようになった。


ゴクゴクゴク


酒の入った瓶だけをもってブラブラと湖まで歩いてきた。

聖水だというだけあってきれいな水には月が写っている。

湖に手を入れてみるとヒンヤリとして気持ちがよかった。

頭を冷やすにはちょうどいい。


ゴクゴクゴク


湖のふちを歩きながら酔いを回していくと気持ちが落ち着いていく。

いつも一人で酔っぱらっているせいなのか、みんなといるときよりも冷静になれた。

「オレは本当(・・)は、、、おや?」


黒猫が湖のふちに横たわっている。

弱っているようだ。

「おい。飲み過ぎたのか?あははは」


黒猫は顔も上げることが出来ないようだが目を閉じたまま口を開いた。

「聖水に、、聖水にやられたのニャ。水、、汚れた水をくれだニャ、、」

 

猫が喋った。

オレはお酒を黒猫に飲ませてやった。


ゴクゴクゴク


ゆっくりと ゴクゴクゴクとお酒を飲んでいく。

小さな体のわりにお酒が好きなようだった。


「助かったのニャ。借りが出来たのニャ。といっても人間には通じないのニャ」

「お前喋れるのか?」


猫は毛を逆立てると飛び起きてこちらに身構えた。

攻撃の姿勢だ。

「お前、私の言葉がわかるのか?」

「なに言ってるんだ?さっきから喋ってただろ?」

「私の名前はミリス、こう見えても魔物よ。

私の言葉は魔物の言葉なの、だから普通の人には猫の鳴き声にしか聞こえないのよ。

さすが勇者と言ったところね。ふふふ

今日は見逃してあげるわ。バイバイ~」


黒猫のミリスはオレの事をニートじゃなくて勇者だと思ったまま去っていった。

教会の近くまで戻ってみる。

足取りは重い。だってオレは、、、


ランタンがユラユラとこちらへ近づいてくる。

「勇者さまぁ~ 勇者さまぁ~」


若い女の声はランタンからだ。

もう一人はウオーマ神父だった。

「探しましたよ。宿の用意ができましたのでお休みになられてはいかがですか?

宿まではこの、リコリスを付き人に付けます。

シスター見習いなのですが、村に滞在している間はあなたの身の回りの世話係としてお使いください」


「初めまして勇者テックスさま。私はリコリスといいます。誠心誠意お世話をさせていただきますのでよろしくお願いします」


一目ぼれだ。

言葉やしぐさの一つ一つが可愛く思えてならなかった。

「ずっと この村に住みたい、、」

「え? いま、なんとおっしゃいましたか?」

「いいや。なんでもない」

「勇者さま。面白いお方ですね ふふふ」


思わず口から出てしまったがジョークだと思われたようだ。

宴はまだまだ続くようで人気のいない村の石畳の通路をリコリスと歩く。

リコリスが前。オレが後ろ。

可愛い顔が見れないのは残念だけど話しかけてみようか?

「なあ 勇者ってどんな存在なんだ?」

「勇者さまは召喚によってこの世に使わされた唯一無二(ユイイツムニ)の存在です」

「唯一無二?」

「実は 勇者を一度召喚すると再び召喚ができるようになるには勇者さまがお亡くなりになられてから100年の時が必要になるのです。

私たちはそれほどの長い時を生きることはできませんので、勇者さまの名前がテックスさまだと判明したときは心が踊りました。

そしての私の希望の光となったのです」


リコリスはこちらに振り向くと髪の毛の間からランタンで輝いた瞳をこちらに向けた。

それはオレに期待と尊敬の念を抱いているような瞳だった。

リコリスはきっとウソを突いたりしない、素直な子なんだろう。

ランタンをこちらに振り向けると後ろ向きに歩きながら話をつづけた。


「ですが 先ほどの勝負を私はみました。

それで思ったのです。

どうか、私を旅にお連れ下さい。

肉の盾となって、お役に立てるはずです」


ちょっとまて。肉の盾だって??

興奮気味のリコリスの口調はさらに早まった。


「この身も心もあなたに捧げます。

私をリコとお呼び、お使いください。勇者テックスさま」


オレの手を握り真剣な眼差しで見つめてくる。

爛々(ランラン)とした瞳に潤んだ唇。

少し興奮気味で呼吸の音が聞こえてきそうだ。

本当に死ぬことなんて恐れていないのかもしれないし、それだけの覚悟があるのなら逆に夜のマッサージぐらいなら頼めばしてくれるんじゃないのか?

