インタビューとでっちあげ 1
今はまだ、ね。
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「休校だってさ」
私は学校から送られてきたメールを見ながら隣にいる明美に話しかける。
明美はごろごろしながら私の話に相槌を打つ。
「理由とかは書いてあるのかしら?」
「最近いろいろとゴタゴタがありすぎたからだってさ」
ここのところは本当におかしかった。
私たちの通う葦花中学校ではここのところ死者が増えすぎていた。
合唱コンクールのときに一人。
体育大会のときに十五人。
文化祭のときに十六人。
葦花中学校の全校生徒はもともと三百人。そのうちの三十二人が亡くなってしまった。割合で言うと……十%ぐらいか。
とんでもない話である。
「学校中で噂になってたものね。この学校は呪われてるって」
「そうだね」
あいにく私はその噂を他人から聞いたことがなかったので、適当な返事しかできなかった。
というか私にとっての友達なんて明美しかいないっての。
「だからまあ、休校も仕方のないことだね」
「そうね、でもこの状況は私にとってはあまり好ましくないわ」
そうなのだ。明美は決してこれをいい状況とは思わない。
「いっこくもはやく学校が再開してほしいものだけれど。けれど一回休校にしてしまったらなにを目処に学校を再開すればいいのかしら?」
「うーん。今回は事情が事情だからね。マスコミが報道をやめてからじゃないかな」
いま、葦花中学校はちょっとした有名校になっている。
不名誉なことで。
あくまで学校内で囁かれていただけの「呪われた」という話を、あろうことかテレビ番組が紹介したのだ。その番組ではおもしろおかしくその話を紹介ーーしてくれたらまだよかったのかもしれないが、まじめなトーンでこの学校を紹介した。
その結果、マスコミが大量にこの学校に押しかけてきたのである。それからの学校というのは校門をくぐるだけで地獄だった。校門をくぐることが私にとっては苦行でしかなかった。
校門を通るだけでマスコミがぐんぐん迫ってきて「同級生が亡くなっていまの心境は?」「学校側に問題があるという話も……?」なんて聞いてくるのだ。
私は知らないし、興味もない。人が死ぬのは悲しいことかもしれないけれど、それはその瞬間だけだ。そのあとそのことを悲しんでもその人が帰ってくるわけではない。
そもそも私はその人たちに本当に興味がないのだ。
だから私はマスコミの取材をスルーしていたし、学校側からもスルーするようにと指示されていたのだけど、ひとりの生徒がある発言をした。
「幸福を享受するには幸福になってはいけない。不幸を享受するには不幸になってはいけない。いつも人間はひとりだけどふたりで、ふたりだけどひとりなのだ。何人たりとも我が学び舎を呪いと罵り、謗りを我々に与えたとて我が学び舎の名誉を傷つけることなどできない。名誉は守られなければならない。名誉を捨てたとき、学び舎は学び舎としての尊厳を失い、幸福は不幸へと転ずるだろう」
これがまずかった。いや、私もなんで生徒がこんな発言をしたのかは謎なのだけど。
この発言のせいで、葦花中学校には洗脳の授業があるだの、ネットやメディアで散々な言われようになってしまった。たぶん、これが休校になったいちばんの理由だろう。
「なんであの生徒はあんなこと言ったのかしら」
「意味なんてないんじゃない? きっと愉快犯だよ」
「なにも愉快なことなんてないけどね」
「わからないよ。学校が休みになってほしい生徒だとしたら、いまの状況は愉快なんじゃない?」
「そうなのかしら。だとしたらあの生徒とは一生仲良くできないわね」
私の主義には反するわ、と。明美は言う。まったくだ。
私的には学校が休みの方が、こうして明美といられるからいいのだけれど。
「テレビつけてもいいかしら? 学校がないとやることがないわ」
「いいよ」
私は別に明美と一緒にいられればなんでもいい。
テレビをつけるといつもは絶対に見られないお昼の番組がやっている。
明美はテレビが退屈だったのか、結局二度寝をしてしまった。
私はこっそりその横で、横になる。
きっとこの時間が私の中でいちばんの幸せ。
でも幸せの時間は、そう長くは続かないのだ。
2
目を覚ましたときには十三時を回っていた。
まだ明美は目を覚まさない。
私は明美が起きたときに備えて、昼ごはんの用意をする。
今日のメニューはたらこスパゲッティ。明美はたらこスパゲッティにきざみ海苔とねぎを入れるのが好きなのだ。
だがスパゲッティを茹で始めたときに、チャイムが鳴る。
また勧誘だろうかと思いながら、玄関先の映像を見る。
するとそこにいたのは――インタビューに答えていた生徒だった。
残念ながら名前は覚えていない。
3
「ごめんね、俺のせいで休校になっちゃって」
名前も知らない生徒は私に謝罪の言葉を入れる。
もしかして生徒全員の家に詫びを入れて回っているのだろうか。もしそうなら律儀なことだが。
「別にいいよ。私は学校休みでも別に」
「そう言ってくれるなら俺も気が楽になるよ」
ありがとう、それじゃあといってその生徒は帰ろうとする。
せっかくなのでひとつ質問をしてみる。
「なんであんなことインタビューで言ったの?」
「……それみんなに聞かれるなあ。そんなに知りたい?」
「いや、別に」
「なんだそれ」
そう言ってその生徒は笑う。
そして答えた。意味のわからない回答を。
「幸福が最大の不幸になるかどうかの実験だよ」
読んでいただきありがとうございます。
作者の女川るいです。
この話の最終話(金曜日更新分)であることが明らかになります。
明美に関する秘密です。
作品がガラリと変わりますのでぜひ。




