祭りのあとの祭り 2
6
「え、ええ……」
明美は私のため息を聞き逃さなかった。
「どうしたの?」
「いや、これはただの事故じゃない? 犯人捜しどころか、事件性なんてまったくないと思うんだけど」
「んー……それもそうね」
明美はつまらなさそうにどんどん入ってくる救急車を眺める。
私もそれをつまらなさそうに見る。
どうせ私の出番はもう終わってるし、割とどうでもいいかなーとか思いながら見る。
しかし、いつまで経っても救急車の音がやまない。
数えられないほどの救急車が次から次へと校舎の中へと入ってくる。
はじめの救急車が入ってきてから三十分ぐらい経っただろうか。
やっとこさ救急車の音が鳴りおわる。
そのあと、明美が私のもとを離れてしまったので、いつまでも救急車が来続けてくれればよかったのにとも思う。
7
「本当にあんなことが起こるのかしら?」
クラスの三分の一ていどがいない教室。
先生がどのクラスにも来ないので、どのクラスも騒然とする中で明美が私に言う。
「今まで散々練習してきていたじゃない? あんなに派手に失敗してしまうものかしら」
「練習の成果が本番で出せるとは限らないし、そういうこともあるでしょ」
「そうかしら……」
どうにも腑に落ちない様子で明美は首をかしげる。
確かにあれほど派手な失敗は珍しいかもしれないが、なにか事件性があるとは思えない。
それに。
「もし、事件性があったとしてもそんなことするかな?」
「どういうことかしら?」
「明美がどういう意味で事件性があったって言っているのかはわからないけれど、もしあの塔を作っていたメンバーの中に故意に塔を崩した犯人がいるんだとしたら、自分も怪我しちゃうよ」
「……なるほどね」
明美は私の言葉に二度うなずいてから、私に向かって言う。
「あなたは勘違いしてるわね」
「……なにを? あ、もしかして犯人っていうのが塔のメンバーじゃない人間で遠距離から塔を崩すためのなにかの仕掛けを施したって言うなら――」
「その可能性は低いと思うわ。根拠なんてなにもないけれど」
「それならなにが勘違いだっていうの?」
明美は一呼吸置いてから言う。
「本当に誰かを殺したいほど憎んでいるなら、自分の安否なんて気にしないと思うけれど」
8
体育大会は中断となった。
組体操のあと、全員が自分の教室に戻って待っているとそんなアナウンスが入る。
いまだに先生たちは職員室から帰ってこない。
「おもしろいことになってきたわね」
明美がそう言う。
周りの女子たちは口々に好きな男子の安否を心配している。
残念ながら私は明美以外に心配の対象はいないのだ。
だけどひとつ気になることが。
「…………」
有原が教室の隅でえらく落ち込んでいた。
それもそのはずだ。自分が先頭に立って主導してきた体育大会がこんな大事故を起こして中止になってしまったのだから。
私はろくに努力をしてきたことはないが、努力してきた結果が水の泡になるというのは辛いものだと言うことは想像に難くない。それも超ド級の。
少し有原に同情してあげる。
だけど、それだけだ。
おしまい。
今は、横で悩んでいる明美に目をやる。
9
「ぜんぜんなにも指示がないわね」
「本当にね」
あれからどれくらい経っただろう。
時計はすでに二時を回っていた。
周りの生徒たちは、はじめこそみんなを心配するような声を上げていたけれど、いつの間にか疲れて机に突っ伏して寝てしまっていた。
私も正直ねむたい。学校の行事と言うのはなぜこんなにも疲れてしまうのだろうか。
だけど明美はずっと頭を悩ませていた。
ほら、今だって頭をかしげて――。
「――すう……」
「…………」
寝顔かわいい。
ふつうに寝ていた。もし私の机の上に頭を置いて寝ていてくれたなら……。
たらればの話をしても仕方ない。
私はふと有原のほうを見る。
有原も相当疲れているだろうに、ずっと手を組んで自分のおでこにつけている。
今回のことが相当こたえたのだろう。
有原のことを憐みの表情で見ていると、いつの間にか明美が起きていてこちらを頬を膨らませながら見ていた。
「……どうしたの?」
「別になにもないわ」
どうやら怒っている様子だった。
もしかしたら寝顔を見ていたことがばれていたのかもしれない。
明美は伸びをする。
「もう二時じゃない……。いつまで待たせるのかしら……?」
そう言いながら明美はスマートフォンをかばんから取り出す。
いちおう言っておくが、葦花中学校の校則ではスマートフォンを持ち込むことは禁止されている。
「……あら、もう今日のことがニュースになっているわよ。ほら」
そう言って明美が私にスマートフォンの画面を見せる。
その記事に書いてあることはとても信じられず、思わず口に出してしまった。
「体育大会の悲劇……十五人死亡、三十人重体?」




