しりとりコミュニケーション 3
7
「り、りんご」
とりあえず答えてみる。
「ご、ご……ごりら」
普通に答えられた。「る」攻めしないのか。
ゴールでよかったんじゃないのか。
「らっぱ」
こんな勝負で良いのか……?
いや、そんなわけがない。きっとウミにも何か意図があるはずだ。
「ぱ、ぱ、……ぱ、かー。良いところついてくるわね!」
「…………」
これ意図なんてないのかもしれない……。
で、なんで「ぱ」からはじまる言葉が出てこないんだ。
「……ぱ、ぱ、パイナップル! 危ない危ない。時間ギリギリだったわ……」
「…………」
というかこの人普通に弱いな。
「ぱ」だけで負けそうになるのか。
「ルール」
「まさか、あなた……!」
「? なんですか?」
なんだなんだ。もしかしてルールは英語だから禁止とかそういうルールがあったのだろうか。もしそれだったら私の負け?
「すみません、ルールがまずければ違うものにーー」
「あなた「る」攻めしてくるつもりね! 卑怯者!」
「「ぷ」攻めしようとか言ってた人が何言ってるんですか……」
この人、ひょっとしてただのアホなのかもしれないと考えていると、ウミが突然私に提案をはじめた。
「ルール変更を提案します」
「どんな変更ですか?」
「持ち時間はひとり十分にしましょう」
「……」
それは卑怯じゃないのか。
「別にいいですけど」
「やった。じゃあちょっとゆっくりさせてもらうわね。九分後に起こしてくれる?」
そう言ってウミは横になって目を瞑った。
……?
これ、私が起こさなかったら私の勝ちになるんじゃないのか?
そう思って静かに十分間待つ。
「……ちょっと起こしてって言ったじゃん! 危ないなー!」
期限の三十秒前に目を覚ますウミ。ちっ。
そのまま寝ておけばよかったのに。
「留守!」
「スキル」
「……そんなにはやく答えても大丈夫かな? まだまだ時間はたっぷりあるんだよ」
「別に待っても仕方ないですから。はやくこのゲームを終わらせて明美のところに行きたいですし」
「それは許さないわ」
今まででいちばん強い強い口調でウミが言った。
その眼力に私はその場から動けなくなる。
「今頃、明美ちゃんのところにはソラちゃんが行ってるんじゃないかな」
「!?」
「おっと、暗子ちゃんはここから離れちゃダメだよ。まだゲームの途中だから。十分以内に帰ってくるなら話は別だけど。でもそんなこともしてられないでしょ? どれぐらいでこっちに戻ってこれるかわからないんだし」
「くっ……!」
「まあまあ落ち着きなよ。ソラちゃんも別に明美ちゃんに手を出すわけじゃない。ただお話をしているだけ。私が今こうして暗子ちゃんと一緒にいるようにね」
ウミは立ち上がって、紙コップにお茶を入れてひとつを私のところに置く。
「正直、私はゲームなんてどうでもいいの。あなたと話がしたいだけ。あなたと二人きりになる名目が欲しかっただけなの」
自分のところにもお茶の入った紙コップを置いた。
「さあ、昔話をしましょうか」
8
「……昔話ですか?」
「そうよ」
ちらちらと時間を確認しながらウミが言う。
「それも桃太郎とか浦島太郎とか、そんな『むかしむかし』の物語じゃない。もっともっと最近のお話。『むかし』ぐらいのお話。明美ちゃんと暗子ちゃんを取り巻く災難の物語」
「私と明美の……?」
「ええそうよ。この葦花町で起こっていることが明かされる物語。聞きたくないかしら?」
私はその話を聞いて思わず息を呑む。
それは私にとっては願ってもない好機だったからだ。
今も私の頭の中を占領しているたくさんのクエスチョンをすべて消すことができるチャンスだと思ったからだ。
「……聞きたいです。いったいこの町で何が起こっているのか? 能力とは何なのか? そしてーーあなたたちはいったい何者なのか?」
「欲張りさんね。焦らなくてもちゃんと全部教えてあげるわよ」
ウミはそう言って私の顔を撫でる。
その手つきに色っぽさを感じて、抵抗することができない。
「でもその前に私もあなたに聞きたいことがあるの。それに答えてくれたならちゃんとあなたの疑問に答えてあげる」
「……私に答えられることならば」
「ありがとう。じゃあさっそく質問させてもらうわね。さっきあなた、私たちが何者なのか聞きたいって言ってたわよね?」
「はい」
「それを聞きたいのは私たちよ。あなたこそ何者なの?」
9
明美の病室にて。
「だっておかしいと思いませんか?」
「……………………」
「明美さんが暗子さんに一緒に住んであげてるから良いですけど、もし明美さんが暗子さんに出会っていなかったら暗子さんは住むところもなかったんですよ?」
「……………………」
「服もあの制服しか持っていないし、スマートフォンも持っていなかった。そもそもあの子の名前は何なんですか? 『暗子』という名前はそもそもあの子のものじゃないでしょ? 自分の名前が生徒のリストの中にないなんて、そんなことあると思いますか?」
「……………………」
その病室に赤いランドセルを背負った男児が入ってくる。
「なんじゃ、ずっと独りで喋っておるのか? ソラよ」
「違いますよ、トキ。見てわかりませんか? ワタシは明美さんに話しかけてるんですよ」
「明美はどう見てもぐっすり寝ておるではないか?」
「いえ、どう見てもこれは寝たフリですよ。ねえ、明美さん?」




