病室ではお静かに 2
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「ーー実験場?」
明美の言っていることの意味がわからずに、ただ復唱する。
だけど明美はそんな私を気にせずに説明を続けた。
「この葦花町は将来的にこの国の軍事力を成長させるための実験場なの」
「……ぜんぜんわかんない」
私は明美に聞く。
「どうしてこの葦花町と軍事力が関係あるのーー」
「本当にわからない?」
明美が私に言う。
「本当にわからない? わかろうとしてる?」
「……何が言いたいの?」
「本当はもうわかってるんじゃないの? この町と軍事力の関係が」
明美はまっすぐなーー悲しい目で私に言う。
なんでそんなに悲しい目をするんだろう?
この町と軍事力? この町、力……?
「!」
私はこの場にいる全員を見る。
その場にいる全員が私を見ていた。
まさか。
「まさか軍事力っていうのは……」
「ええ、そのまさかよ」
明美が周りの三人を見回してから私に言う。
「私たちがーー能力者が軍事力なの」
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「この葦花町で行われている実験っていうのは能力者たちが一般人たちと共存できるかっていう実験なの」
明美は悲しい声で言う。
「そのために私たちがこの町にいて、何の能力も持っていない人たちと一緒に暮らしているの」
「そ、そんな……何のために……」
「私たち能力者はあまりにも強大な力を持ちすぎている。そんな兵器がもし街中で急に暴れはじめてしまったらどうする? 他国に対する軍事力のはずが、自国を脅かすことになってしまう。そのためにこの実験を行っているのよ。兵器が一般社会に紛れ込んでも大丈夫かどうかをね。具体的に言えば私たち能力者たちが大量殺戮なんかを起こさないかどうかを監視しているのよ」
「か、監視……?」
「多少の殺人は許容されているわ。大事なのは社会に甚大な影響を与えてしまわないかどうかだけ。百人単位で人を殺した時点できっとこの実験はおしまい。私たち兵器は一般社会に溶け込めないものとして処分されるでしょうね」
あまりにも日常からかけ離れたその言葉たちに私の理解は置き去りにされた。
「わかったかしら? いいえ、きっとあなたならもうわかってるでしょう? たぶんそれはわかりたくないだけ。この町が虚構のものだと信じたくないだけ。あなたにも考える時間をあげる。ゆっくり整理すると良いわ」
そう言って明美はウミと話を始める。
「面会室で何をしていたの?」
「しりとり」
「あなたいつもそれね……」
「他に娯楽を知らないのよ」
なんて話をはじめた。
私は頭の中を整理しなければならない。
あまりに色々な事実が襲ってくるので一つずつ対処しなければいけないのだ。
まず、明美が彼らの仲間であること、そして彼らのグループ『自由渇望軍』の創設者であるということ。にわかに信じがたいことだが、よく考えてみれば『自由渇望軍』の活動がわからない。
明美はグループの目的を『自由が欲しかったから』だと言っていた。その意味、そして具体的にどんな活動をしているのかを教えてもらいたい。何でも具体性が必要なのだ。
そしてもう一つ、明美が言っていたこと。
明美たちがーー兵器?
確かにその能力は常人離れしたものだった。
明美は身体が鉄になり。
ソラは人を従わせ。
トキは時間を操れる。
ウミの能力はまだわからないけど、きっと常人離れしたものなのだろう。
そして彼らは今、この葦花町で一般人たちと同様に暮らしている。能力者と一般人の共存が可能かどうかの実験だと明美は言った。
つまり将来的にはこの葦花町だけではなくこの国全体に能力者が溢れ返るということだろうか?
それがこの国の軍事力なのだろう。常人離れした能力を持った人間たち。いや、人間なのか? そこもよくわからない。
そして明美たちが監視されているとも言っていた。
……監視?
確か『自由渇望軍』の目的は自由だった。
……監視の目から逃れることが自由に繋がるということか?
でもこの町が巨大な実験場だと明美は言った。
この町にいたままでは自由になれない。
「明美たちはこの町から出て行こうとしているの?」
「かっ」
トキが笑う。
「こやつの脳内はお花畑か、のお明美?」
「……暗子、違うわ。私たちの目的は確かにこの町から出て行くこと。こんな人を人とも思わない実験場から逃げること。でもただ逃げるだけじゃない」
明美が唇を噛み締めて言う。
「私たちでこの葦花町をーー破壊するの」
「破壊?」
「ええ、その名の通りこの地表ごとすべて破壊するの」
「でも、そんなことをしたらこの町に住む人たちがーー」
「あら?」
明美は首を傾げる。
「あなた、この町にどれだけの人間が住んでいるか知ってる?」
「……自分の町の人口なんか覚えてない」
「そうじゃないわ」
明美はまっすぐと私を見て言った。
「この町にいるのはほとんどがーー人間の形を模した『何か』なの」




