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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
59/70

それなりの自由 3

    7


「何か好きなものはないんですか?」

「自由な時間」

「外に行けばいくらでも自由な時間が手に入りますよ」

「嘘つけ。今の方が絶対自由な時間は多いだろ」


 そりゃそうだ。

 現実にはほとんど自由なんか存在しない。


「綺麗な女性に興味はありませんか?」

「そりゃあるに決まってる」

「外に行けばかわいいお姉さんがたくさんいますよ」

「どうせ俺には関係のない話だ」

「そんなのアタックしてみないとわかりませんよ」

「心にもないことを口にしちゃいけない」


 そりゃそうだ。

 自分が美男美女と付き合える確率なんてゼロに等しい。


「……お手上げです」

「はっ。お前は営業マンにはなれないな。提案の数が少なすぎる」


 リクが笑う。ソラも少し笑っていた。


「やっぱりこの人を仲間にするなんて無理ですよ。アナタが説得しようが明美(あけみ)さんが説得しようがこの人は動きませんよ」

「でも明美ができるって言ったんだ。なら私にはできる」

「明美さんが絡むと本当に強気ですよね……」


 大丈夫だ。私ならできる。明美が信じてくれた私ならできる。

 ちゃんとわかっている。例えば何かの取引をして無理やりこの人を外に出しても何の意味もない。


 この人が本気で外に出たいと思わなければいけないんだ。

 そのための理由づけを私がしてあげないといけないんだ。


 いや違うな。してあげるだなんてそんな傲慢な考えじゃいけない。

 私がこの人の本心を引き出してあげないといけないんだ。


 入学式のときに明美が私にしてくれたように。


「……やっぱりもうやめときましょう、この人を仲間に入れるのは無理です」

「やっと気付いたか? そうそう、もう諦めとけ。で、俺をもう寝かせてくれ。最近は一日十二時間は寝ないと気が済まないんだ」


 あくびをしながらリクが言う。

 寝すぎだろ。半日寝てるじゃないか。


「ソラ」

「何ですか? 暗子(あんず)さん」

「この町にいる能力者ってぜんぶで何人?」

「私の知る限りでは五人です。私とウミとトキと明美さん、そしてここにいるリクさんですね」


 そうか。じゃあこの人が仲間になってしまえばこの町を破壊するというのはこの町の全員の能力者が揃ったらということなのか。

 なんで明美はこの五人が揃ってからこの町を破壊すると言ったのだろう?

 別にリクがいなくても良いだろうに。


「何か理由があるのか……?」

「? 何か言いました?」

「何でもない」


 どうすればいいんだよ、まったく。


「あなたが仲間になろうとならなかろうとこの町は明美たちが破壊しますよ」

「それは無理だ」


「何でですか?」

「明美くんたちがこの町を破壊すると言ったんだろう? 彼女らにはそんな能力はない。その能力を持ってるのは俺だ。俺がいないと葦花町を破壊することなんてできない」


 リクが自信を持ってそう言った。

 私はリクに聞こえないように小声でソラに聞く。


「……そうなの?」

「さあ。私は明美さんとトキと私の能力しか知りませんから。ただ私たち三人には破壊するなんてそんな怖いことはできませんよ。鉄になるだけ、時を操るだけ、人を操るだけですから」


 三人とも十分に怖い能力だと思うけど。


「ていうか本当にこの人にしか破壊ができないならあんたが操ればいいんじゃないの?」

「無理ですよ。この人は操れないんです」

「そうなの?」

「ええ。操れる人と操れない人がワタシにはいるんですよ。あれ? もう気づいていると思ったんですけど」


 そう言えばあの学級会のときにそんなことを思った気がする。

 入ってきた校長先生の言動だけが普通だったのが気にかかっていた。


「じゃあ他の能力を持った人たちは?」

「誰も操れないです。人間は操れないのかもしれませんね……」


「ああ、あの病院の地下の生命体なら操れるのか」

「あくまで予想ですけどね。ちなみにですけど暗子さんのことも操れないです。操ることができていたら電車に突っ込ませていたんですけどね」


 ……今こいつさらっとひどいこと言わなかったか?

 聞かなかったことにしてやろう。


「ってことはやっぱり私は人間なのか」

「わかりませんよ? あの校長先生も操れませんでしたし」


 ああそうか。じゃあ絶対にそうとも限らないのか。

 いや、もしかしたらあの校長先生が人間という可能性も?


「おい」

「リクさん、なんですか?」

「放置するなよ」

「お?」


 ニヤニヤとソラがリクを煽る。


「可愛いところもあるんですね?」

「女子中学生に可愛いなんて言われてたら成人男性のプライドが傷つく」


「良いじゃないですか? プライドなんてムダですよ」

「バカ。確かに適当な俺だけど、プライドもなくしたら何も残んねえよ。子供になくて大人にあるのはプライドと金を稼ぐ力だけだ」


「最近の子供にはそのどっちもありますよ」

「そうなのか? なら大人と子供の区別なんて無いじゃねえか」


 私もこの会話に口を挟む。


「どういうプライドですか?」

「大人としての、男としてのプライドだよ」


「本当にそんなプライドあなたにあるんですかねえ?」

「どうしてそう思うんだよ」


「こんな風に女子中学生が頭を下げてお願いしてるというのにそれに応じようとしないなんてプライドがあるとは思えませんけど」

「ひとつ良いことを教えてやろう。自分の都合のいいときだけ自分の立場を利用するやつはろくな大人にならないぞ」


「明美が言ってましたよ? あなたが仲間になったらこの町を破壊するって」

「だからそれは俺の能力がーー」

「本当にそれだけなんですかね?」


 いける。もうひと押しだ。


「もしかして明美は皆で脱出しようとしてるんじゃないですか? 皆で脱出したいからこそあなたを仲間に引き入れようとしているんじゃないんですか?」


「なんでそう思う?」

「勘です」


「はっ。そんなんで人の意思が決められちゃたまったもんじゃねえよ」

「でもずっと明美と一緒にいる私の勘です」


 リクは少し黙った。考えているような様子を見せる。

 しばらくの沈黙のあと私に声をかける。 


「一緒にいるからってそれで全てがわかるわけじゃないんじゃない? ずっと一緒にいる人間だってひょっとしたら裏ではお前のことをバカにしているかもしれないぞ?」

「明美は絶対そんなことしません」


「何でそう言い切れるんだ?」

「私は明美を信じてるからです」


「はっ。恋は盲目だな。いいか? 他人っていうのは信用しちゃいけないんだ。信用なんかするから裏切られるんだぞ?」

「明美に裏切られるなら本望です」


 明美さんがワタシたちと仲間だって聞いたときにはえらく動揺してましたけどね、とソラが痛いところをついてくる。


 それは確かにそうだ。でも話を聞けば別に明美を私を裏切っていたわけじゃなかった。私を邪魔者として扱ったわけでも殺そうとしたわけでもなかった。

 むしろ私を助けてくれたんだ。


「裏切られてもいいと思うから人は人を信用するんじゃないんですか?」

「…………」


「だったらリクさんも明美を信じてくれませんか? 明美が皆で出て行こうとしているってことを信じてくれませんか? あなたのことを信じている明美のことを信じてくれませんか?」

「…………」


 リクは下を向く。

 そして少し笑ったあとにリクは立ち上がった。


「まあ……女子中学生に裏切られるのなら悪くない」


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