祭りのあとの祭り 1
試しに下を向いて歩いてみた。
いつもと違う景色が見えるかもしれないと思ったけれど、いつもと何ら変わらない。
そうだ、いつも私は下を向いて歩いていたんだった。
1
「私たちはダンスで、男の子たちは組体操なのね」
体育館で女子だけがダンスの練習をしている。隣の明美が私に言う。
明美はダンスがすごい上手で、いちど教えられたらすぐに覚えてしまう。
だけど、私は何度やっても覚えられずにいた。だから、明美に横についてもらって教えてもらっているというわけである。
でも、結局明美といると、他愛ない話になってしまうのだ。
「男女平等だの言っても、結局男子と女子とでやることが違うのね」
「でも、だからって女子が上半身裸でピラミッドを作るわけにはいかないでしょ?」
「それもそうね」
私と明美はダンスの練習をやっている風な感じを出しながら話を進める。
「それにしても組体操ってなんでやるのかしらね」
「それはたぶん、毎年やってるからじゃないかな」
「とてもしょうもない理由ね、つまらないわ」
それは私も思う。
組体操を見てもそんなに感動や驚きはない。
むしろ、上半身裸の男たちが集まっていて、暑苦しいと思うばかりだ。
「はやくこの時間が終わらないかしら」
「そうだね」
でも私は明美と横にいられるこの時間が、あまり嫌いじゃない。
もう少しだけ、この時間が続けばいいのにと思った。
2
「体育祭まであと二日です」
「体育大会な!」
体育委員の有原が教卓で話していると、担任の大塚先生が横やりをいれる。
大塚先生は、有原の話をさえぎって立ち上がり話を始める。
「諸君らはなにか勘違いを起こしているかもしれないが、あくまで二日後に迫っているのは体育大会だ。体育祭じゃない。れっきとした学校の行事だ。浮かれるな」
そう言ったあとに大塚先生は座り直す。そして腕を組んで有原に話を続けろと言わんばかりに首をやる。
雰囲気は最悪だ。
まあどうせ職員会議の場で言えと言われたのだろうが、もっと良い言い方はないものか。
ばつの悪い様子で有原が口を開く。
「失礼しました。来たる体育大会まであと二日です。みなさんすでにプリントがくばら…………」
おお。大人な対応だな。
確か有原は野球部だったか。確か、なんてさも思い出したかのように言っているけど、坊主であることから判断しただけなのだが。
人によっては先生に対して突っかかりそうなものだけど、人間ができている。
私の思う大人というのは、器の広い人間のことだ。
自分を馬鹿にされたとしても受け流せる、そんな人間が大人だと思っている。
そんな大人になりたいかどうかはまた別の話だけれど。
心のどこかでは、そんな大人な有原の話を聞いてやれなくてごめん、という思いもあるのだけれど、どうも話を聞く気分にはなれなかったので、いつものように頭を伏せて、ただ時が流れるのを待つ。
3
「いよいよ、今日は体育大会当日です!」
壇上で有原の声が響き渡る。
有原が体育委員会の委員長だったのか。道理でしっかりしているはずだ。
誰が委員長だとか、誰が生徒会長だとかそんなことにつゆほども興味がないのだ、私は。
私は今、はじめて体育祭のプログラムに目を通す。
はじめに準備体操があって、その後に……。ダンスと組体操は昼休憩の前か。
私の出番はダンスだけなので、はやくその時間になってくれないかなと願う。
あとできれば私は踊りたくない。
前から、明美のダンスを見ていようか。
明美は最前列でダンスを踊るのだ。ちなみに私は最後尾。
いなくても、別にばれやしないだろう。
4
ふつうにばれた。
ダンスの前に、前で待機していたのだが大塚先生にばれ、待機場所に戻された。
仕方なく、最後尾で私なりのダンスを見せるのだけれど、これがまあひどい。
誰かがこのダンスを録画していないことを祈るばかりである。
でも私の位置からは明美のダンスは見えないので、誰かが録画していてくれないかなという矛盾した感情も確かに私にはあった。
5
「はあはあ……はあはあはあ…………」
「大丈夫?」
「水を……」
「はいはい」
恥ずかしながら息切れを起こしてしまう。
私は体力には自信があるのだ、悪い意味で。
明美に介抱をしてもらいながら男子の組体操のはじまりのアナウンスを聞いた。
明美に介抱してもらうというこの状況は悪いものではなかったので、もう少しだけ息切れを起こしているふりを続けてみる。
そして組体操がどんどんプログラムを消化していくのを薄めながら見ていた。
一人技、二人技、三人技、五人技と続けていき、真打のピラミッド、そして塔にさしかかる。
葦花中学の組体操では、まずクラスごとにピラミッドを組み立て、次に学年全体で大きなピラミッドをつくる。そして、今度はクラスごとに塔を組み立て、最後に学年全体で大きな塔を作るという順番で進んでいった。
ひとつの種目も失敗することなく進んでいき、そして最後の塔に差し掛かったところで悲劇は起こる。
学年全体でつくる塔は、はじめは形を保っていたのだけれど、三秒もしないうちに大きな音を立てて塔が崩れてしまった。
「!!!」
その瞬間、それまでキャーキャー言っていた黄色い声援は悲鳴に変わる。
そして五分もしないうちに救急車が音を立てながら学校を尋ねた。
それも何台か数えられないほどに。
不安になりながらそれを見ていると、明美がにこにこした顔でこちらを見ていた。
そして私に言う。
だけど、もう私は明美が何を言いたいのかは聞かなくてもわかるから、耳を貸さなかった。




