神の子孫、異世界へ行く
あけましておめでとうございます。凰火です。
2020年になり、気持ちを新たに投稿を始めようと思います。
この作品は以前書いていた「白き探索者」という作品を書き直したものです。
はじめましての皆様もお久しぶりの皆様も今年からまた気持ちを新たに投稿していきたいと思います。
できる限り早く更新していきたいと思っておりますので今後とも温かい目で読んでいただけると幸いです。
鬱蒼と茂る森の中心にぽっかりと開けた場所がある。そこに一人の青年が住んでいた。
森の中にあるとは思えないほどしっかりとした平屋の日本家屋。庭には丁寧に作られた畑がある。
青年は真っ白なミリタリージャケットを着て畑作業をしている。畑作業には些か不釣り合いであるが、本人に気にした様子はない。
黙々と作業する青年の背中に何かがのしかかるように覆いかぶさる。青年には振り返らずともそれが何かわかっていた。
「本当に甘えん坊だな。ステラは」
青年の背中に乗ってきたのは子熊であった。ステラと呼ばれた小熊はかまってほしそうに肩越しに青年の顔をペロペロと舐める。青年は軽くステラの頭を撫でると作業を続ける。
ステラはもっと構えと言わんばかりに頭を青年に擦りつける。そんなステラに青年が苦笑していると、急に背中から重さがなくなる。振り返ると青年の二回りは大きい熊がステラを咥えていた。
「ありがとうな。ポラリス」
ポラリスはステラの母親である。作業の邪魔になると思い、ステラを引き離してくれたのだ。ステラは何とか母親から抜け出して青年のもとへ来ようともがくが、無理だと悟ったのか諦めて大人しく咥えられている。ポラリスの口からぶら下がるステラが可愛くて笑みが溢れる。
青年がそれを見てほっこりしていると、足元で動き回るものがあった。視線をそちらへ向けると、ステラとは違う子熊が青年の足にじゃれついていた。ステラの双子の姉妹のウルサである。
「今度はお前か。ウルサ」
青年はウルサを離そうとするが、ウルサは構ってもらえていると勘違いして更に青年にじゃれつく。お転婆なウルサに甘えん坊なステラ。二頭に振り回される母親のポラリス。三頭とも青年と一緒に暮らす家族である。
『八雲、ご飯できたって』
青年を八雲と呼び、肩に乗って来たのは小さな白い狐だった。頭の中に直接語りかけてきたこの狐はただの狐ではない。その証拠に尾が四つもあるのだ。
「わかったよ。日向」
そんな狐に驚くことなく、青年は狐を日向と呼び、撫でる。作業を中断して家屋へと歩きだす。日向はそのまま青年の肩に乗ったままである。後ろをポラリス、ウルサ、ステラの三頭が付いてくる。
この動物と暮らす青年の名は[櫛名 八雲]年齢は十八歳。ある事情によりこの森で動物たちと暮らしている。
八雲がここで暮らし始めたのは三年前。こことは別の場所で暮らしていたのだ。
〜八雲side〜
20☓☓年8月。その日はその年の最高気温を記録した暑い日だった。
俺は大学の帰り道を250CCの単車に乗って進んでいた。俺の通う大学は駅からそれなりに離れており、自動車などで通う学生が多い。
まぁ、こんな田舎にあれば仕方ないかもしれないが。なんたって周りは山に囲まれており、あるのは田んぼくらいで、かろうじて道が舗装されているだけのどが付く田舎なんだ。
とはいえ、俺は割とここを気に入ってるんだけどな。家もそんなに遠くないし。
そんな田舎道を進んでいると、突如、犬が飛び出してきた。
「あぶねっ!!」
反射的に単車のハンドルを横に切る。その後来るであろう衝撃が全くやってこず、不審に思って目を開ける。
そこは室内だった。乗っていた単車はおろか、慣れ親しんだ田舎道すら存在しなかった。
周囲を見回すと、板張りの壁や床。正面には鏡が置かれた台座。見覚えのない部屋のはずなのに、どこか懐かしさを感じた。
「いったいここはどこなんだ?」
「ここは神域と呼ばれる神の領域です」
まさか独り言に返事が返ってくるとは思わず、驚いて周囲を見回すが誰もいない。空耳か?
