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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
8/70

笑顔の合唱コンクール 3

    10


 ピンポーンと明美(あけみ)がもう一度チャイムを鳴らす。一度では何の反応もないため、明美はもしもーしと言いながら何度もチャイムを鳴らす。何度も何度も。

 うちでこれをやられたら通報してしまうな、と思いながら楽観的にそれを見ていると、やがて反応が返ってくる。


「……警察を呼びますよ?」


 予想通りの反応だった。私でもそうする。

 だけど。


「おかしくないですか? 私たちは同級生としてプリントを届けに来ただけですよ? それともなにか後ろめたいことでもあるんですか?」

「…………わかりました」


 しばらくして足音が聞こえ、そして玄関が開く。

 そこには千羽(せんば)さんの母親らしき人物がいた。


「千羽さんはいらっしゃらないんですか?」

「今、寝込んでるのよ。もらったプリントはどれかしら?」


 インターホンには出られるのにおかしな話だ。

 これはまさかのまさかかもしれない。


「待ってください、今出しますから――!」


 私がわざとかばんを大きく動かしてこの女性の視界を一瞬さえぎり、そしてその間に明美が千羽さんの家の中へと一気に侵入する。


「ちょっと!!」


 その女性は明美を制止しようとするが、残念ながら明美を止めることは誰にもできない。

 もちろん私にも。


 その女性が明美を追って中に戻っていくので、私もそれについていく。どうやら千羽さんの部屋は二階にあるらしく、明美は千羽さんの部屋の前に立っているのが一階から見える。


「千羽さん? 三秒以内に鍵開けないと壊すけどいい?」


 そんな脅し文句が聞こえてくる。ふつうならこれで開けることはしない。誰もそれをしないということがわかるからだ。

 だけど千羽さんはそうは思わないはずだ。だって相手が明美だから。

 同級生はみんな分かっている。明美はそういう人間だって。


 がちゃっ。


 扉の鍵が開く。明美が中に入る。母親らしき女性はどうやら諦めたようで一階に降りていく。私は明美の後ろからゆっくりと千羽さんの部屋に入る。


 中にいたのは、明らかなパジャマ姿の千羽さんだった。しかし、その顔は心なしか青ざめているように見えた。


    11


「明美さんと暗子(あんず)さん? これ言っとくけど不法侵入だから」

「あら、あなたは部屋の鍵を開けてくれたじゃない? あなたは不法侵入者が入ろうとしたらおとなしくドアを開けるのかしら?」

「…………」


 ひどく気分を害したような顔をする千羽。だけど、彼女以上に私たちのほうが気分を害しているのは間違いない。なにせ同級生をただ尋ねただけで腫物扱いされたのだから。

 明美は、後ろに下がり私を前に出す。こういう役目はいつも私なのだ。


「千羽さん、今日はどうして学校を休んだの?」

「…………」

「もしかしてそれって安奈(あんな)さんが殺されたことと関係ある?」

「…………!」


 千羽さんはそれを聞いてベッドへと後ろから倒れこむ。


「やっぱりあれは安奈さんだったんだ……」


 あれ?

 千羽さんが犯人じゃないの?


    12


「私、昨日見ちゃったの。安奈さんが誰かに殺されたところを」


 千羽さんは観念したようでしゃべり始める。どうやら思ったのとは違ったようだが、有益な情報であることに違いはない。

 今日、千羽さんが休んだのは殺人現場を目撃してしまったショックからなのだろう。


「あれは学校帰りの、十六時くらいだったわ。いつも通り学校が終わって、家への帰り道。忘れもしない葦花(あしばな)階段を降りきったところだったわ」


 葦花階段と言うのは葦花校区のなかでもっとも大きな階段の名前だ。本当にそんな名前があるかは知らないが、みんなそう呼んでいる。五十段以上ある大きな階段なのだ。通学路の中に葦花階段が入っている生徒も数多くおり、その生徒たちは汗をかきながらいつも学校に来る。


「ふと、物音がして葦花階段の上を見てみたら、まさに……安奈さんが落ちてきている真っ最中だったわ」


 それは怖い。妖怪階段転がりだ。

 いや、意味がわからないけれど。


「それで、誰が犯人か見たのかしら?」

「いえ……、そのときは気が動転してしまってすぐにその場から離れてしまったから……。制服を着ていたうちの学校の女子だってことはわかったのだけれど」


 それじゃあさすがに容疑者が多すぎる。もし偽装のためにうちの学校の制服を着ていたという場合はお手上げだ。


「明美」


 こっそりと耳打ちをする。


「これだけじゃ、さすがに無理だ。ほかの目撃者がいないか探したほうがいい」

「……? なにを言っているの?」


 明美はこちらを向いてわざとらしく首をかしげる。

 そして満面の笑みでこちらを見る。見たことのないような悪い笑顔で。


「これだけの情報があれば、きっとあなたなら犯人を見つけられるわ!」

「…………!?」


 一瞬、なにを言われたのかわからずに固まる。

 そしてすぐに状況を理解する。


 どうやら私は、百五十人の容疑者から犯人を見つけなければならないらしい。


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