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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
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はじめまして入学式 6

    12


「君、暗子(あんず)ちゃんか……。生きてたんだ……。よかったよ、死んだかと思ってた……」

「…………?」


「たぶん神様のお告げかな。今度こそ僕の愛を受け取ってくれるんだね。さっきは強引になっちゃったけど今度は優しくするからね」


 キモいキモいキモいキモい!!!

 こいつ本物の変質者じゃねえか! しかも「さっきは」って言ったか?


 こいつがあの暗子とかいうやつを殺した犯人なのか!


 あのクソ教師どもが六人も殺したのだからその中に暗子という女もいるのかと勝手に勘違いしていた。


 まさか教師たちとは別にもう一人殺人犯がいるとは!


「さあ、はやく僕の愛を受け取ってくれ!」


 そう言いながらその用務員はナイフを私に向けたままこちらに向けて走ってくる。私を明らかに刺しに来ていた。


 こいつの愛はナイフに込められているのだろうか?

 そりゃ暗子という生徒も死ぬに決まってる。


 あまりに突然の出来事に私はろくに頭を働かせることもできずに私は……諦めた。

 これが私の運の尽き。


 やはり運命は変えられないのだ。

 私は運命に身を任せて目を瞑った。


 でもやっぱり思うのだ。私は死にたくない。

 明美(あけみ)という少女に気づかされた。


 死んでも死にきれない。生きたい。

 私は目を開ける。くそっ、でももう間に合わないーー!

 


「っ…………!」


 しかし、金属がぶつかるような音がその場で響くばかりで私に刃は届かなかった。


「……?」


 私の前にいたのは明美だった。

 明美が――腕でナイフを受け止めていた。


「!?」


 その驚きは私だけのものではなかった。私も殺人犯も両方が驚いていた。

 驚きのあまり用務員の男はナイフから手を離した。


「なんだ……? て、鉄……?」


「待たせたわね、暗子」


 ナイフを拾いながら私を見て明美が言った。

 いや、私は暗子という名前ではないのだけど。


 だけどそんなことを言うことができないくらい驚いていた。


「なに見てるのよ、あなた」

「ひ、ひーっ……、化物っ!」


「はやく消えなさい」


 情けない悲鳴をあげながら用務員の男はその場から立ち去った。

 明美は私をゆっくりと抱きしめる。


「ごめんなさい……、あなたを助けに来るのが遅くなって」

「…………え」


 そもそも助けに来てくれるなんて考えていなかった。

 そんなことで謝られても私も困る。


 それより。


「は、犯人が逃げちゃう!」

「大丈夫よ。もう警察は呼んであるから。もう既に警察が校門の前で待機しているはずよ」


「え?」

「そのせいで遅くなったのもあるの」


 明美は私を抱きしめたままで言う。

 そうか、それならあの犯人は学校を出たところで捕まるだろう。

 校長先生の返り血をあれだけ浴びたのだから。


 でもそれだけじゃない。

 まだ私の頭の中のクエスチョンマークは消えないままだった。


「身体で刃物を受け止めていたのは……?」

「…………」


 明美は黙る。聞かれたくないところなのだろうか。


「言いたくないなら別にいいけど……」

「いえ、言うわ。あなただったら言ってもいいのかも」


 そう言って明美は私を抱きしめるのをやめる。

 そしてまっすぐ私の目を見て言った。


「私はーー身体の一部を鉄にすることができるの」

「身体を……鉄に……?」


 そんなことが可能なのか?


「ええ」

「な、なんで……?」

「それがいつからなのか、どうしてなのかもわからないけどね」


 私は動揺を隠せずにいた。

 はたして、私の前にいる明美はーーこの女は人間なのか?


「この中学校にいる間は誰にも話さないでおこうと思っていたけれどもういいわ」

「そんな秘密をどうして私に……?」


 明美は私の耳に口を近づけて囁く。


「あなたが、私を救ってくれそうな気がするから」


「…………?」


 私が明美をーー救う?


「何を言ってるの?」

「私には私なりの悩み事があるの。きっとあなたならそれをいつか解決してくれるって信じてる」


「その悩み事って何なの?」

「それは、あなたが考えるのよ」


 そう言って明美はイタズラに笑った。

 その笑顔が私は嫌いじゃなかった。


    13


 私は二度、明美に救われた。


 生きることを諦めた私。だけど明美に気づかされた。

 私は生きたい。


 どれだけボロボロになって傷つけられて理不尽に泣かされそうになっても、ボロ雑巾のように生きてやる。どれだけ擦り切れても紙一重で生きていく。


 明美のために生きていこうと思った。


    14


「ところで、あなたのことはこれから何て呼べばいいのかしら?」

「暗子でいいよ」

「それはあなたの名前じゃないでしょ?」

「いいよ。私にお似合いの名前だし」


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