はじめまして入学式 3
4
「この子は新入生で間違いなさそうね……」
そう言って彼女は死体から名札をひったくった。
そして不思議そうにその学年と名前が書かれた名札を見る。
「これ……何て読むのかしら?」
「さあ。最近の子供は難しい名前が多いから……」
「確かにそうかもしれないわね。どうやら同じクラスの子のようだわ」
彼女はその名札を自分のポケットに入れた。
なんでだよ。
「この子はまだ殺されてあまり時間が経っていないわね」
「やっぱり犯人はまだ近くに……?」
「その可能性は高いでしょうね……。ほら、あそこを見て」
「……?」
そう言って彼女が指を指したのは一階の校舎の窓だった。
その窓は不自然に、ひとつだけ開いていた。
「……もしかして」
「ええ。たぶんこの殺人を犯した人間はまだ学校の中にいるでしょうね」
5
「何を冷静に判断をしてるんだよ! まだ被害者が出るかもしれないってことじゃないか!?」
「だから冷静に判断をしてるのよ。感情では何も解決できないわ」
「……あんたには心がないのか?」
「事件を解決する上で、最も必要のないものね」
くそ。なんでこんなにこいつは冷静でいられるんだ。
「とにかく学校の中に犯人がいるか探すわよ」
「は? そんなのしてたら、犯人と鉢合わせになったとき殺されちゃうじゃないか」
「大丈夫よ。私がいるもの」
「あんたは正義のヒーローか何かなのか?」
「あながち間違いでもないわね」
そう言って彼女は校舎の中へと足を進めていく。
犯人とは違ってちゃんと正規の手段で。
6
「でも、私……中に入れないんだけど」
「どうしてかしら? ああ、そういえば名前が名簿になかったんだっけ?」
「うん」
「じゃあこれでいいじゃない?」
そう言って彼女は手に持っていた何かを私の胸元につける。
「……よし!」
私の胸につけられていたのは先ほど死んでいた生徒の名札だった。
……なにがよし! なのか。
「さすがにこれは……」
「今は仕方ないじゃない。さあ学校散策のはじまりよ」
7
「どこにもいないわね……」
学校中を二人で回った。だけど怪しい人間はどこにもいなかった。
「もしかしてもう気づかれているんじゃないかしら? 私たちが犯人のことを探して回っていると言うことを」
彼女がそう言って、私たちは一度隠れたあとに後ろをパッと振り返ってみたりもした。しかし、何の成果も得られなかった。
「こうなると考えられるのは二つね」
「もう犯人が学校から出て行ったか、それとも。
犯人がーー学校の関係者か。
だよね?」
「……そうね」
彼女は少し意外そうな顔をして私に言う。
「あなたも乗り気になってきたわね」
「なっ、ちがーー」
「いいのよいいのよ。良いことだわ」
そう言って彼女は笑う。
「でも困ったわね。もし学校の関係者が犯人なら、いったいどうやって犯人を見つければいいのかしら?」
「そうだな……」
私は少し考えてみる。でもダメだ。
そんなのどうやっても考えつかない。
全校生徒が容疑者のこの学校から一人の犯人を見つけ出す。
いや、でも今日の入学式に来ているのはほとんどが一年生か。
「でもこのままじゃまずいわね」
「……なにが?」
「このあと、何があるかあなたわかってる?」
「そりゃ入学式でしょ? 今日はそのために集まってーー。……あ」
私は気づく。そうか今日は入学式なんだ。
「犯人がもし入学式で暴れたりでもしたらどうなるのかな?」
8
私たちは入学式に潜入するために大人しく自分のクラスに戻る。
私はそもそも戻るクラスがなかったのだけど、殺されていた女子生徒の振りをしてクラスに行く。
さっきまで一緒にいた彼女と同じ一年四組だ。
担任の先生が入ってきて出席を取り始める。
「えー、明美さん」
「はい!」
さっきまで一緒にいた子は明美というのか。
覚えておこう。
「えー、暗子さん……。暗子さん?」
「…………」
「暗子さん、いるじゃないですか。返事をしてくださいよ」
「あ、私?」
「なにを言ってるんですか。自分の名前もわかりませんか?」
「あ、すみません」
これ、あんずって読むのか。読めねえ。
とりあえずなんとか誤魔化せたようだ。
それにしても誰にも私が暗子という人間とは別人であることを誰にも聞かれることはなかった。この暗子という人間には友達がいなかったんだろうか?
そう考えると少し親近感が湧く。
「さて、それでは全員の出席を確認できたところで体育館へ行きましょう。入学式がはじまります」
さあ、ここからが正念場だ。




