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神の子孫、霊獣を従える

 


 水晶のような角を持った親鹿は俺を確認するやいなや角を虹色に光らせた。咄嗟に俺は横に飛んだ。次の瞬間、俺のいた場所に雷が落ちた。問答無用で攻撃って穏やかな性格なんじゃないのかよ。


「待ってくれ。俺はその仔鹿を送り届けただけっ!」


 説明しようにも相手に話を聞く気が全く無い。俺の頭くらいの大きさの氷の塊が弾丸のように迫る。それを避けたり“神銃 大蛇”の弾丸で撃ち落としたりするが、間髪入れずに地面が隆起し槍のように尖って俺に迫る。それを大蛇のブレードで斬り、落ちてくる雷を避ける。様々な属性の魔法が俺に向けて放たれる。俺はただひたすらに避け続けるしかない。仔鹿が親鹿に何か言っているようだが、親鹿は聞く耳を持たない。子どもの話を聞いてやれよ。


「獣の分際でヤクモさまを攻撃するなど……コロス」


「やめろアクア!親鹿を攻撃するな!」


「何故ですかヤクモ様!ヤクモ様に牙を剥く獣など私が……」


「子どもを害されたと勘違いしているだけだ。俺がなんとかするからお前は手を出すな!」


 親鹿の魔法の嵐を掻い潜りながらアクアに命令する。俺にそう言われて渋々従うアクア。とはいえ、どうすれば親鹿を止められるかはわからない状況では相手の魔法を避け続けるしか手はない。親鹿は完全に興奮状態だ。多少手荒くしないとダメだろうか……。

 自分の攻撃を避け続ける俺に業を煮やしたのか親鹿の角に光が収束する。これはヤバいかもしれない。今までの攻撃とは桁が違う。そう直感した俺は逃げ道を探すが、恐らく木や岩で障害物だらけのこの場所ではどこに逃げてもあれは躱せない。そういう攻撃だと思う。

 光の収束が終わった。来る。そう革新した瞬間、光が解き放たれる。大蛇のキャノンタイプに近い。まるでビーム砲のような光が俺に迫る。次の瞬間、俺は驚いた。親鹿の放った光にではない。親鹿の放った光から守るように仔鹿が俺の前に現れたからだ。


「バカ!何してる避けろ!!」


 俺がそう言っても仔鹿は避ける素振りもなく、俺を守るように立つ。光が仔鹿に迫る。俺の身体は自然と動いていた。仔鹿の前に出る。俺の意思に反応するように“神刀 叢雲”の鯉口がひとりでに切れる。自分の意を酌んでくれたことに感謝し、俺は叢雲を抜いた。


 櫛名流五ノ型 雷霆らいてい


 俺が叢雲を抜いた瞬間には迫っていた光は左右真っ二つになって消えていた。俺を守ろうとしていた仔鹿も光を放った親鹿も驚いていた。親鹿の方は自分が守ろうとしていた仔鹿が俺のところにいるのに驚いているのだろう。しかも自分の攻撃で我が子を殺そうとしてしまったのもあるかもしれない。何にせよ、やっと親鹿が止まってくれたわけだ。


「久しぶりに使ったけど、身体は覚えているもんだな……」


 残心しながら叢雲を鞘に戻し、ため息を吐きながら呟く。先程俺が使ったのは櫛名家に伝わる武術でばぁちゃんに教わった剣術だ。最後に使ったのは確か中学生の頃だったと思う。もちろん稽古としてだぞ。


「お見事でしたマスター」


「…………コク」


「さすがっす!」


「ヤクモ様ですもの当然ですわ!」


 神霊たちが褒めてくれるが、アクアの俺に対する信頼は何なのだろうか。仔鹿も再び助けられたことを認識したのか俺の手に頭を擦りつけてくる。


『さすがにヒヤヒヤしたね』


 日向の言う通り心臓がバクバクだ。ここ数日、稽古をして感覚を少し取り戻していたとはいえ剣術を使ったのは久しぶりだったのであの光を斬れるかどうかは賭けだった。まぁ、そんなことを考える前に身体が勝手に動いたんだけどな。何にせよ仔鹿を守れて良かった。

