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13♡崩れた信頼〈上〉

 ヴェルディアナは、エルヴィーノの館の庭でクラウディオを待っていた。

 身を低くし、茂みに隠れていたのだ。


 クラウディオはエルヴィーノと話をしている。その話の内容まではわからないが、大事な話だろう。

 もしかすると、その会話は身分や本当の名前のことに及んでいるかもしれない。それならば、クラウディオは双子の妹の存在も打ち明けたのだろうか。


 死んだと思っていた妹は生きていて、しばらくの間、入れ替わるハメになっていたのだと。

 エルヴィーノなら笑い飛ばしてくれるだろうか。そうであってほしい。


 クラウディオが生きていた以上、ヴェルディアナが男装を続ける意味はない。

 できれば、もうこんな男装ではなく、ちゃんとした装いでエルヴィーノの前に立ちたかった。


 それは、男ではなく女として見てほしいという気持ちがあるからかもしれない。

 そんな図々しいことを考えてはいけないだろうか。


 ギュッと胸の奥が熱くなる。

 するとその時、茂みが揺れた。茂みの中に人が入ってきたのだ。それも、二人。


 ヴェルディアナは驚いて硬直してしまった。

 しかし、二人組はヴェルディアナに気づいていない。


「会いたかったわ」

「俺も。一日中お前のことばかり考えてた」

「嬉しい!」


 思わず声を上げてしまいそうになったのは、二人がヒシッと抱き合って絡み始めたからだ。

 お互いを食べているのではないかと思うくらいの口づけを夢中で繰り返している。

 よって、近くに目撃者がいることにも気づいていなかった。


 ヴェルディアナは歯の根が合わないくらい驚愕して、そろそろと後ずさりながらそこから逃げ出した。


 あのままあそこにいたら、二人はどうなったのだろう。

 好奇心が首をもたげるが、もし続きを見てしまったら衝撃が強すぎて寝込みそうだった。

 それというのも、自分とある人に置き換えてしまいそうだから、そんな自分が嫌で寝込む。


 火照った頬を両手で包み込み、ヴェルディアナは人を避けて隠れられる場所を探した。

 しかし、人を避けようとすると、どこへ行っても人がいる。困ったヴェルディアナは門を出て外で待つことにした。


 とても心細い。クラウディオが早く話を終えて戻ってきてくれないだろうか。

 あの茂みに飛び込んだら大変かもしれないが。


 はぁ、とため息をついた。

 思えば、この国でヴェルディアナのことを護ってくれるのは、クラウディオとニコレッタの二人だけなのだ。

 エルヴィーノは、ヴェルディアナのことを兄だと思って接してくれている。すべてを告げて許しを乞わない限り、本当の自分をさらすことはできなかった。


 そんなことを考えていたら、ニコレッタの顔が見たくなった。クラウディオは黙って抜け出してきたと言った。

 それならば、クラウディオを捜しているのではないのか。妹の方の〈クラウディオ〉を。


 勝手に動いてクラウディオに捜させてしまうかもしれないけれど、クラウディオはヴェルディアナの半身だ。互いの行動の理由もなんとなく察することができる。

 ヴェルディアナがここにいなかったらまず、ニコレッタのもとへ向かってくれるだろう。


 ヴェルディアナは心細くてじっとしていられず、ニコレッタの館に向けて歩き出した。


 途中、道端に〈V→N〉と石で刻んでおく。

 ヴェルディアナはニコレッタのところへ行きましたという意味だ。

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