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ノミと強心臓  作者: 女川 るい
14/70

祭りのあとの祭り 4

    12


 例の生徒に会いに行くと、すでにその生徒は囲まれていた。

 おそらく、私たちと同じ考えの人々がたくさんいたのだろう。


 でもきっと彼女らは私たちとは――明美(あけみ)とは違う。

 明美はただこの事件を収束させてしまいたいだけなのだ。


 でも彼女たちは自分の意中の人間が亡くなったこと、怪我をしたことに対する腹いせを、名前も知らない彼にしているか、あるいは犯人を捜して復讐しようとしているだけだ。そんなことでは、彼女らには犯人は見つけられない。


 明美こそがその役にはふさわしいのだ。


 だけど、残念ながら私にはそこに割り込んでその男を連れ出して話を聞くことはできないので、彼女らの尋問が終わるのを待って彼に話を聞く。


 その輪の中にいたのは同じクラスの近藤(こんどう)……らしい。

 残念ながら名前も顔も知らないけど。


    13


「君らも僕のことを責めにきたのかい?」


 近藤はたいそう疲れ切った顔で私たちに問いかける。

 それに対して明美が困った顔で答える。


「いいえ? なぜあなたを責めなければいけないのかしら? それともなにか責められるようなことでもしたの?」

「……え? い、いや……」

「なら、いいじゃない。あなたが責められたら怒りなさい。あなたに非がないと言うのなら、あなたは胸を張りなさい。あなたが卑屈になる理由なんてないのだから」


 急にそんなことを言われて近藤は驚いた様子だった。

 驚いている近藤に私は聞く。


「ねえ、五重の塔はいったいどこから崩れたの?」

「え?」

「まず近藤くんは上から何段目だったの? で、あなたはどこから五重の塔が崩れたように感じたの? それがどこかから違う力が働いたような感じはあった? なにかいつもと違うところは――」

「待って待って! そんなに一気に言われても困るよ!」


 思わずまくし立ててしまった。

 あまり明美以外の他の人との会話をしないもので、つい。他人との会話の仕方を忘れてしまっているのかもしれない。少し反省をして、もういちどひとつずつ聞いていく。

 明美は私の横で興味なさそうに聞くだけだ。


「まず、近藤くんは五重の塔の何段目だったの?」

「僕は、上から二段目だね。特別、体重が重いわけでも軽いわけでもないから」

「じゃあ、塔が崩れるとき、どこから崩れたように感じたの? 上がぐらついたとか、下がつぶれたとか……」

「……そうだなあ。特にどこから崩れたって言う風には感じなかったかな。強いて言えば一気に崩れた感じはあったかもしれない」


 一気に崩れた? そんなことあるのだろうか。

 とりあえず今は近藤の話を受け止めて、質問を続ける。


「なにか練習とは違うところはなかった? 例えばいつもと塔を組んでる人間が違ったりとか、順番が違ったりだとか?」

「いや、そういうところはなかったかな。練習通りだったと思うよ」


 そうか。これ以上の情報は特に得られそうにない。


「ところで、近藤くん。最近学校を休んだりしなかった?」

「え、なに。突然」

「いや、別に。気になっただけだよ。最近、学校を休んだことはあった?」

「そういえば、前回の全体練習は休んだね」

「前回って、本番前最後の練習ってこと?」

「そう。風邪ひいちゃって」

「わかった。ありがとう。ごめんね、近藤くんもいろいろ辛いだろうに」

「……! そんなこと言ってくれたのは暗子(あんず)さんがはじめてだよ、ありがとう」


 そう言って私は近藤との会話を終わらせる。

 もうだいたいのことはわかった。


 もうひとつ確かめなければいけないことがある。

 それはきっとあの人ならわかっているはずだ。


 私は早足で自分のクラスへと向かい、その生徒に話しかける。


有原(ありはら)くん、ちょっと話いいかな?」

「暗子さん、どうしたの?」

「聞きたいことがひとつ……いやふたつあるんだけど」

「聞くよ」


 私はどっちを先に聞くべきか迷って、まずはこちらを聞く。


「この体育大会の責任者は誰?」

「それは……体育委員長である僕じゃないかな。だから、今回の事故も僕が――」

「――そんなわけないじゃん」


 私は有原の話をさえぎって言う。


「言い方が悪かったらごめんだけど、それは思い上がりだよ。学校の行事っていうのはいち学生が全責任を負えるような代物じゃないよ。だって外部の人間だって見に来るんだから、もしそこでなにかが起こればすいませんじゃすまないんだからさ」

「…………」

「この体育大会の責任者は誰?」


 私は再度、有原に問いかける。

 有原は苦虫を噛み潰したような顔をして答える。

 苦虫ってどんな虫だよ。


「……大塚(おおつか)先生だ」

「そう」


 私は聞いておいて、心底どうでもよさそうに答える。くだらない。

 きっとこれが今回の事件の真相なんだろう。

 私はそれ以上その話には触れずにもうひとつの質問をする。


「有原くんにとって、今回の学校行事は体育祭? それとも体育大会?」

「……そんなの決まってるじゃん」


 有原はこちらを見て答える。


「今回のこれは――体育祭だよ」


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