はじめまして入学式 5
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「いったい誰が……どうしてこんなことを……」
やばい。体育館の中が完全にパニックになっている。
アナウンスで必死に落ち着くように言っているが誰も聞く耳を持っていない。
考えろ、私。他のところの段ボールは以前からあっても誰も不審に思わないかもしれないが、入口のところだけはおかしい。
私が体育館に入ってきたときには、あそこには間違いなく段ボール箱はなかった。警戒をしていたので間違いなくそのことは覚えている。
となると、あそこに段ボール箱を置いたのは体育館に入ってくるのが私より後だった人間のはずだ。ただ、生徒ではない。生徒が入ってくるときにあんな段ボール箱を抱えていたなら周りから不振の目に晒されることは間違いないだろう。
なら犯人は来賓か教師のなかの誰かだろうか。あるいは中学の用務員という可能性もある。入学式の間に段ボール箱を置いたと考えれば誰にもバレずにこれができるはずだ。
でも何でこんなことを……?
「……ん?」
待て? おかしいぞ?
校長先生は欠席がいないと言っていたよな?
じゃあ六個の頭は誰のものだ?
在学生? それとも教師? それとも……?
「ーーそれらの死体は担任教師に対して舐めた態度を取った生徒たちのものです」
アナウンスが響く。その声の持ち主は校長先生だった。
「この学校では殺人が許容されています。皆さんも気をつけてください」
そう言ってすたすたと校長先生は体育館を出て行く。
「おい!」
出入口付近にいた私は校長先生に乱暴に声をかけた。
私の声を聞いて校長先生はこちらを見た。
「何かね?」
「今の話は本当か?」
「なんだその口の利き方は。それが目上に対する態度か?」
「本当かって聞いてんだよこっちは! 答えろ!」
「……お前にも教育が必要なようだな。おい!」
そう言うと、校長先生についてきていた何人もの職員が私を取り押さえる。
私の腕を足を身体を押さえて、私は身動きが取れなくなる。
その後、校長先生はポケットからナイフを取り出した。
「いいか? 年上の人間が言うことは絶対だ。それに逆らったらどうなるか、今からお前の身体に刻んでやろう」
「くそが……! 離せよ!」
「暴れてもムダだ。もうお前があんな態度をとった時点でお前への処罰は確定している。後悔するならあの世で後悔するがいい」
「くっ……」
「まったく、最近の小学校は口の利き方も教えてくれないのか……」
「おい、よく聞けよじじい……」
「! まだそんな口の利き方を……!」
「お前が奪ったものがわかってるのか!? 確かに子供ってのは未成熟で未完成で、大人に反抗するし、ろくに勉強もしない! そのくせ掴めやしない理想だけ語って笑い合ってるだけの人間だ! だけど私らには未来がある! これからいくつもの理不尽を経験して、現実に打ちひしがれて、夢を諦めていく! だけど、それでももしかしたらって夢を見て、少しずつ夢に近づいて、幸せになるんだよ!」
「…………」
「死んだ彼らには何の罪もない!
お前が奪ったものは未来だ! 幸せだ! 社会だ! 希望だ!」
「……言いたいことはそれだけか? べらべらと、理想論ばかりの悲しい妄言だな。社会に出てからはそんな理想は通用しない。あるのは年功序列と理不尽だけだ」
そう言って校長はナイフを構えた。ちくしょう、ここまでか。
でもよく考えたらそれでいいのかもしれない。私は目を瞑る。
私の人生は本当はもっと早く終わっているはずだった。
それが一人の少女に生かされ期間が伸びただけだった。
校長の言う通りなのだろう。
きっと人生なんてこんなものだーー、と。
「!?」
目を開けると、信じられない光景を見る。
校長先生が男にナイフで後ろから刺されていた。
「ダメでしょ、校長先生。生徒殺そうとしちゃ」
「かはっ……!」
校長先生は血を吐いてその場に倒れた。嫌悪感が私を襲う。
ナイフを持って突っ立っているその男は用務員の装いをしていた。
「ほらほら、君たちもその生徒を離さないと殺しちゃうよ? 殺人なんて絶対にしちゃいけない行為なんだからね。ほら、はやく離して」
そう言われて周りの教師たちは私の拘束を解く。
「はいはい。はやくそれぞれ皆さん自分のクラスに帰りましょうよ。こんな風に先生だけが勝手な行動とっても子供はわからないですよ。大人がちゃんと導いてあげないと」
そうナイフを向けられながら用務員の男に言われて、教師たちは体育館の中で混乱している生徒たちに指示を与えるために中に戻って行く。
私はその中の教師の一人に体育館の中に戻されながら考える。
あの男は何なんだ? この学校の用務員であることは間違いないが。
殺人なんて絶対にしてはいけない行為と言いながら校長を殺し、ナイフを構えたまま避難するように指示をする。
頭がおかしいのか?
睨みながら体育館の中へ戻って行こうとすると、私だけその男に呼び止められる。ナイフを向けられながら。
「君! 君だけ残ってくれるかな?」
「わ、私……?」
「そう、君。他の人ははやく戻って。ほらはやく」
そう言われて教師は言いなりになって、私を置き去りにして体育館の中へ戻る。
え? 嘘でしょ?
これだから教師は信用できないんだ。
心の中で名前も知らない教師たちを恨みながら私は人殺しと二人きりになった。




