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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
29/70

物語のはじまりと宣戦布告 4

    9


「ムチャクチャじゃないかそんなの!?」


 思わず声が出る。

 けど電話に出ているのは明美(あけみ)で、私の声は制作者には届かない。


「とにかくその候補の場所を全部教えてくれるかしら?」

「わかってますよ。さっき言いかけてたんだからちゃんと最後まで聞いてくれればもっと楽に終わったのに。じゃあ言いますよ」


 私はメモを用意する。制作者が言った場所は以下の十箇所だった。


葦花(あしばな)階段

・葦花中学校

・葦花小学校

・葦花幼稚園

・葦花保育園

・葦花駅

・葦花公園

・葦花公民館

・葦花町役場

・葦花商店街


「こんなの事前に止められるわけがないよ!」


 十箇所の中から制作者もわからないレアモンスターが出るであろう場所を予測して、その犯行を止めるなんてムリだ。


「明美、もうこの事件に関わるのはやめよう。そのうち警察がこの辺りに規制をはるはずだ。それを待とう。私たちにはもうどうしようもない」

「…………」


「むしろ私たちが犯人扱いされる危険性もある。現場をかぎまわっていて、それを目撃されちゃえば私たちが犯人だと誤解されかねないよ!」

「…………」


「もう次のレアモンスターが出るまで時間がない。次の犠牲者が出るのは仕方ないかもしれない。だからもうそれ以上被害者を出さないように警察にこのことを話して――」


 ぱちんっ!


「……!?」

「あら、ごめんなさい。つい」


 明美は不思議そうに自分の右手を見る。

 私は私の左頬に手を当ててみる。少し熱い。

 それもそのはずだ。


 だって明美にビンタされたのだから。


「なんで……?」

「……自分で考えなさい」


 そう言って明美は私を突き放す。

 いやだ、行かないで明美。


「きっと最近いろいろなことがあったのがよくなかったのね。あまりにもあなたは非日常に慣れすぎてる」


 明美は一歩、また一歩と近づいてきてビンタしたところ――私の左頬に優しく触る。


「人は変わるわ。それがいいことかわるいことかはわからない。でも時間の流れと共に人は間違いなく変わっていくの。それでも――」


 私の左頬に触れていた明美は、その手を離して私に言う。


「どれだけ変わっても変えてはいけないものがあることを忘れないで」


    10


「とにかく私は警察に連絡をするわ。メモを貸して」

「あ……あ……」


 私は頭の中が整理できずにメモを持ったまま固まっていると、明美が嘆息したあとに私のメモを取る。

 でもそれはさっきまでの言葉とは明らかに違って、私を傷つけないような優しい取り方だった。


 それでも今の私の心はどうしようもなく涙を流していた。


    11


「さあ考えなければいけないことはいくつもあるわよ」

「……うん」


 私と明美は部屋に戻る。


「今はとにかく事件のことを考えましょう。他のことは後回しよ」


 正直まったくそんな気分にはなれなかった。

 なんで私が明美にビンタをされてしまったのか、なんであんな風に明美は私を傷つけたのかを考えたかった。


 でも今は事件のことを考える。

 これ以上、明美に嫌われたくなかった。


「とりあえず指定された場所については警察にちゃんと伝えたわ。でもまだまだ謎が残っているの」

「そうだね」


「例えば公民館での事件。どうやって犯人はあの殺人を行ったのかしら?」

「私たちが奥の部屋を見るときに、死体があった部屋をちらっと見たけどそのときには死体はまだなかった。でも奥の部屋を出たときにはもう死体が倒れていた。ということは私たちが奥の部屋であたふたしている間に殺人が行われたと考えるのが妥当だろうね」


 今は二人、向かい合って座っている。

 普段は隣に座るのだけど、こういう話をするときは向かい合って座ると決まってる。


「でもそう考えるとおかしなことがあるわよね」

「そうだね。――音」


 あの公民館はもうボロボロになっていた。

 部屋を歩けば床はミシミシときしむし、ドアの立てつけも悪くなっていた。


「もし本当に私たちが奥の部屋にいる間に殺人が行われたならもっと色々な音が出ないとおかしいわよね。人が倒れる音や外に出ていく音とか」

「でもそんな音はしなかった。ということは考えられるのは、あれが自殺だったということ、もしくは――まだ犯人が部屋の中にいたか」


 たぶん自殺よりは部屋の中に残っていた可能性が高い。

 自殺であれば人が倒れる音がするだろう。音が出ない自殺として、すでに横になった状態で自分を刺し殺したかもしれないけど、まあそんな自殺の仕方はないだろう。


「ということはあの死体を確認したときもあの部屋の押入れの中で息を殺して待っていたと言うことかしら?」

「たぶんそういうことになるだろうね」


 想像するだけでも怖い。


「私たちが公民館を出た後に何食わぬ顔で公民館を出ていき、商店街に向かったということかしらね」

「あれ。でも待って?」


「どうしたのかしら?」

「確か私たちが公民館を出たときにもうパトカーは近くまで来ていたよね?」


 はやいなと思ったのをよく覚えている。


「じゃあいつ犯人は公民館の外に出ていったんだろう?」


    12


 テレビで事件の続報が流れる。

 この葦花町で起こった三つの事件。


 葦花公園での第一の事件。

 葦花公民館での第二の事件。

 葦花商店街での第三の事件。


 そのすべてで、被害者の死因が自殺と判断された。



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