すると目の前にある台座に置かれた鏡が輝き、光が溢れる。そしてその光は人の形を取り、ついには着物を着た美女が現れた。俺の呟きに答えたのは彼女なのだろうか。
「あなたは……」
「やっと会えましたね、八雲」
美女はそう言って微笑み、突然、俺を抱きしめた。俺が混乱しているのを察したのかそれとも気が済んだだけなのかはわからないが、美女は俺から離れる。
「ごめんなさい。こうして会えたのが嬉しくて、つい」
美女は少し照れながらまた微笑む。この部屋と同じ様に彼女とは初対面のはずなのに初めて会った気がしない。そんな考えを巡らせていると、美女が俺の手を取る。
「色々と聞きたいことがあるでしょうけど、まずは座ってお茶でも飲みましょう」
されるがまま美女に手を引かれていくと、いつの間にか部屋の中央にテーブルと椅子が置いてあった。さっきまではなかったはずだが……。
美女は俺を椅子に座らせると、慣れた手付きでお茶を淹れる。それを俺に差し出し、自分の分を淹れた後、しばらくお茶を飲む。色々と聞きたいことがあったが、美女はお茶を飲んでいて聞いても答えてくれないような気がしたので俺もお茶を飲むことにした。こういうとき、意外と人間は冷静でいられるらしい。いや、案外、冷静ではないのかもしれない。
少しして、二杯目のお茶を飲み終わった頃、美女が口を開いた。
「では、順番に話していきましょう」
「お願いします」
「まずはこの場所のことから説明します。ここは神域。神の住まう場所です。本来は神のみが入ることのできる場所なのです」
俺は思わず自分の頬を抓る。あまりにも荒唐無稽な話をされたからだ。いきなり神とか普通なら病院を進められる話だが、美女は至って真面目な表情をしている。そして俺が頬を抓るのを見て、クスリと笑う。
「いきなり言われても信じられないでしょうね。でも、とりあえず私の話を最後まで聞いてもらえますか?」
俺が頷くと、ニコリと笑って話を続ける。
「本来、人間が入ることのできない神域になぜ八雲がいるのか。それはあなたが現世において既に亡くなっているからです」
「えっ!?俺、死んでんの?」
「はい。あなたは大学の帰り道、バイクの事故によって命を落としました」
そう言われて何となく思い出した。そうだ。確か道に飛び出してきた犬を避けようとして……それで事故って死んだのか。
「とはいえ、本当に亡くなったわけではありません。バイクが事故を起こす瞬間、私がここに転移させたのです」
「ということは、俺は助かったわけですね。」
「確かに命がという意味ではそうですね。しかしあなたは現世においては既に亡くなっているのでもとの生活に戻ることはできません」
まぁ、それは仕方がない。命があるだけ儲けものだろう。そういえば、あの犬は助かったかな……。
「安心してください。あの犬は今も元気に野山を走り回っていますよ」
「そうですか。あれ、何で俺の考えていることが?」
「神ですから」
美女がニコリと笑う。なんだか納得できたようなできないような。それよりもこの美女が神様だと信じてしまっているが、何となくこの人が嘘をついているようには見えないんだ。
「ありがとう。信じてくれて」
また考えを読まれた。もうこの美女が神様だというのは信じよう。
「では話を続けますね。あなたを現世に戻すわけにはいかないので、あなたを別の世界へと転移させます」
最近流行りの異世界転生か……まさか自分がすることになるとは。
「話が早くて助かります。とはいえ本来、普通の人間を異世界に送るというのはありえません」
「そうなんですか?」
「はい。そもそも普通の人間がいきなり異世界に行っても適応できませんから。そこに存在している病魔に侵される可能性だってありますしね」
「それもそうか。……あれ、何かその言い方だと俺は普通の人間じゃないみたいに聞こえるんですけど」
「はい。その通りです」
うわぁ……満面の笑みで言われた。というか俺が普通の人間じゃないってどういうことなんだ?