 日向と神霊たちと話していると、親鹿がこちらに歩いてきた。仔鹿が駆け寄り何かを話しているように見える。心なしか仔鹿の表情は親鹿を叱っているように見え、親鹿の方は申し訳無さそうな表情に見えた。まさに娘に叱られる父親だな。親子の関係性なんかは人間とあまり変わらないのかもしれない。

 ひとしきり仔鹿に叱られた後、親鹿が俺に頭を下げてきた。仔鹿も一緒になって頭を下げている。お父さんがご迷惑をおかけしましたと言わんばかりだ。


「誤解が解けたなら良いさ。お前も親と会えて良かったな」


 そう言うと、仔鹿が嬉しそうに俺にすり寄ってくる。親鹿もそんな仔鹿を微笑ましそうに見ている。あくまで俺の主観だが。


「さて。用事も済んだし、一度家に帰るか」


 ひとしきり仔鹿と戯れた後、日も傾いてきていたので帰宅することにした。仔鹿に別れを告げ、来た道を引き返す。しばらく歩いたところで俺は振り返る。


「何でついて来てるんだ?」


 そう仔鹿がついて来てしまったのだ。しかも親鹿付きで。更に言うなら、いつ合流したのかメスの鹿、恐らく母親も一緒にだ。俺に話しかけられて嬉しそうにする仔鹿とそんな仔鹿を見守る親鹿たち。いやいや自分たちの住処に帰れよ……。

 そうこうしている内に家に着いてしまった。俺の家の敷地内に入った瞬間、鹿たちが頭を下げる。いきなりどうしたというのか。攻撃してきたことに対する謝罪ならもうしてもらったというのに。鹿たちに問いたいがそもそも話ができないので聞いてもわからない。悩んでいると答えは日向が教えてくれた。


『クリスタルディアたちは八雲に仕えたいって言ってるよ』


「日向は鹿たちが何を言っているのかわかるのか?というか仕えたいって?」


『言葉というよりも思念って感じかな。考えていることがわかるんだよね。クリスタルディアは霊獣で私と近い立場にいるから何となくね。それで八雲が叢雲を使ったときに八雲の神気を感じ取ったらしくて側で仕えたいんだってさ』


 日向は神獣だから霊獣である鹿……クリスタルディアたちの考えがわかるらしい。それは良いのだが、仕えるって……神になっちゃったからか。家までついて来ちゃってるし、留守番していた精霊たちが仔鹿と遊び始めちゃってるし。新しい友達とでも思ってるんだろうな。これで断って森に帰したら精霊たちに恨まれそうだな。


「はぁ……じゃあこれからよろしく頼むな」


 俺がそう言うと親鹿たちは深々と頭を下げ、仔鹿と精霊たちは喜んで飛び跳ねる。


「何だか賑やかだね!」


「霊獣を従えるとはさすが主だな」


「ヤクモはすごいね」


 出迎えてくれたシルフ、イグニス、テラがそれぞれ感想を口にする。別に霊獣を従えるつもりはなかったんだけどな。ただ周囲の探索に行っただけだったんだけど……。何かこれからもこんなことが続くのだろうか。まさかな……。






 翌日。俺は頭を抱えていた。何故こんなことになったのだろうか。目の前には昨日のクリスタルディアだけでなく、様々な霊獣たちが俺に向かって頭を下げている。本当にどうしてこうなった……。

