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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
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スタンプラリーと『四つの幸せ』 1

「文化祭は楽しい思い出になればいいね」

 誰かがそんなことを言っていた。

 人生がそんなうまくいくわけないのに。


    1


「文化祭は文化部の晴れ舞台だけど、運動部の晴れ舞台は体育祭じゃないわよね」

「別に文化祭は文化部の晴れ舞台でもないんじゃない?」

「あら、そうなのかしら?」

「吹奏楽部は発表会だってあるし、美術部だってコンクールみたいなものがあるんじゃないかな」

「それもそうね」


 自分から話題を振っておいて興味のなさそうな明美。明美はこういうことを平気でしてくるのだ。


 でも私はそれが嫌いではないし、むしろ嬉しくなる。

 どうでもいい会話というのはどうでもいい人間とはあまりしない。どうでもいい人間とは角が立たないような安全な会話しかしないからだ。


 だから私は明美ともっとどうでもいい会話がしたい。


 でも明美がいま言ったことはまったくどうでもいいことというわけではない。だって文化祭がもう明日に差し迫っているからだ。


 葦花中学校の文化祭は一日だけで全て終わる。イベントは吹奏楽部の発表や演劇部の演劇ぐらいなものである。たいていの生徒はめんどくさくてどこかで固まって駄弁っている。


 それかスマートフォンやゲーム機をもちよってゲームをするのだ。葦花中学校の校則では携帯機の持ち込みは禁止なのだが、イベントのときはたいていの人間が持ってきているし、学校側もそれを黙認している。


 いつもは学校にスマートフォンを持ってこない私だが、周りに便乗して今日はスマートフォンを持ってきていた。



「そういえば明美はあした誰と回るの?」

「……言う必要があるかしら?」

「ないね。聞いただけ」


    2


 文化祭当日。

 体育館での開会式を寝ぼけまなこで済ませ、私は明美と一緒に文化祭を回る。パンフレットが全員に行き渡っているのでとりあえずそれに目を通す。

 葦花中学校にはぜんぶで七つの文化部があるらしい。


・吹奏楽部

・演劇部

・美術部

・放送部

・文芸部

・書道部

・新聞部


 体育館で発表が行われるのは吹奏楽部と演劇部で、残りは展示での発表だ。また放送部は文化祭の進行などを行うらしい。


「すべての展示を回るわよ!」


 明美がそう言ったのには理由がある。パンフレットの最後のページにはスタンプラリーが載っていたのだ。ぜんぶで四つの空欄が載っている。


 吹奏楽部と演劇部と放送部以外の四つの部活動の部室にどうやらスタンプが置いてあるらしい。展示を見に来てもらうきっかけとしてはいいのではないだろうか。


「ごほうびが本当に楽しみね!」

「あんまり期待しない方がいいんじゃないかな」


 確かにパンフレットにはすべてのスタンプを集めた人にはごほうびがあると記載されているが、どうせろくなものではない。ティッシュとかマスクとか。


 学校ということを考えると教材かもしれない。そんなことであればむしろ荷物が重くなるからもらわないほうが得策だ。


 でも、そこまで明美には言わない。それにもしかしたら本当にいいごほうびがあるかもしれない。実は私も少し期待しているのだ。


「でもまずは体育館で一緒に過ごしましょう」

「え」

「演劇があるのよ。タイトルは『四つの幸せ』……? 恋愛ものかしら?」


    3


 演劇を見おわったあと、私たちは文芸部の部室へと向かった。

 順番は特に決まっていないので適当である。


「明美、演劇はどうだった?」

「うーん、おもしろくなくはなかったわ」

「ずいぶん歯切れが悪い言い方だね」

「正直なところ、なにが伝えたいのかよくわからなかったわ」


 そうなのだ。設定自体はふつうのものだった。

 中学校の四つの部活を舞台にした作品で、どんどん舞台が入れ替わっていくというものだった。順番に文芸部、書道部、新聞部、美術部の順で話があった。


 ただ、ひとつひとつの話に関連性がなさすぎた。確かにひとつひとつの話は困難がありそれらを乗り越えていく話だったのだが、同じ学校であることぐらいしか共通点がないのだ。


 だから結局なにを伝えたいのかわからない。それならばどこかひとつの部活にしぼって話を深く掘っていったほうがいいのではないかと思う。

 別に私にはどうでもいいことだけれど。


 そんなことを考えているうちに文芸部の部室へと着く。


 部室へ入ってみるとそこには誰一人として姿はなかった。まあ文化祭なんてそんなものである。ぽつぽつとしか人は来ないものだろう。


「おかしくないかしら?」

「こんなものでしょ。誰も文芸になんて興味はなーー」

「違うわよ。誰も文学の行く末を案じているわけではないわ」

「……じゃあなにがおかしいのさ」


 明美はこちらを向いて言う。


「なんで文芸部の人が誰もいないのかしら?」

「……!?」

「これじゃあスタンプを押してもらえないじゃない」


 そこはどうでもいいのだけれど、確かに言われてみればおかしい。受付ぐらいは当番制で回していてもおかしくないだろうに。

 でも、そういうこともあるのかもしれないなーーと。


 その瞬間、私のスマートフォンにメッセージが届く。


 葦花中学校には学年全体が加入しているメッセージのグループがあって、緊急の連絡などがあればそこに連絡が入る。

 明美にもメッセージが届いたようでスマートフォンを取り出す。


 そこにはこんなメッセージとともに一枚の画像が添付されていた。


『あと三人』


 その画像には、文芸部の欄に手形が押されていたスタンプラリーが映っていた。

 それも血液で押した手形が。

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