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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
31/70

誰なら殺して良い? 1

 私の幸せは私のもの。誰にも渡さない。


    1


「やーーーーーーっと学校がはじまったわ!」


 今日の明美(あけみ)はやけにテンションが高かった。

 それもそのはずだ。葦花(あしばな)中学校の休校がやっと終わったんだから。


「やっと私の日常が幕を開けるわ」

「……非日常の間違いじゃないかな」


 アプリ『葦花ストリート』の製作者ソラから、私たちは宣戦布告を受けていた。

 以前、電話で言われたことを思い出す。


『ワタシ以外にも力を持った人間がこの葦花町にはたくさんいます。きっとこの町で色々なことをしでかしますよ。多くの事件を引き起こしますよ。

 アナタたちが正義感を持って犯人捜しをしても無駄です。だって彼らは人間じゃないんですから。ワタシも。――アナタもね』


 まだ力を持った人間がいる。


 明美は“鉄”の力を持っている。

 そしてソラはーー人を自分の思い通りに動かす力を。


「そんなのズルすぎるだろ……」


 例えば、もしこの場にソラが現れて「死になさい」と命じれば私たちは死んでしまうということだろう。

 勝ち目がない。


 でもそんなソラが同じ学校に通っているというのだからまたおかしな話である。


「あのソラって言う人はそんなに有名な人なの? 誰かに聞くまでもなく彼女の名前を知っていたようだったけど」

「ええ。学年内でもかなり有名よ。変人としてね」


 明美はアプリ『葦花ストリート』の製作者のソラのことを、以前から知っていた様子だった。


「まだ一年生なのに学年中に名前が知れ渡っていることからもその変人っぷりは示されているようなものだわ。学年で知らない人はいないんじゃないかしら」

「そうなんだ」


 私は知らなかったけど。

 なんか仲間外れにされた感。


「そういえばそのソラって人は何組の人なの? 同じ一年生というのはわかってるけど」

「私もよく知らないのよ。名前とその変人っぷりだけは有名だけど」


 とそんな話をしていると誰かが私たちのもとに近づいてくる。


「やあやあこんにちは! こんなところでアナタに会えるなんて奇遇です!」

「!?」


 そう言いながらソラが私たちの教室に来る。


「……奇遇なわけないじゃない。あなたは少なくともこの一年四組の生徒ではなくて、ここは一年四組の教室なんだから」

「いえいえ、きっとこれは運命ですよ!」


 ソラは不気味なくらいにニコニコと笑っていた。


「何をしにきたのかしら? 私たちの命を奪いに?」

「まさかまさか。そんな物騒なことを言わないでくださいよ。命を奪うなんて一般市民のワタシにできるわけないじゃないですか」


 私はあきれて思わず口を挟む。


「……よく言うよ」

「あら! アナタもしかして暗子(あんず)さんですか?」


「そうだけど……。なによいまさら」

「影が薄すぎて全然気づかなかったですよ!」


 ぐさっ! 胸に刃物が突き刺さる。

 やっぱりこいつは人殺しだ!


「アナタがたーー特に暗子さんはワタシに敵意ビシビシ向けてきて、あたかもワタシが殺人犯みたいな態度を取ってますよね?」

「だって事実だもの」


「そんな証拠どこにもないですよ?」

「……は、はあ?」


 思わず笑ってしまう。


「あんたこの前電話で言ってたじゃない。『ワタシが犯人』って。あれでもう十分でしょ」

「いやいやいや。まさかそんなワタシの戯言を真に受けたって言うんですか? 頭おかしいんじゃないですか?」


 お前に言われたくはない。


「人を操るなんてそんなこと無理に決まってるじゃないですか。あのときワタシはちょっと頭がイカれてたんですよ。自分が犯人だと、自分には力があるんだと妄想で思っていたことを口にしただけじゃないですか」


 なんなんだこいつは。何が目的なんだこいつは。

 私が困惑していると明美がソラに聞く。


「で、あなたはわざわざ何をしにきたのかしら?」

「ヤダなー、友達のところに遊びに来るのに理由がいるんですか?」

「あなたと友達になったつもりはないから必要よ」


 そう言うとソラの顔からいきなり笑みが消える。

 そして口の端だけを上げて笑う。その笑みに私は恐怖を覚えた。

 そのあと、明美の耳元で小さくささやいた。


「今日、この学校で、しかもこのクラスで何かが起こりますよ」

「!?」


「正義のヒーローなら止めてみたらどうですか?」

「まさか、あなたがまた誰かを従わせているの!?」


「何を言っているかわからないですね。ワタシが人を従わせるなんてそんなそんな。ワタシは魔法使いじゃないんですから。それじゃあワタシはワタシの教室に戻りますよ」


 そう言って踵を返してソラは教室を出て行く。

 それまで以上に口角を上げていたのを私は見逃さなかった。


    2


「明美、どうするの?」

「どうするもこうするもないわよ。事件が起こる前に事件を防ぐ探偵なんて今までの長い歴史を見てもひとりもいないわ」


「じゃあ何もせずに黙ってなにかが起こるのを待つの?」

「まさか。そんなわけないじゃない」


 明美が私を見て笑顔を浮かべる。

 その笑顔はソラが見せた笑顔と似た笑顔だった。


「あなたが事件を事前に防ぐ歴史上はじめての人間になるのよ」


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