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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
55/70

病室ではお静かに 4

    7


「私が人間じゃなくて……ここにいる生命体と同じ?」

「ええ。私はそうじゃないかと疑ってるんだけど」


 そんなまさか。私は普通の人間ですよ。

 こんなよくわからないものと一緒にしないでくださいよ。


 と自信を持って私は否定をーーできなかった。


「あなたは自分の名前もわからないし、住む場所もなかった。ひょっとしてあなたの生まれた場所はここなんじゃないの?」


 私はーー何者だ?


「あなたがこの生命体と同じかどうかを確かめる方法なら無くもないわ」


 うろたえている私にウミが言う。


「……本当ですか?」

「ええ。あなたがそれを本当に確かめたいのならだけど」


 私は本当のことを知りたいと思っているのだろうか?

 私が本当に人間なのかどうかを知りたいのだろうか?


「……知りたいです」

「覚悟を決めるのがはやいわね」


 少し驚いたようにウミが言った。


 迷っていてもしょうがない。

 それに。


 私が人間だろうと、人間じゃなかろうと何も変化はないんだから。


「教えてください、ウミさん。私が人間かどうかを確かめる方法を」


「あなたがーー死ねばいいのよ」


「……え?」

「あなたが死ねばきっとこの病院へと運ばれる。この葦花(あしばな)町に病院はひとつしかないからね。そのときにこの部屋に運ばれるかどうかを確かめればいいの」


 二人の間に静寂が流れた。


「……本気ですか?」

「ええ。本気も本気よ。だからトキもあなたを殺そうとしていたの」

「!」

明美(あけみ)ちゃんに邪魔されちゃったけどね」


 そうか。トキは私が人間かどうかを確かめる意図もあったのか。

 そしてそれを明美に防がれたということなのか。


「さあ、明美ちゃんの病室に戻りましょう」

「……え?」

「もしあなたが死にたいと思っても明美ちゃんにどうせ邪魔されるわ」

「なんで明美はそれを邪魔しようとするんでしょうか?」

「あなたが大切だからじゃないかしら?」


    8


 私とウミは明美たちのいる病室に戻った。


「わかったかしら? この町にいるほとんどが人間じゃないって」

「……うん」


 嫌と言うほど理解した。この町の異常さを。


「そう。じゃあ本題に入りましょーー」

「ちょっと待ってください」


 ソラが私たちの会話に口を挟む。


「……なに?」

「明美さん、その話をする前にひとつ確認しなければならないことがあるんじゃないですか?」

「なによ。もったいぶらずに言いなさいよ」


暗子(あんず)さんが人間なのかどうかですよ」


 ソラが私を見て言うので、ほかの人もそれに続いて私を見た。

 明美だけはソラを見て呆れた声を出す。


「……言ってるでしょ? 暗子は人間だって」

「何を根拠に言ってるんですか?」

「根拠なんているのかしら?」


 その明美の言葉に、皆が明美の方を向く。

 私以外の人間は皆、不満そうな顔をしていた。


「それが証明できないなら、ワタシはこれからの話をするのは反対です」

「……面倒くさいわね。どう証明しろって言うのよ」

「じゃからワシが独断でこやつを殺そうとしたと言うのに……」

「そんなことしたら暗子が死んでしまうじゃない」


 バカじゃないの、と明美がトキに言う。

 ソラが痺れを切らして言う。


「じゃあどうやって暗子さんが人間だって判断したらいいんですか?」

「…………ん」

「え?」


 明美が口を小さく動かしたけど誰もそれを聞き取ることができない。

 皆が明美の言ったことを聞き取ろうとしたけど、明美は顔を赤らめるばかりで誰もそれを聞き取ることはできない。


「…………もん」

「もん?」


「暗子の唇は、柔らかかったもん!」


 明美がそう言った瞬間に私も俯いた。私の顔も赤くなっているのがわかる。

 ウミは私の方を見ながらニヤニヤとしていた。

 ソラは顔を赤らめると同時にトキの耳を塞いでいた。


 静かな空間でソラが咳払いをする。

 その咳払いで明美と私は顔を上げる。


「ま、まあじゃあ明美さんがそこまで言うのであれば暗子さんのことは信用してあげましょう。ただ、まだ子供もいるのでそういう話は控えてもらえると……」


 そう言われて明美はまた顔を赤くした。よく見ればソラの耳も赤くなっていた。

 それを見てソラも人間なんだなあと実感する。


「で、では明美さん。暗子さんに本題を……」

「わ、わかったわ……。暗子」


 明美は私の方を見るけど、私は明美の方を見ることができない。

 そんな私を見て明美もまた顔を赤らめて俯いた。


「…………」

「…………」


 そんな私たちを見てトキが痺れを切らした。


「いい加減にせんか、何をそんなに顔を赤らめておるか知らんがワシは遠回りがいちばん嫌いなんじゃ。ワシから話をさせてもらうぞ。のお、暗子」


 私はそう言われてトキの方を見た。


「お主もワシらの仲間にならんか?」


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