一目ぼれした人が真剣なだけに心に深く突き刺さった。

テックス(・・・・)という言葉が。


「実は本当に事をいうと、アイビー」

「え?」

「だから 俺の名前はテックスじゃない。アイビーなんだぁ!」

「ええぇぇぇぇぇ!!!」


オレは間違えて召喚された。

ニートで酒好き、面倒くさがりのオレが勇者として召喚されるはずがない。

リコリスが憧れを抱いている勇者はテックスなんだ。

オレじゃない。

だけど ホレた弱みと言う奴だろうか?

童貞だけどウソは付けないと思ったし、オレにウソをつかせないなんてLOVE()の力は凄いと思った。

ニートの心の氷は初めて溶けたんだ。

リコリスの握る手に汗をかいているのが伝わってくる。


「私言いましたよね?次に勇者さまを召喚するためにはお亡くなりになられてから100年の時が必要だと」

「すまないと思ってる。でも勇者じゃないんだ。だから静かに暮らすよ」


もじもじと足踏みをするリコリス。


「だから。お亡くなりになられてから100年なんです」

「つまり?」

「アイビーさん、このことがバレたら村の人たちに殺されちゃいます」


死んでから100年後に再び召喚をすることが出来るという事は、つまり

1日でも早くオレがいなくなればそれだけ早く召喚が出来るという事。

100年後と言ってもさっきの宴の盛り上がり方を見る限り、村人たち、いいや。

世界中の人たちが待ち望んでいるに違いない。


「なあ リコリス。オレを助けてくれ」


必死に何度も頼み込んだ。

両肩に手を置いてさすったりもしてみたが、魂が抜けてしまったかのように

ふらふらとしている。

いつもは死にたいという言葉を口癖のように使っているオレだけど村の人たちに追い回されるイメージが脳裏を駆け巡る。


「ああ、、死にたくないんだ」


リコリスの体がピクン!と動いた。

魂が戻ったようだ。

今しかない。

「オレは神父の必殺技をはじき返したんだぜ。オレなら魔王を倒せる。

次の100年を待つか?それともオレに掛けるかどっちだ?」

 

「すこし、、考えさせて、、、。」


一言だけそう言うと再び宿に向かって歩き始めた。

村にしては立派な石造りの宿が見える。

花束も飾られているし、歓迎されている事はわかるがよく見れば宿ではなく倉庫だ。

大切な食料を保存する倉庫を勇者のために改装したのだろう。

建物の中はテーブルにタンス、そして3人ぐらいが寝れそうな大きなベッド。

などなど快適な部屋に改装されていた。


「ここって 倉庫だよね?」

「ええ やっぱりわかりますか?」

「いいや。外壁を見れば倉庫とわかるけど部屋の中は快適そのものだ」

「勇者さまをお迎えするのに失礼があってはいけませんから、何日もかけて改装されました」


会話をしながらリコリスはロウソクに火を灯していく。

ただ 少し高いところのロウソクは背が足りなくて届かないようだ。


キャ!


リコリスが転んだ。

するとシスターの服からは想像の出来ないような色っぽい下着が見えた。

ネグリジェってやつか?

まさか服の下に着る物じゃないだろう。

だけど 純真な性格の子なら勇者さまのために着てしまったりしないか?

そう考えると勇者さまが羨まし過ぎて、あのとき、あのまま黙っていたらどうなっていたのかと考えてしまう。

なんだか マタのところがモジモジしてきたぞ。

オレはベッドの上に座った。


リコリスは起き上がると身なりを整えて部屋の準備を終えた。

ドアの前に立つとこちらを向く。

「転んじゃった。もう少しで届くと思ったのに。

私ってお勤めをどんなに頑張ってもいつも少しだけ届かないの。ふふふ

部屋の準備は終わったから私は行くね。おやすみなさい」


「あ、さっきの事だけど」

「考えさせて、、」


どうやら 首の皮一枚でつながったようだ。

明日はどうなるかわからない。


ガチャン!


ドアの向こう側で音がした。

カギの音だ。

ドアを開けようと取っ手を引っ張ってみたけど開かない。

元々倉庫なだけに頑丈な作りになっているし内側にはカギ穴すら開いていなかった。


「喋らないよな。リコリス」


ゴクゴク


お酒の力を借りた。

神父の必殺技をはじき返したことは事実だ。

死なない方法は、オレが強くなるって事なんだ。

強くなる。

魔王よりも、勇者よりも、、ぐぅーぐぅー、、、。

深い眠りに落ちた。

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