「あなたは神の一族なのです」
「……は?」
「あなたは神の一族なのです」
「いや、聞こえなかったわけじゃないです。理解が追いつかないだけで」
いきなりあなたは神の一族だと言われて理解できるやつなんかいないって。
「驚くのも無理ありません。しかし、これは事実です。あなたは神の力を受け継いでいます」
「何故そう言い切れるんですか?」
「あなたの家系、櫛名家は我が弟、素戔嗚命が娶った櫛名田姫の末裔なのです」
そういえば、昔ばあちゃんがそんなこと言っていた気がするな。あれってマジだったのか……ってか今、我が弟って言わなかったか!?
「自己紹介がまだでしたね。もう察しているかもしれませんが、私は天照大神。ここ日本の神を束ねる者です」
やっぱりか……この人、いやこの神様がかの有名な天照大神か。しかも俺自身は彼女の弟の末裔とはね。
「あなたの祖母の家系はもともと神の一族として生きてきました。とはいえ神の力を発現した者はほとんどいませんでしたが。あなたの祖母はその珍しい一人でした」
ばあちゃん、凄ぇな。確かにばあちゃんは何かオーラみたいなの出てた気がするな。特に怒った時とか半端なかったし……あの我が道を行くじいちゃんが唯一頭の上がらない人だったからな。
「そしてそれはあなたにも受け継がれています。あなたの祖母とあなたはここ数百年で特に強い力を受け継いでいますね。だからこそあなたをこの神域に呼ぶことができたのです」
つまり、ある程度の強い力を受け継いでいないとここには来れないってことか。俺自身は全く自覚なかったんだけどな。小さいときはあいつらといたから生きているだけで精一杯だったし……。
「自覚はなかったでしょうが、その力があったからこそ幼少期のあなたは生きながらえたのです。よく考えてみてください。覚えがあるはずですよ」
「…………」
確かに、よく生きていたものだ。あいつら……俺の両親との生活はまさに地獄だった。飯を食わせてもらえないのは当たり前。金が無いのは俺のせい、競馬で負けたのは俺のせい、酒が切れたら俺のせい、タバコを吸うときうまく火がつかなかったら俺のせい、終いには何かむしゃくしゃするのは俺のせいだ。その度に殴られ、蹴られた。戸籍上、両親とはなっているが、もはや親子の縁は切っている。正確にはじいちゃんが助けてくれたのだが。
あの日常を思い返すと、確かに異常だ。あんなに暴力を振るわれたのに次の日には殴られた痣もタバコを押し付けられたあともキレイに消えていたのだから。
「何度、あなたを助けようと思ったことか。神は人間に干渉してはいけないというルールを破り、あの者たちを八つ裂きにしてやりたかった……今更なにを言っても遅いですね。結果的に私はあなたを助けることはしなかったのですから」
「何故あなたが俺を助けようと」
「我が弟の末裔ということは私にとっても深い関わりのある者ですから。何より私はあなたが生まれたときからずっと見ていました」
「俺を?」
「はい。もともと櫛名家のことは見ていたのですが、そこまで頻度は多くありませんでした。しかし、あなたが生まれたときにそれが変わりました。なんと愛らしく純粋な存在だろうと。こういうと変だと思うでしょうが、母性すら自分の中に感じました」
神様にそこまで言われるのは何だか照れくさくて顔を背ける。それに彼女が言うほど俺は純粋ではないと思う。
「いいえ。あなたの心はとても純粋です。大人になって表面に出なくなっただけです。そんなわけで私はあなたをずっと見守っていました。それ故にあなたの両親があなたにしたことも全て知っています。あなたの祖父があなたを連れ出さなかったら私は神界のルールを破ってあの二人を殺していたでしょう」
怖いな神様。そこまで気に入られているのは悪い気はしないけど。天照大神が率先して決まりを破っちゃダメでしょうに……。
「それくらいあなたを愛しく思っていたということです。……話がそれましたね。そんなわけであなたを異世界に送ることになります。私としてはずっとここにいてほしいのですが、神界のルールで例え神の力を持っていても試験を突破していない者を神界に長く置いておくことはできないのです」
「試験があるんですか?神様に」
何か国家試験みたいだなと思った。神様も色々とあるんだな……。
