誰なら殺して良い? 5
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「どうした? 教えてくれないか? 君もはやくこの学級会を終わらせたいだろう? 君が言ったんじゃないか。殺しても良い人間と殺してはいけない人間がいると。ならいま君の前の生徒は断罪されるべきなのだろうか?」
「あ……、う……」
「ふむ。彼女はどうやら教えてくれないので他の生徒に聞いてみようか。……よし、君はどう思う?」
そう言われて一人の生徒が話し始める。
「私は今の生徒は断罪されるべきではないと思います。彼が殺したのは人殺しで、人殺しを人とは呼ぶべきではありません」
「ふむ。なら君はどう思う?」
「僕は今の生徒は断罪されるべきだと思います。彼が殺したのは確かに人殺しです。ですが人殺しだとしても人間なのです」
「ふむ」
その話を聞いたあとにまた学級委員長が私の方を見て言う。
「もう落ち着いたかな。では暗子くんはどう思う?」
「わ、私は……彼を、殺してもいい……とは思わない」
「ふむ。ならこれではどうだろう?」
「もうやめて!」
それは悲鳴にも似た叫びだったけど、洗脳済みの彼らには届かない。
今度は担任の教師が、先程の加害者の生徒を刃物で切りつける。
切りつけられた生徒は血を流し動かなくなった。
「これで彼は自分の生徒を殺した最悪の大人だ。でも殺された人間は人を一人殺した人間だよ。さあ、この教師は殺されるべき人間か? それとも殺されるべきではない人間か?」
「う……」
「どうした? さっきと状況は同じだろう? この教師は人を一人殺した人間を殺した人間だ。殺されるべき人間ではないと、さっきと同じようにすらすらと言うべきではないか?」
「う……、う、う……」
「それともあれかい? 教師が大人だから罪が変わるのかい? 教師が殺した人間が自分の教え子だから罪が変わるのかい?
おかしな話だと思わないか? 子供も大人も同じ人間だ。子供が子供を一人殺すことが許されるのなら、大人が子供を一人殺すことも許されるのではないか? 年齢で人間を不公平に扱うのか? そんなの不公平じゃないか」
「…………」
「じゃあ大人が大人を殺すのはどうだ?」
「!?」
パッと俯いていた顔を上げる。
教室の外には校長先生が来ていた。
「も、もういやだ……」
「君が明美くんといる限り、ずっとこういうことに君は巻き込まれ続ける。それでもいいのかい? こんなことが続いてもいいのか? 君の心は保つのか?」
「っ……」
そう言われて私は明美の方を見る。
その明美は。明美は。
明美は笑っていた。
「わからない……。私には何にもわからない…。わかりたくない…。知りたくない……」
「知りたくないからといって知らなくていいことを知らずに生きていけるほど世の中は甘くない。特に君のように茨の道に自ら足を踏み入れた人間はね」
校長先生が教室のドアに一歩ずつ近づいてくる。
ドアが開く前に学級委員長は私に言う。
「暗子くん、良いことを教えてあげよう」
「…………?」
「明美くんもこの教師と同じなのさ」
嫌だ。その先は聞きたくなーー。
「明美くんもね、その昔人を殺しているんだよ。その鉄の力を使ってね」
「…………!?」
「それでも君は明美くんを好きだと言えるのか? 明美くんのそばにいると誓えるのか? 君の嫌いなソラと同じで、明美くんもーー人殺しだと言うのに」
校長先生が中に入ってくる。
そして校長先生はーー驚きの声をあげた。
「ひ、人が死んでるぅ!」
「…………え?」
校長がーー驚いた?
「校長先生! 良いところに!」
学級委員長が声をあげる。
「担任の先生が急に暴れ出して三人の生徒を刺したんです! はやく救急車と警察に連絡を!」
「!?!?!?」
突然の言動に私は驚きを隠せなかった。
今、この男何と言った?
「そ、そうだな! おい! ムダな抵抗はするな! 大人しく刃物を置け!」
「……はい」
担任は言われた通りに刃物を置き、両手をあげる。
その間に校長先生は警察と救急車に連絡をする。
それが終わった後、校長先生は担任に聞く。
「お前が三人とも殺したのか?」
「はい。僕が殺しました」
「えらく素直だな。なぜだ?」
「日頃のストレスでつい。最近特に気が病むことが多かったですから」
「だからと言って人を、しかも生徒を殺して良いわけないだろうが!」
「……申し訳ございません」
なにが起きているんだ?
校長先生はソラの洗脳を受けていない?
今すぐに明美と一緒に考えたい。謎を考えたい。
だけど今は。
今は明美の顔を見ることができなかった。
15
そしてこれはまだ私が知らない話。
「あの二人気づいちゃいましたかね。ワタシにも従わせることができない人間がいることに」
「誰でも従わせられるのならお主は今頃、この国の全人類を殺してしまうんじゃあないか?」
「そんなことしませんよ。人を大量殺人鬼みたいに言うのはやめてくださいよ」
「ふん。大して変わりゃあせんじゃろ。ワシにはお主の気持ちはわからんのお」
ソラの横で話をするのは赤いランドセルを背負った男児だった。
その二人は別館にある体育館の屋上から一年四組の狂った学級会を見学していた。
「まあでも当分は彼女らに手を出すのはやめときましょう。関係に亀裂が入ったようですし、ワタシはもう疲れました」
「ほお。なら今度はワシが行こうかのお」
「あれアナタが行くんですか?」
「なーに。直接あの小娘どもにちょっかいをかけることはせんよ。ワシはお主とは違うんじゃ。ちょっとこの町の者どもに犠牲になってもらうだけじゃ」
「それってワタシのしたことと違いがあるんですかね?」
「ワシの方がまだ良心的じゃろ。だってこの町はそういう町なんじゃからな。お主は良心を持った方が良いぞ?」
「アナタに言われたらそうせざるを得ませんよーートキ」
トキと呼ばれたランドセルを背負った男児は体育館の屋上から飛び降りる。
「そうじゃ! 言い忘れておった」
「なんですかー?」
「さっきあの小娘どもにはちょっかいをかけんと言ったじゃろ?」
「ええ」
「もしあの小娘どもがちょっかいをかけてきたときは話は別じゃからな。もしワシがあの小娘らを殺めてしまっても文句を言うでないぞ。ではなー」
「!? できれば明美さんは生かしてくださいねー!」
ソラはトキが去っていくのを見送る。
「これはもしかして……暗子ちゃん、死んじゃうかな?」
まー仕方ないかー、とソラは呟いた。
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警察が来て一部の生徒が事情聴取を受けたそうだ。
学級委員長が意識がはっきりしているということで任意で警察に話を聞かれたらしい。事実とはまったく異なる供述をしたことは、その日の夜のニュースからも明らかだった。
でも私にとっての問題がひとつ。
明美。
帰り道。
私と明美は一度も口を開くことはなかった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
作者の女川るいです。
本格的に異能力者たちとの戦いがはじまりました。
不穏な敵もいましたね。いったいどんな敵なんでしょうか?
というわけで次回更新タイトルは「事故には気をつけて」
警察署とのコラボ案件です(大嘘)
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それでは明日からもよろしくお願いします。




