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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
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それなりの自由 2

    6


「別に良いじゃん。監視されてる社会でも良いじゃん。そもそも社会ってそういうもんでしょ。ルールが決まっててさ、誰かから監視されて評価されて。それが普通でしょ? わざわざこの葦花(あしばな)町から抜け出す必要なんてなくない?」


 リクは寝ながらそんな風に言う。


「この葦花町は世界の縮図だよ。ルールがあって、監視されて。普通の世界と違うのは生きていくのが楽だってことか」

「……生きていくの楽ってどういうこと?」

「そうか、お前は無能力者だったか。じゃあ知らないんだな。そもそもなんで普通の人間が明美(あけみ)くんたちのグループに入ってるのかは謎だが……」

「ま、まあそこはいいじゃん……」


 まさかまたあの話をするわけにもいくまい。


「明美くんが認めているなら良いんだろうが。俺たち能力者にはどこからかはわからないが生活費が毎月口座に振り込まれているんだよ。仕送りを貰ってる気分だ」


 そう言えば明美も私と二人で生活できるぐらいのお金を持っていた。

 なんでこんなにお金があるのか聞いたことはなかったがそういうことだったのか。


「実験をやっている人たちからお金をもらってるんだろうね」

「まあおそらくそうだろうな。俺は知らんが」

「……え?」

「なんだ?」

「誰からお金もらってるか知らないの?」

「ああ、知らん。ソラも知らないだろ?」

「わかりませんね。ていうかそもそも誰が実験を主導しているかも知りませんし」


 ……どういうこと?

 ソラの方を見た。


「私たち、昔の記憶ないんですよね。気付いたらこの町で生活してましたから」

「……!?」

「皆さんにも確認してますから間違いないです。明美さんも、トキも、ウミも、そしてここにいるリクさんも皆さん記憶がないんですよね。ちなみにアナタはどうです? 記憶はいつからあるんですか?」

「記憶……」


 私はできる限り自分の頭の中の引き出しを開けていく。

 だけど私の記憶はどうやらそこまで遡ることができない。


「入学式のときからしか覚えていない……」

「……なら暗子(あんず)さんも記憶が失われている可能性がありますね。どうなんでしょう? この町にどれぐらい人間がいるかは知りませんが記憶のある方はどれぐらいいるんでしょうか? というかそもそも人間がいるんでしょうかね?」

「……私に聞かれても知らないよ」

「そうでした」


 またこの町のことが明らかになった。皆、記憶をなくしている。

 私もそうだ。


 でもそれならどうして私はあの葦花中学校に行ったのだろう?


「おい、なんでも良いけどお前らだけで話すのならよそでやってくれないか?」

「おや? もしかしてお話に入りたいんですか? 女子中学生の会話に?」

「ちげえよ。うるさくて寝れやしないんだ」


 リクが気怠そうに言う。

 はい、そうですかと帰るわけにはいかない。


 明美が私を信じてくれたんだ。


「リクさん、びびってるんですか?」

「……は?」

「この町から出ていくのが怖いんですか?」

「……そんな程度の低い煽りで俺が、じゃあ出て行きます、ってなると思う?」


 そうだよな。もう相手は大人なんだ。

 それが通用するのは子供だけ。


「俺は今の生活で十分なんだよ。邪魔しないでくれ」

「本当に十分なんですか? 本当は満足できていないんじゃないですか?」

「……俺の話を聞いてくれよ。十分だって言ってるだろ?」

「『俺の話を聞いてくれ』って、アナタが言いますか……」


 ソラが半ば呆れたように言う。

 皆の話を聞いている限りはリクも他人の話は聞かないのだろう。


「俺は説教されるのがいちばん嫌いなんだよ。説教するやつってのは大半が優越感に浸りたいだけなんだ。自分の方が上だと認識するために、相手に対して自分が上なんだと確認するために説教してるだけなんだよ」

「…………」


「そんなことないよ」とか「きっと相手のことを思っての行動なんだよ」とか言うのが正解なのかもしれないが、心にもないことを言うのは好きじゃなかった。

 だって私もそう思うから。


「私も、そう思う」

「……え?」

「私も説教されるのは嫌い。それは怒られるのがイヤなんじゃなくて説教してるやつが腹立つから。こちとらお前より考えた結果の行動だっていう感じになるから」

「……」


 リクは無言で身体を起こして私の方を見た。

 そして少し嬉しそうな顔をした。


「……お前、話がわかるやつだな」

「どうも」

「何でお前は出て行こうとしてるんだ?」

「明美が出て行こうとしてるから」

「はっ」


 リクは笑う。


「お熱いこった。お前それ高校のとき付き合ってた人と同じ大学に行ったけどすぐ別れちゃって気まずくなるのと同じだぞ」

「その例えはちょっとわかりませんけど……」

「そっか。まだ中学生だもんな」


 ははは、とリクが笑う。

 どうやら少し心を許してくれたようだった。


「お前とは少しばかりは気が合いそうだけど俺は出ていかないよ」

「どうしても出て行きませんか?」

「もし出ていくだけの理由をお前が見つけてくれるなら考えてやるよ」

「…………」


 外には出たくない男。今でも十分幸せな男。

 さて、どうすればこの男は外に出て行くのか?


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