インタビューとでっちあげ 2
4
部屋に戻ってみると明美はまだ眠りについたままだった。
パスタは少し茹ですぎてしまったかもしれないけれど、明美は少し麺がやわらかいぐらいが好きなのでちょうどいいかもしれない。
味付けも終わらせて明美を起こす。
「明美、お昼ご飯だよー」
「……うーん……」
「明美ー?」
「あれ……、もうお昼かしら?」
寝ぼけたままダイニングの席に着く明美。
私は明美の席の隣に陣取る。これがいつもの定位置なのだ。
「あら、今日はたらこスパゲッティなのね」
「うん。明美の好物」
明美は手を合わせていただきます、と小さく呟く。
そしてフォークで麺を巻いて口に運ぶ。
「うん! すごくおいしいわ!」
「よかった」
それを聞いて安心して私もフォークをつかむ。
そしてフォークをもったままの手を合わせて、いただきますと心の中で呟く。
「暗子のつくるスパゲッティはやっぱり最高ね!」
そう言いながら嬉しそうに頬張る明美の姿を見て、いまこの瞬間が永遠に続けばいいのにとか思う。
でも人生はそううまくはいかない。
食事のときに明美は喋ることをあまり気にするタチではないので、私は明美に話しかける。
でもこれが失敗だった。
「そういえばさっき家を訪ねてきた人がいたよ」
「あらそうなの? ぜんぜん気づかなかったわ」
「ぐっすりだったからね。あの生徒だよ。インタビューに答えてーー」
そう言った瞬間に明美は食べる手を止めてこちらを向いた。
「あの生徒が来たの!?」
「え、うん」
「なにをしにきたのかしら?」
「謝りに来たみたいだったよ。学校が休みになったことが自分のせいだって思っているみたいで、全員に謝って回ってるらしいよ」
「そうなの。真面目なのね」
私と同じ感想をもつ明美。ここまでは別によかった。
明美もここまで話してまたスパゲッティへと手を伸ばしかけたのだから、私がここで話を終わらせておけばゆっくりできる幸せな日だったのに、私が余計なことを言ってしまった。
「そういえばよくわからないことを言っていたよ」
「わからないこと?」
「うん。私がなんでインタビューであんな受け答えをしたのかって聞いたの。そしたら」
「そしたら?」
「『幸福が最大の不幸になるかどうかの実験だよ』だってさ」
そう言うと明美の手が完全に止まった。
そしてなにやらぶつぶつと呟き始める。
「幸福が……不幸に……? どういう意味かしら?」
「さあね。頭のおかしなやつの言うことなんてわからないよ」
「…………」
明美はまだなにやら考えている。
そして私に言うのだ。
「その言葉の意味、気になるわね」
5
ふたりともたらこスパゲッティをたいらげて、ソファに座る。
「インタビューの言葉は確かに流れるようにすらすらと言葉が出ていて不気味だったわ。まるではじめからなにを答えるか決めているかのようだったし」
「そうだね」
「でも、別に意味がわからないってわけでは無いと思うわ。一部を除いてだけどね」
ふたりでそのときのインタビューの映像を見る。
そのときの映像を録画していたわけではないけれど、ネットにいくらでもそのときの映像が残っている。
これがネットの怖いところなのだ。
『幸福を享受するには幸福になってはいけない。不幸を享受するには不幸になってはいけない。いつも人間はひとりだけどふたりで、ふたりだけどひとりなのだ。何人たりとも我が学び舎を呪いと罵り、謗りを我々に与えたとて我が学び舎の名誉を傷つけることなどできない。名誉は守られなければならない。名誉を捨てたとき、学び舎は学び舎としての尊厳を失い、幸福は不幸へと転ずるだろう』
ネット上の赤の他人がすべて文字起こししてくれて、それの全体像が把握できたのだが、なんど見ても聞いても不気味だ。
だけど。
「だけど意味はそんなに難解でもないのよね。『幸福を……』と『不幸を……』のところは私の主義に通じるところもあるし、『何人たりとも……』のところではよく考えればまあまあ当然のことを言ってるのよね。要するに学校の名誉を守れ、ってことでしょう?」
「そう言われればそうかもしれないね。でもじゃあ『いつも人間は……』のところは――」
「そこがよくわからないのよね」
明美は右の人差し指をこめかみに当てて考える。
その仕草にもかわいさを感じてしまう。
「『いつも人間はひとりだけどふたりで、ふたりだけどひとりなのだ』なんかそれっぽいけど、ぜんぜん意味がわからないのよね」
「確かに」
「だから……」
「?」
明美は私の方を向く。
そしてほほえんで言った。
悪魔の囁きを。
「あなたが考えるのよ、暗子」




