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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
19/70

スタンプラリーと『四つの幸せ』 4

    13


「美術部で十六人っていうのはどういうことだ?」


 部長らしき人物が逆に私たちに尋ねてくる。それに対して私はありのまま起こったことを話してやる。

 それを聞いてその五人はまた顔を見合わせる。今まででいちばん驚いた表情で。


「ちょっと待ってくれよ! 僕たちはここに来る人間を待っていただけだ。確かに計画はしたが、なにが起こってるかなんて知らない。なにが起こってるんだ?」

「だから人が死んでるんだよ」


    14


 美術部の部室には、教室の外まで明らかに異臭がしていた。

 私はそこに近づけないし、近づきたくない。


 私と同じ人間が何人かいるようだったが、部長と他二人は教室の扉を開けて中を確認する。それを見た瞬間、部長以外の二人が嘔吐した。


 部長だけはその教室の中身をまじまじと見ていた。


「これは……?」

「なにかわかるのかしら?」


 明美(あけみ)が部長に尋ねる。


「いや、なにもわからない」

「そう。なら、はやく戻りましょう」


 それだけ言って明美は私のもとへとかけよってくる。


「こんなところにいたら頭がおかしくなってしまうわ。この事件の犯人みたいに」


    15


「もともとは、各部室にひとりずつ死体役の人間が倒れている予定だったんだ。それなのになんでこんなことに……」


 部長らしき人物が、生徒会室に戻って嘆く。


「そもそもなんで、こんなこと考えたの?」

「……文化祭がもっと盛り上がってほしかったんだ。この学校の文化祭はさ、全然盛り上がらないだろう? だからもっと盛り上がってほしかったんだ。そのためには、やっぱり刺激が必要だったんだよ」


 私はいつの間にか立ち上がり、その部長を平手打ちした。


「謝らないよ」

「……別にいいさ。たぶん君にはわからないことだ」


 私はまたもとの位置に戻る。明美の横に戻る。

 一時、気まずい雰囲気が流れるが、部長が口を開く。


「とりあえず職員室に行って警察を呼んでもらおう。僕が行く」

「いいんですか部長?」

「当たり前だろ。人が死んでるんだ。君たち二人は自分の教室に戻ったほうが良い」


 そう言われて私はすぐさま立ち上がろうとするが明美はそれを許してくれない。


「どこに行くのかしら?」

「戻るんだよ」


「あら、第一発見者の私たちが戻るわけにはいかないんじゃない?」

「…………」


 明美は私に暗にこう言っているのだ。

暗子(あんず)がこの事件の犯人を見つけるのよ』、と。


「犯人ならもう目星はついているよ」

「え!?」


 驚きの声を上げたのは部長だった。

 明美は私の横で、静かに話しを聞いてくれている。


「だから私たちはもう戻ろうよ、明美」

「……わかったわ」


「ちょっと待ってくれ! 僕たちにも教えてくれないか!?」

「少し頭を使えば誰にでもわかることだし、きっとその犯人もすぐ捕まるから、お前らには教えてやんねーよ」


 私は最後に彼らに毒を吐く。

 殺人犯並みにクソなこいつらに。


「人が死ぬような話なんて、微塵も面白くねーよ、クソ野郎」


    16


「それで明美、犯人は本当にわかったの?」

「うん」


 自分たちの教室に戻る途中、明美にそう聞かれたので素直に答える。


「それが誰なのかはわからないけれど、何の役をやってた人間なのかはわかるよ」


 私は立ち止まって明美に言う。

 少しだけかっこつけて。


「だって、ひとりそこにいるはずの人間がいなかったんだもん」

「……そういうことね。でもそれだけで犯人と決めつけるのは早計じゃないかしら?」

「間違ってたら、また考え直すだけさ。でも、今はそれ以上に頭を使いたくないの。ごめん、明美」


 また明美と一緒に歩き出す。

 明美に肩を借りながら、少し情けない思いをしながら。


「仕方ないわね。今回は少し事件がショッキングすぎたわ。暗子は現場に出てくるようなタイプではないのに」

「仕方ないよ。ただ、今はもう少し休ませて」


「……暗子、暗子?」

「……ごめん」


「保健室に行きましょう」

「ありがとう……」


 もう今すぐにでも吐き出してしまいたかった。

 たぶんそれは胃の中にたまっているものだけじゃなかったんだと思う。


「でも暗子、もう少しだけここでゆっくりしましょう?」

「もう少し床がやわらかいところがいいんだけど」

「それは我慢してちょうだい。とりあえずあなたは目を瞑って横になっていればいいわ」


 明美に言われるがままに目を閉じかけた私だったが、気を失いかける直前にひとりの人間の姿が見えた。

 残念ながらそれはかわいいかわいい明美ではなく、ひとりの刃物を持った人間の姿だった。


 血に濡れた刃物を持った人間が目の前にいたというのに、なぜだかまぶたが重い。

 ああ、そうか。


 きっとこれが信頼というのだろう。

 私はこの瞬間、心から明美を信頼できたことがうれしくなって、ゆっくり目を閉じた。


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