事故には気をつけて 3
6
「すべての出来事っていうのは起きる可能性があるんだよ。空から百万円が落ちてくる可能性だってゼロじゃないでしょ? この世には絶対なんてないからさ、同じ踏切で同じ日に事故が二回起きることだってあるんじゃないかな?」
自分でも明らかに早口になっているのがわかる。
私の悪い癖だ。
「…………」
明美も私に疑いの目を向ける。私は耐えられずに明美から目をそらす。
するとそれに気づいた明美が私に聞く。
「ねえ暗子?」
「なんでしょう」
「なにか私に隠していることない?」
「ナニモナイヨ?」
「なんで急に片言になるのかしら?」
「ナッテナイヨ?」
「……まあいいわ」
明美は諦めたように視線を前方に戻した。
私も明美と一緒にニュースを見る。
今日も葦花町は不穏なニュースばかり。
7
次の日。私と明美はいつも通りだった。
いつものように話をするし、笑い合ったりもする。
だけどあの学級会のときの話はしない。
人が死ぬことに関しての話はしない。
それでも何も変わらない。普段からそんな話を明美としているわけではない。
いつも通り、二人で学校に向かい、学校についてから私は一人机で頭を伏せるだけだ。
ただ、クラスの様子がいつも通りなことが、私には普通だとは思えなかった。
だって昨日、クラスの中で殺人が起きているのだから。
もしかしてまだソラに操られているのだろうか。
でもそれにしては不思議なことがある。
あの校長先生の存在だ。
もし、校長先生がソラに操られていたとするならあの行動はおかしい気がする。
校長先生はクラスの中に入ってきて、驚いたあとに警察・救急車に連絡をした。そのあと、担任教師に対して説教をした。
あの行動がすべて演技だったのだろうか?
とてもそうは思えなかった。校長先生は本当に腰を抜かしてように見えたし、本当に怒っていたように見えた。
ということは、校長先生はソラに操られていなかったのだろうか?
もしかして、ソラには操ることのできない人間がいるのではないか? 明美やソラの能力にはもしかして制限があるのではないだろうか?
そんなことを考えていると新しい担任の教師が入ってくる。
何事もはじめが肝心だ。だから自己紹介ぐらいは聞いてやろうと思ったので考えるのをやめて話を聞く。
十秒後にはもう話を聞いていなかったけど。
8
今日の授業から何を学ぶこともなく、明美と二人で家へ帰る。
新しい先生の印象や今日の授業の感想なんかを話す。
ただ私たちは、帰り道にあの踏切を通らなければならないのだ。
昨日だけで二件の事故が起きているあの踏切を。
トキがいるであろうあの場所を。
頼む、いないでくれ。
私は昨日、明美にトキのことを話してしまっている。しかもトキはわかりやすい特徴がありすぎるのだ。
赤いランドセルを背負った男子小学生。
どこぞの学習教材の主人公にしかない特徴である。
そんな人間はたぶんこの葦花町には一人しかいない。
踏切が見える位置にまで足を進める。
いた。
遠目からでもわかる。どれだけ目が悪くてもわかってしまう。
私は明美がそれに気づかないことを祈りながら歩みを進める。たぶん無意識下で少しだけ早足になっていたことだろう。
進行方向に対して、明美は左側にいる私の方を見ながら歩いている。そしてトキがいるのは進行方向に対して右側だった。
頼むから気づかないでくれ。トキも明美も。
もし気づかれたら面倒くさいことになる。
私が明美にこの少年のことをちゃんと話していなかったこともバレてしまうし、また明美が能力者と出会ってしまう。
あの笑顔の明美はもう見たくない。
「…………」
よかった。
私の静かな祈りが届いたのか、明美がトキに気付くことはなかったし、トキもこちらに声をかけてくることはなかった。
通り過ぎてからちらと振り返ってトキの方を見てみる。
「っ!」
「暗子、どうしたの?」
「なんでもないよ!? うん! はやく帰ろう! 寄り道せずにまっすぐと!」
「……変な暗子」
トキ、こちらに気付いていた……?
明らかにトキはこちらを睨んでいた。だけどトキがこちらに話しかけることはなかった。
いやそれだけじゃない。トキは、踏切の事故はトキが起こした、と言っていた。なぜ今私たちを事故に遭わせなかったのだろうか?
もしかして、能力が発動するための条件が関係しているのか?
でもそうではないもう一つの考えも思いつく。
待てよ。よく考えてみればソラのときもそうだった。
ソラは確かに私のクラスで殺人事件、というか狂った学級会を決行したけど、決して私たちを殺そうとはしなかった。
そして明美に対してこう言っていた。『ワタシの仲間になってくれまれせんか?』と。
おそらくあの学級会の目的はそれだったのだろう。つまり、私と明美の仲違いだ。明美を仲間に引き入れるためには私が邪魔だから、ソラは私を明美のそばから排除しようとしたのだ。でもそれもうまく行かなかった。
確かに私は明美に少し恐怖を覚えたのも事実だし、今もあのときの話はできずにいる。でもはたから見れば、まったく仲が悪くなったようには見えないだろう。
そして、もしトキも同じ考えで明美を仲間に引き入れたいと考えていたら? 仲違いをさせることができなっかたから、もっと強硬手段で私を排除しようと考えてもおかしくない。
もしかして彼らは私をーー私だけを殺そうとしているのではないか?
だとすれば今、トキが私に話しかけてこなかったことにも説明がつく。明美も一緒にいるこの状況は都合が悪いのだろう。
もしそうなのだとしたら。
「次、私があの場所を通ったときに、トキがどういう行動を取るか、か……」
「なにか言ったかしら?」
「いや、なんでもないよ。そうだ、今日帰ってから買い出しに行ってくるね」
「あなた昨日も行ってなかった?」
「買い忘れたものがあったんだよ。帰り道に買おうと思ってたのにすっかり忘れてた。一回、荷物置いてからまた行くよ」
「わかったわ。気をつけてね。またあそこの踏切を通ることになるだろうし」
「心配してくれてありがとう」
これは明美に頼ってはいけないーー私の仕事だ。
9
「会うのは今日だけで二度目じゃな?」
「話してないのに会ったっていうのはどうなの……?」
「仕方あるまい。明美もあの場におったんじゃからなあ」
やっぱりそうだ。
「のお、暗子よ?」
「……なに?」
「ひとつ、ワシと勝負をせんか?」




