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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
3/70

未成年とたばこ 3

    5



「今、名乗り出れば許してやるぞ」


 先生はそう言う。許されるわけがないのに。

 大人というのは息を吐くように嘘をつく。

 だけどそれを信じてしまうような人間がたまにはいて、そしてそんな純粋な心を羨ましいと思ったり思わなかったり。

 ……明美(あけみ)がまさにそれなのかもしれない。


「いないか? 警察にこれを突き出せばお前らの中から犯罪者が出るぞ?」


 先生がさらに脅しをかける。

 先ほどまでのざわざわした雰囲気はそこにはなく、教室はすでに沈黙に包まれていた。

 するとひとりの生徒が名乗りをあげる。


「聞いているんだろ? 犯人よ! 名乗りをあげたらどうだ!?」


 しかしそれは自供ではなく、隠れている犯人に自首を促すためのものであった。

 自首を促したのはこのクラスの学級委員長だった。


「ほら! 君か? それとも君か?」


 周りの生徒を次々と指差しながら犯人かどうかを問いかける。

 とんでもなく失礼な行為だと思うけど、それ。

 明美もいつ指を差されるかとびくびくしていた。なにも悪いことをしていないのだから堂々としていればいいのに。

 でもその姿からも、明美が犯人でないことは容易にわかる。


 悪意をもった本当の犯罪者というのは、堂々と日常に溶け込んでいたりするのだから。


「それとも君か!?」


 学級委員長がある生徒に指を差したとき、クラスがより一層の静寂に包まれたような気がした。

 学級委員長が指を差した先にいたのは、このクラスの問題児のひとりだった。

 その問題児は、私の目から見ても確かにたばこを吸っていてもおかしくないと言えるような風貌だった。耳にはピアス、髪の毛の色は金色。もちろん地毛ではない。

 シャツは常にズボンから出しているし、今だって足を机にかけている。


「あぁ?」

「君がたばこを吸っている犯人ならば今すぐに自首したまえ!」


 学級委員長はその問題児に臆することなく言った。

 よくそんな風に堂々と言えるもんだ。

 私なら絶対無理。

 というかそもそも関わりたくない。


「ちげえよ、俺じゃねえ」


 その問題児は気だるそうに吐き捨てる。

 しかし学級委員長は食い下がらずに、再び問題児に尋ねるのだった。


「本当か? 君がたばこを吸っているという噂を耳にしたことがあるぞ」


 噂で人を疑うのはどうよ。

 だけどそれを聞いて担任の先生も問題児に、本当か? と尋ねる。


「ちげえって言ってんだろうが!!!」


 おーこわい。

 その問題児は、いちど足をあげてから、それを机に強くたたきつけた。

 そんな態度や見た目じゃ余計に疑われるだけなのにね。


「そ、そうか……。なら君は!?」


 性懲りもなく指差し確認を行う。

 そんなんじゃ誰も名乗り出やしないって。

 学級委員長なのに頭は弱いのかな?


「なぜ誰も名乗り出ないんだっ! 君がやってることは立派な犯罪なんだぞ!」


 犯罪と分かっているならなおさら名乗り出ないのでは?

 あー、ツッコミたい。

 でもツッコミを入れてやるほど学級委員長とは仲がいいわけではないのだ。


「わかった。それがお前らの答えなんだな」


 そう言って担任の先生は黒いファイルを強く教卓にたたきつける。

 そして宣言した。


「いいか? これはなにも当事者だけの問題じゃない。クラス全体の雰囲気だって関係している。その馬鹿野郎の友達がやめろと言ってやれないのだってそうだ。やめるべきことはやめろと言ってやるのが友達じゃないのか?」


 ご高説をいただきました。

 それなら担任の先生も責任をとっていただきたいのだけど。


「もし今、言い出しにくいのであれば後で言いに来い。期限は今日までだ。それじゃあ連絡事項に移る。明日は…………」



    6



「私、正直に先生のところに言いに行ってくるわ」


 明美がそう言いだしたので私は当然それに反対した。

 だけど明美は私の声には耳を貸さず、先生のところに行くと言って聞かないのだ。


「大丈夫よ、別に私が本当にたばこを吸ったわけじゃない。私がたばこを触ってしまったことを打ち明けるだけよ。私が捕まるようなことはないわ」

「そのことは別に心配してないけど……」


 やっぱり明美は真面目な性格なのだ。

 私は別にそれを否定したりはしないけど、損をしそうだなと思う。


「それより、犯人を見つける方法は思いついたかしら?」

「あ」


 完全に忘れていた。


「もしかして忘れていたのかしら?」

「いやぁ……。あはは……」


 笑うことしかできない。私は明美の役に立たなければいけないのに。

 それすらもできないなんて私に生き――。


「大丈夫よ、心配しなくていいわ」


 急に明美に抱きつかれる。

 いい匂いが私の鼻に入り込み、ついすべてを忘れてしまいそうになる。


「あなたにはきっともう犯人がわかってる。だけど意識がそこに追いついてないだけよ」

「…………」


 いや、勝手に決めつけられても困るのだけど。

 だけど明美が私を信じてくれているのだ。

 私がそれに報いないでどうする。


「今日の帰りの会でいろいろなことが起こったわ。あの中にきっとヒントがあるはずよ」


 そして明美は私の目を見て言う。


「他の誰でもない。あなたが犯人を見つけるの」

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