 さすがに神霊たちにも予想外だったようで皆驚いている。日向だけは気にした様子もなく縁側でくつろいでいる。


「勢揃いですね」


 ルナがぽつりと呟く。


「クリスタルディアにスターライトベア」


「トワイライトウルフにナイトメアラビットもいますわね」


「ミラージュオウルにクレセントタイガーもいるっす!」


「みてみて〜サンライトエレファント〜」


 神霊たちが霊獣を紹介してくれているが、もう何がなにやらわからん。混乱する俺の肩に日向がひらりと乗る。


『何か言ってあげないと、みんな待ってるよ』


「そうは言ってもな。何でこんなに霊獣たちが来るんだよ。俺何もしてないぞ」


『八雲の神気を感じたんだよ。言ったでしょ。八雲は高位の神なんだって』


「だとしてもこんなの予想できるか?」


『八雲は難しく考えすぎだよ。素直に受け入れれば良いんだよ』


 つい先日まで一般人だった俺にそれは無理ってもんですよ日向さん……とはいえ目の前にいる霊獣たちを何とかしないとな。それにクリスタルディアの臣従は受け入れてしまっているから、他の霊獣たちはダメとも言えないし……。日向の言うように素直に受け入れるしかないのか。


「はぁ……わかった。お前たちを受け入れるよ」


 俺がそう言うと霊獣たちが喜び精霊たちと一緒にはしゃぎまわる。まぁ、はしゃいでいるのは主に霊獣の子どもだけど。親たちはもう一度頭を下げている。それにしても……。


「デカいな……」


 見上げる形で俺が見るのは先程シルフが言っていたサンライトエレファントである。何mあるんだ?少なくとも俺の家よりはデカい。薄っすら赤みを帯びた白い肌のゾウは子どもでも地球の成体のゾウ位ある。


「さすがにこのデカさじゃ家には入れないよな」


 他の霊獣たちも入れるとなるとかなり手狭になるし、このゾウたちは入れない。俺が頭を悩ませているとゾウたちが光だした。光が収まると地球の子どものゾウくらいになっていた。小さくなれるんかい……。小さくなった霊獣たちを見てさらに興奮する精霊たち。小さくなったとはいえ、家には入れないし。厩舎でも作るか。家畜ではないから厩舎と言っていいのかわからないけど、細かいことは気にしないことにする。


「霊獣たちの厩舎を作るから手伝ってくれるか?」


 精霊たちに聞くと我も我もと手を挙げる。本当に働き者だ。中位精霊たちが下位精霊たちを指揮し始める。俺も手伝おうと思ったのだが、自分たちがやると精霊たちに言われてしまった。仕方がないので家でゆっくりすることにする。縁側に座り、精霊たちが持ってきてくれたお茶を飲む。庭にいる霊獣たちに囲まれているのはなんともシュールだ。子鹿が構ってほしそうに俺のそばにやって来る。子鹿を撫でて和んでいると厩舎を任せていた中位精霊たちがやってきた。なんともうできたという。仕事が早すぎる。まぁ、ありがたいことなのだが。

 中位精霊たちに連れられ厩舎にやってきた俺は驚いた。俺の家よりもデカい。確かにサンライトエレファントも入るものとなるとそれなりの大きさが必要となるのはわかるのだが、こんなにデカい厩舎がこんなに早くできるとは誰も思わないだろう。そんな俺を厩舎の前で待っていた精霊たちがドヤ顔で迎える。精霊たちに急かされ厩舎の中に入ると俺は更に驚くことになった。

 建物の中に入ったはずなのに草原が広がっていたからだ。俺は一度外に出てもう一度入るがやはり中には草原が広がっている。


「どうやったんだこれ?」


 精霊たちに聞くと、どうやら闇精霊たちが空間を広げ、風精霊が大気を、水精霊が湖を火精霊が太陽を、光精霊が月を作ったらしい。もはや厩舎の中で一つの世界が出来上がっていた。これを厩舎といっていいのだろうか……。とりあえず、期待した眼差しでこちらを見上げる精霊たちを労うことにする。


