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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
9/70

笑顔の合唱コンクール 4

    13


 全校生徒が約三百人の葦花(あしばな)中学校。男女比はおよそ半々だから、女子が犯人だと断定するなら単純に言えば百五十人が容疑者となる。その日から、私の無謀ともいえる捜査が始まる。


 まずは安奈(あんな)さんの身の回りの調査だ。安奈さんの家族の方に、誰かに恨まれていなかったかなど聞ければいいのだろうけど、残念ながら安奈さんと私は仲が良かったわけではないので安奈さんの家に行くのは少し憚られる。


 だから学校で安奈さんと仲が良かった人にそれとなく聞いてみる……のは陰の私には無理なのでその人たちの近くに身を潜めて話を聞く。死んだ人の話をするのはやめる人が多いのでなにも情報が得られないのではないかと心配していたが、どうやら彼女の周りの人間には倫理観なんてものがない人が多いらしくばんばん情報が出てくる。


 安奈さんには彼氏がいてラブラブだったことや、皆からの人気者だったこと、そのほかにもいろいろな情報が手に入った。はじめは安奈さんの彼氏のことが好きだった女子生徒からの恨みかなとも思ったが、どうやらお似合いの二人だったらしく、その線ではなさそうであるということもわかった。


 そうなれば容疑者をしぼることもろくにできやしない。素直に明美(あけみ)に謝ってもいいのだけれど、私は明美を悲しませたくない。明美の期待に応えられる私でいたい。


 なんとかなるという精神は人生で意外と重要なのだ。


 ひとまず考える時間が私には必要だ。とりあえず今日の昼休みまでには考えよう。



    14


暗子(あんず)、暗子……、起きて……!」

「……うーん……?」


 顔を上げるとそこには明美がいた。


 朝チュン……!?!?!?


 飛び起きて時計を見るともう昼休みは終わりかけていた。

 あれ? 昼食は?


「もう、いつまで寝ているつもりなのかしら」

「……ごめん」


 少し怒ったような仕草を見せて頬を膨らませる。

 かわいい。


「今から合唱の時間よ、早く行かないとまた千羽(せんば)さんに怒られるわ」

「そうだね、行こう」


 誰もいない教室で、明美が待ってくれるという事実が私の気持ちを幸せにする。

 襲いたい衝動をぐっとこらえて、おとなしく楽譜を用意して音楽室へと二人で向かう。


    15


「明美さん、また声が出てないわよ!」


 発声練習のときにあまり声を出していなかった明美にこんな怒号を千羽さんが向けるかとも思ったのだが、今日はそんなことはなく、千羽さんもおとなしくしていた。


 いつもと違う千羽さんの様子にクラスの皆も不安に思ったのか今日の合唱の練習はいつもより静かだった。合唱の練習としてはふさわしくないくらいに。


 ひとり頑張って声を出していたのは明美だけだった。


    16


「今日は千羽さんに怒られなかったわ! 私の努力の結果ね!」

「よかったね」


 たぶん千羽さんが怒らなかった理由はそれではないのだろうが、そんな無粋なことは言わない。それに、明美が頑張っていたのは本当のことなのだ。


「それで、安奈さんを殺害した犯人はわかったかしら?」

「うっ……」


 痛いところを突かれる。その反応から明美も察してくれる。


「まだ時間はあるから大丈夫よ!」

「……ありがとう」

「そうね……、明日の昼休みまでかしら!」

「…………」


 無慈悲なことを言う。だけどそれだけ待ってくれれば良いほうだ。

 私はそのなかで最善を尽くす。


「今日は先に帰ってくれない?」

「あら、どうしたのかしら? なにか他の用事でも?」

「行きたいところがあるんだ」


    17


 探偵がいつもはじめにするのは現場検証だ。私はそれを失念していた。

 私は明美には先に帰ってもらい葦花階段へと向かう。


 私の通学路には葦花階段は入っていないのであまり通ったことはないのだが、なるほどこれは巨大な階段だ。生徒たちがここを通るのを嫌がるのもわかる。


 階段のいちばん上から見下ろしてみる。

 見ろ、人がゴミのようだ!

 ……はい。


 小さくしか見えないのは確かだ。なるほど確かにこれなら顔の判別などできるわけもない。五十段ある階段を下りながら考える。


 そういえば、ここで亡くなったのになにも検分など行われていないんだな。

 通行規制みたいなことも起こりそうだけれど。


 そう思いながら、階段の一番下から上を見る。

 見ると、人が降りてくるところだった。


「え?」


    18


 翌日の昼休み、私はある一人の女子生徒を呼び出した。

 彼女は、私が呼び出したとき、はじめは少し戸惑っていたようだが、素直に私の呼び出しに応じてくれた。


 私が彼女を呼び出したのは体育館の裏だ。別に彼女に告白をするわけではない。

 ただ彼女に聞きたいことがあったから呼び出しただけなのだ。


 予定の時間、彼女は時間ちょうどに現れた。


「なに? 私に愛の告白でもするの?」

「まさか」


 私は思わず笑ってしまう。

 その笑いを抑えた後に、彼女にこう聞いた。


「どうして――うちの学校の女子生徒が犯人だなんて嘘をついたの?」


 千羽さんはその問いを聞いて、今まで見たことのない笑みを見せた。


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