インタビューとでっちあげ 5
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「彼は電車に自ら飛び込んだ。でもそれは自殺というわけじゃない。他殺だ。彼を包み込む幸せな環境が彼を不幸に突き落としたんだ」
「意味がわからないから、もっとわかりやすく説明してくれないかしら?」
明美は男に果敢に攻め込む。私はその後ろで情けなく身を隠すことしかできない。
「……お前らはいつもそうだ。自分でわかろうとする努力をしない。わからなければ、考えろよ。考えて考えて考え抜けよ。わからなかったら誰かが教えてくれるなんてそんな甘い考えだからダメ人間になっていくんだろ」
「あら急にどうしたのかしら? 私はさっき言ったことの意味を教えてくれと言っただけよ。それをあなたの語彙力が足りないことを言い訳にして説教じみたことを言われても私はただ困惑するしかないわ」
「ちっ!」
男はあからさまに腹を立てた様子で自分のポケットに手を突っ込む。
ポケットから出てきた右手に握られていたものはナイフだった。
「!?」
「これでわからせるしかないのかな……。お前らも一緒かあいつと」
「それは自白ととっても構わないかしら?」
「別にいいぜ。どうせお前らは誰にも伝えられないからなあ!」
そう言って男は明美に斬りかかる。私はそれがこわくて目をつぶる。
だけど明美は微動だにせずにその男のナイフを受ける。
ナイフは明美の身体を傷つけることはできずに、男の手から離れた。
「……え?」
男はナイフを明美に突き立てたその衝撃と、予想外の出来事にその場に後ろから倒れ込む。
明美はそのナイフをひろい、私に渡した。私はそのナイフを決して離さないように握りしめておく。
「困るのよね。あんまり勝手な行動ばっかり取られると」
「なんだお前……? 身体が鉄みたいに固く……?」
「私の日常を壊されるのは本当に困るのよ。私はただいつも通り過ごしたいだけなのに、いつも周りの人間が私の邪魔をする」
「やめろ、近づくな……!」
「あなたのやったことはとうてい許されない行為よ。日常の象徴ともいえる中学校を休校に追い込み、あまつさえクラスメイトの殺害まで。そして私をも殺そうとする。こんなののどこが日常なのかしら」
「ひっ――」
そして明美は男の顔――のすぐ横を思いっきり足で踏みつける。
コンクリートで固められているその道路は、明美の足で簡単にひびが入った。
「消えて。今すぐ自首をして。二度と私の前に顔を出さないで」
「ば、化物ーー!!!」
そう捨て台詞を吐いて男は消えていった。
「はやく買い物に行きましょ。ナイフはその辺にでも捨てておけばいいわ」
そう言って明美はなにもなかったかのように歩き出す。
私はそのあとをついていくだけだ。
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私たちがまだ知らないことがひとつ。
明美と男のやりとりを見ていた人間がひとり。
「ふーん……」
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「結局あのインタビューはどういう意味だったんだろう?」
明美とすき焼きの鍋を囲みながらそんな話をする。
「謎のままね。でもたぶんなんの意味もないんじゃないかしら」
「意味がない?」
「きっと彼は……いえ、やめておきましょう。せっかくのすき焼きがおいしくなくなってしまうわ」
今はとりあえずふたりともただ卵に鍋の具材をつけるだけの生き物になっていた。
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締めはおじやの気分だわ、そう言ったのは明美だった。
いつもはうどんだったのでうどんも用意していたが、冷凍のご飯があったのでそれを取り出す。
私がおじやの準備をしていると明美が言う。
「たぶんあのインタビューの言葉には意味なんかなかったんじゃないのかしら。きっと彼は目立ちたかっただけなのよ」
「なんでそう思うの?」
「だってあの人、わざわざ学年全員の家に謝って回っているって言っていたのよね?」
「うん」
「ふつう、そんなことするかしら。今は便利なものがいくらでもあるのに」
明美はそう言ってスマートフォンを取り出す。
「そっか。メッセージで一括で送れるもんね」
「ええ。それなのに皆の家に謝って回るなんて、まるで僕のことを認知してくださいって言っているようなものじゃない?」
確かに。わざわざ謝って回るだなんて謙虚な人間だと思ったが、そんな面倒なこと一般的な人間ならごめんだろう。
「くだらない人生ね。そうまでして目立ちたいものかしら?」
「世の中にはいろいろな人間がいるからね。私にはわからないけど」
私はねぎを切りながら考える。
「あれ、でもじゃあなんで仲の良かった友人を殺したんだろうね」
「ほんとに殺したのかどうかも怪しいわよ。だってその友人は電車に轢かれて亡くなったんでしょう?」
「らしいね」
「じゃあナイフなんて持ち歩く必要なんてないじゃない」
「……ほんとだ」
「まあ刺してから電車に轢かせたっていう可能性もあるけどね」
明美は鍋の蓋を開けて卵を流し込む。
「まああなたの推理の通り告白に失敗したから殺害したんじゃない? きっとB君がA君を振ったのが原因よ」
「えっ」
そういえばそんなでっち上げ推理もやった気がする。
「さすがにそれは……」
「あら? 私は即興ででっちあげた推理にしてはなかなか面白いんじゃないかと思ったわよ」
「うっ」
でっちあげがばれている。
明美はにこにことこちらを見る。
「私これでもあなたの推理力は評価してるんだから。きっとあなたならいずれ私のことを助けてくれるって」
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「そういえばあの言葉はなんだったんでしょうね。『幸福が最大の不幸になるかどうかの実験』だったかしら」
「考えなくていいんじゃない? どうせ意味のあることなんてあの男は言ってないよ」
「確かに意味のないことなんて世の中にいくらでもあるものね」
「だって意味なんてつけようと思えばいくらだってつけられるからね。それが本当だろうと嘘だろうと」
ここまで読んでいただきありがとうございます。作者の女川るいです。
今回の話はこれでおしまいです。
来週ももう少しだけ休校の話が続きます。よろしければどうぞ。
少し今回の内容に触れておきますと、明美の身体のとある秘密が明らかになりました。
またそれを目撃してしまう誰かも……。
いよいよ物語が始まったなあと言った感じです。
どうか彼女たちのこれからを見守っていただきたいです。
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していただいた方ありがとうございます。
それでは。