「みんなありがとう。期待以上の出来だよ」


 俺が褒めると、精霊たちが狂喜乱舞する。そんなに嬉しいのか。そこまで喜ばれるとこっちまで照れる。とはいえ精霊たちはいつも俺のために頑張ってくれているので本当に感謝している。俺が精霊たちに何もしてやれていないので申し訳ないのだが……。


「そんなことありませんよ。マスター」


「ルナ。どういうことだ?」


「マスターは私たち神霊の主。中位や下位精霊たちにとってはマスターは神よりも高位の存在なのです。そんなマスターのために何かをするというのは精霊たちにとって最上の喜びなのです」


 そうなのか……実際に中位精霊と下位精霊たちもうんうんと頷いている。どうやら本当らしい。精霊たちがいいならそれでいいか。

 それはともかく厩舎に霊獣たちを誘導しないとな。子鹿を始め、霊獣たちは精霊たちが作った厩舎を気に入ったようで草原を走り回ったり、飛び回ったりしている。喜んでくれたようで何よりだ。霊獣たちに厩舎を作ってくれた精霊たちのことを伝えると霊獣たちは精霊たちのもとへと行って礼を言っている。実際に話しているわけではなく、きっと礼を言っているんだろうなと感じただけだが。


「何にせよ、これで霊獣たちの生活スペースは解決だな」


『そうだね』


 新しい場所に興奮しているのかはしゃぎ回る子鹿たち。そんな子どもたちを窘めながらも自分たちも興奮を隠しきれない親たち。ここは彼らの場所なので好きにさせて俺は家へと戻ることにする。


『みんな喜んでたね』


「あぁ。なんだか随分大所帯になったもんだ」


『嫌ではないでしょ?』


「まぁな」


 日向と話していると神霊たちがやって来る。相変わらずアクアは俺のそばにやってきて腕を組んでくる。別に嫌というわけではないが、俺も男なのであんまり押し付けられるとドキドキしてしまう。何をって?それは察してくれ。


「マスター。今日はこれから何をされるのですか?」


「そうだな……そういえば近くに湖があったよな」


「ありますわ。私が案内して差し上げますわ。ヤクモ様」


 アクアは水の神霊だから水のある場所を感じ取れるらしい。そういうことなら案内はアクアに任せるとしようか。


「お任せくださいな。うふふ。ヤクモ様とデートですわ!」


 誰がデートって言った。ただ湖に行くだけだっての。他の神霊たちや霊獣たちも行くかもしれないし。そう言ってもアクアは聞いているのかいないのか自分の世界に入っている。もう放っておこう。


「さてと。準備をしようか」


 俺は縁側から立ち上がって倉庫へ向かう。倉庫の中は物で溢れかえっている。じいちゃんが趣味の道具を片っ端から突っ込んでいたからな。整理しても次から次へと新しい物が増えるのでばあちゃんにいつも怒られていた。これでも一度整理したんだ……ほとんど変化ないけど。


「確かこの辺だったんだけど……」


『何を探しているの?』


「あった!これだよ。これ」


『釣り竿?』


 そう探していたのは釣り竿だ。海釣り用ではなく、じいちゃん自作の川釣り用の物だけど。せっかく湖に行くから釣りでもしようかと思ったんだ。餌はないから行きがけに現地調達していくか。


「よし、じゃあ行くか」


 結局、アクアたち神霊を始め、精霊たちに聞いたのか子鹿たち霊獣の子どもたちがついてくることになった。最初は霊獣の子どもたちだけでいいのかと思ったのだが、親たちが俺と神霊たちがいれば問題ないと日向に伝えてきた。神霊たちもいるし、大丈夫か。

 メンバーも揃ったところで俺たちはアクアの案内で湖へ出発した。



八雲の周りがどんどん賑やかになっていくのに人間がいない……。こんなに人間以外のキャラ出して今後の展開が自分でも予想できません……。もう少ししたら人間出す予定なのでご容赦ください。

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