祭りのあとの祭り 3
10
担任の大塚先生が教室に入ってきてみんなに説明を行う。
「今回の事故で、うちの学年の生徒が三十人重体、そして十五人の生徒が…………亡くなった」
大塚先生が言うと黄色い悲鳴が学校中に響き渡る。
他のクラスからも悲鳴が聞こえる。
「うちのクラスでは――」
そう言って大塚先生は私のクラスで重体になった生徒、そして亡くなった生徒の名前を読みあげる。ひとりの生徒の名前が呼ばれると、おそらくその生徒に気があったであろう女子生徒や、仲がよかったであろう男子生徒が声をあげる。
あいにく私は明美以外の生徒につゆほども興味がないので、声をあげることは残念ながらなかった。
いや、もうひとりだけ。
どうも、体育委員長の有原のことが頭から離れない。
決してこれは好意ではないのは間違いないのだが、いったいこの気持ちがなんなのかよくわからない。
これは…………違和感、だろうか?
私はまだその違和感の正体には気づけないでいた。
11
「やっぱりこれは事件よ!」
「……声が大きいって」
小さな声で明美にそれを伝える。
さすがに不謹慎と思う輩がいるかもしれない。
「で、なんで事件と思うのさ」
「それはもう説明したでしょう? なんども練習していた組体操で、こんなに派手な事故が起こるわけないじゃない」
「いやー、でもどうなんだろう」
私は思考を巡らせる。
まず、これが誰かの故意による事件だったとして二つの場合が考えられる。
「犯人が塔を構成していたメンバーなのか、それとも遠距離からその塔を壊すようななにかを行ったのかのどちらかだよね」
「そうね。じゃあまず、塔を構成していたメンバーのなかに犯人がいたと仮定しましょうか」
明美は、その先はあなたが考えるのよ、と言わんばかりにそこで思考を放棄する。
でも、別にその関係性が嫌いではない。だから私が考える。
「その場合、まず塔の構成を考えないといけないね」
「ふむふむ」
「最後に作っていた塔は五重の塔で、確か人数構成は……下から二十四、十二、六、三、一だったと思うから……」
「あら、あなた男子の組体操にえらく詳しいのね」
「え、ああ、たぶんだけどね」
「ひょっとしてあなた、男子の組体操を楽しみにしていたのかしら?」
「そんなわけないじゃん」
ただ、たまたま人数構成を把握していたというだけだ。
特に上から二段目がなんで三人なのかということに疑問を覚えたのをよく覚えている。
人間の足は二本しかないのだから、上から二段目は二人でいいだろうと思ったのだ。
「だから、まあ覚えていたのはたまたまだよ」
「ふーん、本当にそうかしらねえ」
少し頬をふくらませる明美に、かわいい以外の感情が浮かばない。
だけど、話が進まなくなってしまうので、とりあえず話を進める。
「そうなると、何段目の人間が犯人なのかって話になるよね。どの人間が塔を崩せば、あそこまで盛大に塔を壊せるのか、だよね」
「……そうね」
「まあふつうなら下の人間が力を抜けば塔は崩れるんだろうけど……。もしそうなら、塔ははじめに傾いてそのあとに崩れるはずだから」
映像が残っていればどのあたりから崩れたのかも想像がつくかもしれない。
「映像なら私に任せてくれれば大丈夫よ。私の知り合いのお母さんがビデオを回していたらしいわ。それにきっと映像がニュースに流れているから、きっとネットにも出回っていると思うわよ」
そうなのか。
「なら、そこは映像を見ればどのあたりから崩れたのかわかるかな」
「…………そうね」
なにか明美が少し悩んでいる顔を見せるので、明美に聞いてみる。
「なにか問題あるかな」
「いえ、特にないはずなのだけれど……少し違和感が残るのよね」
「違和感?」
「ええ、それがなになのかちょっとわからないのだけれど……」
なんだろう。
ただ違和感と言うのは本人しかわからないもので、解決するのは自分しかいない。
私が有原に感じている違和感も、いつか明らかになるのだろうか。
「じゃあ次に塔のメンバーじゃない人間が犯人だった場合、それはまあ遠くから誰かを狙撃して塔のバランスを崩したのかな」
「私もそうだと思うわ」
「でもそれを特定するのはちょっと困難だよね。うちの学校の体育大会にはいろんな人が来てただろうし、その名簿なんかも残ってないだろうしね」
「そうね」
明美は、はやく続きを考えろと言わんばかりの顔を見せる。
その顔もかわいい。
「それぐらいかな、今考えられるのは。あとは――」
「そうね。じゃあ話を聞いてみるというのはどうかしら?」
警察も事件が起きたら、まず周囲の人に聞き込みをするというし、と明美が提案する。
「そうだね、でも誰に話を聞くのが良いかな。怪我してる人のところに意気揚々と乗り込むのも少し気が引けるし……」
「ひとり適任がいるじゃない」
「え?」
誰だ。あ、有原か?
でも有原は体育委員長だから塔には参加していなかったし。
あれ、でも体育委員長ってことは――。
でも残念ながら私の予想は外れていた。
むしろ、なぜこの人間を見逃していたのかわからないほどの人間だった。
「ひとり、塔に参加していたのに死亡も怪我もしていない人がいるじゃない?」




