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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
36/70

事故には気をつけて 1

※注意

人が死にます(だいたい毎回死んでる)。

 あなたに好きな人はいる?

 その人のためなら命も捨てられると思えるほどの。


    1


明美(あけみ)くんもね、その昔人を殺しているんだよ。その鉄の力を使ってね』


 ソラに操られていた学級委員長にそう言われてから、明美とは話をしていない。

 というか私が明美の顔を見ることすらできていない。


 明美の表情を見るのが怖いのだ。

 明美が笑っている顔を見るのが怖いのだ。


 明美の笑顔を見たら、またあの光景を思い出してしまう。

 クラスの中で、平然と殺人が行われ、次々に人々が血を流し倒れ……。


 そしてその様子を笑顔で見守る明美のことが。


    2


「困ったな……」


 まだ明美と話せていないままだ。


 今日の狂った学級会のあと、明美とは一言も交わさずに家に帰った。

 家に帰ってのんびりしていていたのだけど、明美の隣に座ることもなかった。


 もしかしたら明美はこちらを向いて話したがっていたのかもしれないが、私にその勇気がなかった。


 そしてそのまま買い出しに出てきてしまったのだ。

 何も言わずに。


「初めてだよこんなの……」


 明美が何をしても、明美のことを好きでいるつもりでいた。

 明美に何をされてもずっと好きでいるつもりでいた。


 だけど。


「本当なのかな……。明美が……人を……」


 うっ。考えただけでも頭が痛い。

 もし本当に明美が人を殺したんだとして、もしその人が何の罪もない人であったとき。


 私はまだ明美を好きでいられるだろうか。


    3


 別に特別な日でもなんでもないけれど、明美の好物の刺身を買って帰る。

 特売の品だったというのもあるけど、明美と話すきっかけになればいいなと思ったからだ。


 帰り道。周りを見回しながら帰る。

 明美と話すためのきっかけが何かないかを探す。


 どんな些細なことでもいいから。そんな思いで辺りを見回す。

 でも見つかったのはそんな生温いものではなかった。


「キャーっ!!!」

「!」


 女の人の悲鳴が前方から聞こえた。

 たぶん何かが起きたのだろうけど、私にはどうしようもない。


 私は明美がいてくれないと何もできないのだ。


 だからその明美を頼ることができない今の現状ははやく解決しなければならない。


 そんなことを考えながら歩みを進めていく。


 そこで目にした光景は、もう警鐘の鳴っている踏切のなかにひとりの男の子が立っている状況だった。


 線路の外で子を連れた女性が何かを叫んでいる。

 でももう聞こえない。


 だってもう電車がそこまで来ていーー。


「…………」


 名状しがたい音が響いた。


「き、救急、車……」


 そう言いながらその子連れの女性は電話をかけ始める。

 私にはどうしようもないので、歩いていきその横を通る。


「はい……誰の子かはわからないんですけど……、はい……」


 少し取り乱した様子で電話をかけるその女性の横を通り、踏切の反対側まで進んだところで声をかけられた。


「おい」


 その乱暴な物言いに辺りを見回す。

 しかし誰もいない。


 気のせいか。最近、色々なことが起きすぎて私は疲れているんだろう。

 そう思い、再び歩き始めるがまた声をかけられる。


「おい! 呼んでおるのが聞こえんか?」


 いや、これは空耳なんかじゃない。

 声のした方を見ると、そこには赤いランドセルを背負った小学生と思われる男児がこちらを見て立っていた。


「お主は気が弱いだけでなく、耳も弱いのかのお?」

「あの……、君と私って知り合い?」

「初対面じゃ」


 ええ。これが初対面の物言いか? なかなかにひどい言い草だけど。

 ていうかなんだその喋り方。アニメの影響だろうか?

 それとも時代劇かな?


「ぼく、何の用かな?」

「ぼくではない。ワシにはしっかりとした名前がある。ワシの名はトキである。覚えておくが良い」

「トキくん? いい名前だね。で、何の用かな? もしかして迷子?」


 そう聞くとトキは黙る。図星かな?

 確かに迷子のときに迷子になったとは言いにくいもんね。

 わかるわかる。


 でもそうではなかった。


「えらい落ち着きようじゃのお? あちらさんの女性はえらく取り乱しとると言うのに」

「……!」


「お主、本当に人が死ぬのが怖いのか? とてもそうは見えんがな」

「な、何を言ってーー」


「お主も立派に狂っておるよ。お主もソラと同じじゃ」


 ソラと同じ? ソラ?


「お前まさかソラと同じーー」

「ああ。ワシも能力を持っておるよ」


「!」

「じゃが、それがどんな能力かは口が裂けても言わんがな。ワシはソラと違って用心深いんじゃ」


 そう言ってトキは私とは逆方向に歩き始める。

 私がそれを唖然として見ていると、トキは振り返りこちらを見て言った。


「ちなみに今の踏切事故はワシが起こしたものじゃから。ではな」

「!!! まーー」


 て、と言いかけたけど止まった。

 今、トキを止めたところで私には何もできない。


 私はトキの顔を忘れないようにしながら家へ帰った。

 明美に話すいいきっかけができた。


 私はほんの少しだけトキに感謝する。本当にほんの少しだけ。

 臆病な私は、こうでもないと明美と話せないのだ。


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