病室ではお静かに 1
裏切られても良いと思えないなら信じてはいけない。
信じるというのはそういうことなのだ。
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「どういうこと?」
「まあまあ、暗子さん。落ち着いてください。とりあえず椅子ありますからこちらにどうぞ。ウミも、ここにもうひとつ椅子があるから」
「ありがと、ソラちゃん」
明美はベッドに座り、その横にソラ、トキ、ウミが座り、そしてその人たちと向かい合うようにして私は椅子に座る。
「明美が、あなたたちの仲間って言うのは本当なの?」
「…………」
全員が明美の方を見る。明美はしばらく俯いたあと、私の方を見て静かにはっきりと言った。
「そうよ。私も自由渇望軍の一員だわ」
「!」
頭がクラクラする。
自由渇望軍は、ソラやトキ、そしてウミが加入しているグループの名前だとウミが教えてくれた。
そのグループの中にーー明美も入っている?
「なんで? いつから?」
「暗子、落ち着いて聞いて」
「ずっと私を騙してたの?」
問い詰めるような口調で明美に言う。
「……言っていなかっただけで騙していたわけではないわ」
「そんな屁理屈聞きたいんじゃない!」
ビクッと明美が反応する。
それを見てソラとトキはニヤニヤと楽しそうにしていた。
「ほれ言ったじゃろ? じゃからとっとと縁を切れと言うたんじゃ」
「トキちゃんは黙ってて。これは二人の問題だから」
ウミがトキを静止する。
「ワシをちゃん付けで呼ぶなといつも言うておるのに……」
「なにか言った?」
「なにも言っておらんよ」
なるほど。どうやらウミが言っていたことは本当らしい。
ウミならトキを従わせることができそうだ。
「私は自由渇望軍に所属している。これ以上の説明が必要かしら?」
「開き直り?」
「私は事実を言っただけよ」
どうやら明美が自由渇望軍に所属しているというのは本当らしい。
私は周りの三人を見回しながら言う。
「誰に脅されたの?」
「これはひどい言われようですね」
はは、と笑うソラ。
その笑い声にすら、今は嫌悪感が抑えきれない。
「もうちょっと良いことを教えてあげましょうか、暗子さん」
「……なに」
「自由渇望軍の創設者こそ、ここにいる明美さんなんですよ」
「!?」
明美がーーこのグループを作った?
私は明美の方を見る。
「……ええ。この自由渇望軍は私が作ったグループよ」
「……どうして?」
それは私の心の底から振り絞った疑問だった。
明美、どうして?
「自由が欲しかったから。名前の通りよ」
「……何なの? どういうことなのかはっきり説明してよ!」
「明美……」
私は頭を抱えながら叫んだ。
「はっきりしてよ! 思わせぶりな言葉で誤魔化して全然意味がわからないよ! ちゃんと私にもわかるように説明してよ!」
「…………」
明美は黙った。
耐えられなくなってトキが私たちの間に割って入る。
「お主、一方的に明美のことを責め立てておるが、お主も他人のことを言える立場なのかのお?」
「……どういうことよ」
「お主だってずっと自分を偽ってきたのではないか? 暗子などというもう死んでおる者の名前を騙って、ありもしない自分を演じてきたのではないか?」
「演じるなんてそんなこと! 私はーー」
「そんな素性も知れぬお主を家に住まわせてやった明美に対してそんな口の利き方をしてーー」
「トキ!」
明美が一喝する。
「いい加減にして」
「……すまん」
トキはウミに言われたときとは違い、あっさりと引き下がった。
「暗子、いちど落ち着いて私の話を聞いて。もしそれでもあなたが私のことを許せないと思うのならそのときはーー私のことを忘れて」
「…………」
「いいわね?」
私はその提案には首を縦にも横にも振らなかった。
そんな私を見て、明美は話し始める。
「この葦花町というのはただの町じゃないの」
2
私が言葉の意味を理解できずにいるとウミが明美に言う。
「明美ちゃん、暗子ちゃんに話しちゃうの?」
「……それしか方法はないわ。それに私は暗子を信じてるから」
ウミが少し不安そうに明美の方を見るが、明美は気にせずに話を続ける。
「あなたもきっとこの町のおかしなところに気づいているはずよ」
「おかしなところ?」
「あなたがニュースを見るときを思い出してみて」
「ニュース?」
「いつもーー葦花町のニュースしか流れていなかったはずよ」
「!?」
「おかしいじゃない? ここは日本でしょう? もっと全国で起きた事件とか、株価がどうだのそんなニュースが流れるのが普通だわ。でもこの町のテレビに映るのは決まって葦花町の事件事故だけ」
言われてみればそうだ。
私たちがニュースを見るときは決まって葦花町のニュースばかりだった。
「あなた、この町で高校生や大学生を見たことがある?」
「…………?」
「この町には確かに高校や大学は存在しないわ。それは別に珍しくない。だけどこの葦花町から高校や大学に通う高校生、大学生が誰もいないのよ」
「……それはまあ、ここから離れた場所に高校や大学があるから皆、引越しとかをするんじゃないの?」
「葦花町には電車が走っているじゃない。 わざわざ引っ越さなくてもこの場所から通えばいいはず。でも誰もそうしない。なぜだかわかる?」
「……」
わからない。明美が何を言いたいのかがわからない。
この町がーーわからない。
「あなた駅から電車に乗ったことがあるかしら?」
「ない。だってそんな遠くに行くことなんてないし」
「そうね。私も乗ったことがないわ。知らないだろうから教えてあげるわ。あの葦花駅にはね改札がないの」
「……誰でも電車に乗れるってこと?」
「いいえ、その逆。あの電車には誰も乗れないの」
「誰も乗れない?」
わからない。明美が何を言いたいのかがわからない。
この町がわからない。わかりたくない。
「あの電車はどこにも止まらずにただ葦花町をぐるぐると回っているだけ」
「……どういうこと?」
「そのままの意味よ。あの電車は何の意味もないただの鉄の塊。ただ電車の体をなしているだけ」
「なんでそんなことをする必要があるのさ」
「この葦花町が、普通の町だと錯覚させるためよ。あのね、暗子」
明美は私の方に向き直って言う。
「この町は、葦花町はーー巨大な実験場なの」




