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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
47/70

しりとりコミュニケーション 1

 世の中には知らない方が良いことが多い。

 でもそれを知らないままで良いと思えるほど私たちは子供じゃない。


    1


 目を覚ますと、そこは明美(あけみ)の病室だった。時間は午前六時。

 入学式のことを思い出していた。明美と初めて会った場所。


 そこで私は明美に生きる理由を与えてもらった。

 明美の悩みを解決する。それが今の私が生きる意味だ。


 まだ明美の悩みが何なのか私にはわからない。

 だけどそれでもいいのかなと思う。私は明美のそばにいれるだけで幸せだから、解決できないならそれはそれで……、という少し(よこしま)な考えがないわけでもない。


「……あら?」


 眠っている明美の顔を笑みを浮かべながら見ていると、看護師の女性が病室に入ってきた。


「ごめんなさい。誰もいないかと思って私ったらノックもせずに……」

「いえいえ、大丈夫です。私こそすみません。すぐ帰りますから……」

「いても大丈夫よ。せっかく個室の病室なんだから」


 そう言ってその看護師は明美を挟んで私の向かい側に椅子を置いて座った。


「あなた、お名前は?」

「私は暗子(あんず)といいます」

「暗子ちゃんね。ちゃんと覚えたわ。あなたはこの子の恋人?」


 なっーー! 私は一気に顔が赤くなって否定した。


「違いますよ、友達です!」

「そんなに勢いよく否定されると逆に怪しくなるわね……」


 けたけたとその女性は笑う。

 私たちは恋人なんて間柄じゃない。確かに今は同棲をしているし、一緒に寝ることだってあるし、ハグをすることだって……。


 あれ? もしかしてこれって恋人なのか?


「まあ恋人じゃないってことにしてあげましょう。恋人や家族でもない人の病室に夜通し付きっきりで看病してあげて寝ちゃう人がいる可能性も確かにあるわよね」


 ニコニコと私に向かって微笑む。

 私はそれを見てまた顔が赤くなった。


「それにしても大変だったわね、明美ちゃん。交通事故に巻き込まれるなんて」

「……はい、ほんとに不運だったと思います」


 本当はトキの力によって無理やりトラックに跳ねられそうになった私を庇ってくれたのだけど、そんなことを説明しても誰も理解してくれないだろうから、そんなことは言わない。

 私はそこまでバカじゃないのだ。


「ねえ、私。すごい興味が出てきたわ。あなたたちのこともっと教えてよ」

「え、ええ……」


 この人えらくグイグイ来るなあ。

 私はその要求を拒みきれずに話せる範囲で明美とのことを話す。


「入学式のときにですね……」


    2


「じゃあ明美ちゃんは暗子ちゃんにとってのヒーローなんだ」

「そうですね……。私はそう思ってます」


 能力のことやそれに準ずることは話さずに話をした。

 入学式のこと。クラスでたばこが見つかったときのこと。合唱コンクールのこと。体育大会のこと。文化祭のこと。その他諸々。


「それにしてもテレビでも言われてたけどやっぱりこの町は呪われているのかしらねえ。不運なことがこんなにも重なるなんて」

「そうですね……。確かに呪われているのかもしれないですね……」


 私も以前思ったことだ。この葦花(あしばな)町は呪われている。


 でも最近は違う考えももっているのだ。ここまで葦花町で変な事件や事故が起きているのは能力者たちがこの町に多くいるからじゃないのか?


 だけどそんなことはこの人に言うべきではない。


「でも呪いっていつかは解けるものだと思いますよ。だからきっとこの葦花町もいつか普通の町に戻りますよ」


 私たちが能力者たちに打ち勝てば、きっとこの町での事件や事故も収まるはずだ。だからそれまでの辛抱だよ、とそんなことまで言いそうになる。


 私は大人はたいてい嫌いで、ましてや初対面だとめったに話すことはしないのだけど、この人相手だとなぜかついつい話しすぎてしまう。


 明美とは違うけど、少なからずこの人には私を安心させるなにかがあった。さすが看護師というべきか。

 その気持ちが彼女にも伝わったのか彼女は私に笑いかけて言う。


「私と話してると安心する?」

「え、……はい」


「よく言われるわ。色々な人にね。君と話していると安心してついつい話しすぎちゃうって」

「そうなんですか?」


「ええ。でもあなたも一緒だと思うわよ」

「え? 私も一緒?」


 私は困惑する。


「私、暗子ちゃんと話してるとすごい安心するの。こんなことないのに」

「本当ですか?」

「ええ。きっと明美ちゃんもそう思っていたんじゃないのかな?」


 そんなことはじめて言われた。少し嬉しくなる。

 もしかしたら明美もそうなのかもしれないと思うと、また口角が上がる。


「暗子ちゃんと話してたら明美ちゃんとも話したくなってきたわ。はやく目を覚まして欲しいわね」

「私も、そう思います」


「さすがは“鉄”の力ね。トラックに轢かれても意識を失うだけで済むなんて。身体には傷ひとつできていなかったのよ」


「本当すごいですよね」


 明美の命に別状がなくて本当によかった。

 今回は私が悪い。どう考えても私が明美に迷惑をかけてしまった。


 自分で勝手に行動するのはもうやめだ。明美とちゃんと相談してからーー。


「え?」

「トキちゃんもひどいわよね。暗子ちゃんを殺そうとしたんでしょ? そんな殺すなんてしないでもいいのに」

「え? え?」


 今、この人……?


「あら、いけない。つい暗子ちゃんと話していると安心してうっかり話しすぎてしまうわ。よくないよくない。今の話は全部忘れてちょうだい」

「???」

「そういえば自己紹介をしてなかったわ。


 私の名前はウミ。


 ねえ暗子ちゃん、私とゲームをしない? 今度こそ二人だけで」


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