「他人事のようですが、あなたにも受けてもらうんですよ」
「えっ!?俺が神様試験を?」
「そうです。そもそもあなたを異世界に送るのはその試験が関係しているのです。神の力をその身に宿す者は異世界に行き、その力を制御し、覚醒させることで神と認められ神界に住むことを許されるのです」
「いや、別に神界に住みたいとは一言も……」
「何か言いましたか?」
もの凄い笑顔を向けられて言葉を続けることができなかった。だって凄ぇ威圧感なんだよ……ばあちゃんが怒った時より怖ぇ。
「あなたが試験に受かってくれないと一緒に神界で住めないじゃないですか」
「それが本音かぁ!!」
「当然です!ずっと夢見ていたんですから!!母の願いを叶えるのは息子の義務です!!」
「誰が息子だ!誰が!!」
この神様どさくさに紛れてなに言い出すんだ。というかどんどん遠慮がなくなってきてるし。
「どのみちあなたは異世界に行かなければならないのですから良いではないですか。どうせここへ来てしまった以上、輪廻の中に戻ることもできないのですし」
なんて勝ち誇った顔で言う神様。このやろう……断れない状況に追い込んでから言いやがって。
「はぁ……わかりました。どのみち異世界に行くのは決定事項ですしね。その試験とやらも受けますよ」
「ありがとう。とはいえ、きちんと訓練すればすぐに力を制御できるようになりますよ。試験自体はそんなに難しいものではないので」
「え……じゃあすぐに神界に住むことになるってことですか?」
「それでも構いませんが、せっかくなのですから異世界の生活を満喫してきなさい。あちらの世界は魔法のある世界ですからきっとあなたなら楽しめると思いますよ」
おお!魔法があるのか。異世界の王道だな。人間なら誰しもが一度は夢見るだろう魔法。もちろん俺も例にもれない。何だか行くのが楽しみになってきたな。
「とはいえ、もちろん危険もあるので色々とサポートさせてもらいます」
そう言って彼女はどこからか一つの石を取り出す。よく見るとそれは何かの鉱石だった。どことなく神々しさを感じる。
「これは?」
「これは“神銀”。神の力を形にする鉱石です」
またとんでもない代物が出ててきたな。しかし、俺には鉱石を加工する技術はない。鉱石だけ渡されてもな……。
「“神銀”に技術は必要ありません。鉱石に神の力を通し、自分の手で形を決めるのです」
「自分の手で?」
「そうです。実際にやってみた方がいいですね。見ていてください」
そう言って“神銀”を手に取る。そして次の瞬間、“神銀”が光る。その光は天照大神が現れたときと同じく神々しいものだった。更に“神銀”は光を放ちながらバターが溶けるようにグニャリと形を変える。子どものときに流行ったスライムみたいだ。形を変えた“神銀”を天照大神が手でコネ始める。まるで粘土を扱うようにコネ、手を止める。できたのは棒状の“神銀”だった。正直、小学生でももう少しまともな物が作れると思ってしまった。
「失礼ですね。ここから仕上げるんです」
からかわれた子どものように拗ねながら、再び神の力を“神銀”に込める。また神々しい光が宿り、だんだんと光が強くなる。目を開けていられなくなる程に輝きが強くなるとただの棒だった“神銀”が勝手に形を変えていく。光が収まるとそこには棒ではなく、一本の刀が存在していた。
「どうなってんだ……」
「これが“神銀”です。ある程度の形さえ決めてしまえば、あとは自分のイメージした通りの形、能力になります」
再び天照大神が神の力を込めると“神銀”はもとの鉱石の形に戻る。神の銀というだけあって人間の常識は通じないようだ。
「これを八雲にあげます。神の力を行使できるようになったら自分の好みの武器を創ると良いでしょう」
天照大神に差し出された“神銀”を受け取る。神の力など全く使える気がしないが、少しワクワクしている自分がいる。
「そろそろあなたを異世界に送らなければいけない時間ですね……」
天照大神は先程とは打って変わって寂しそうな顔をする。随分と自分のことを気に入ってくれているのだな。そこまでされると俺も分かれるのが惜しい。
「今はあなたにしてあげられることをしましょう」
次に天照大神は小さな箱のようなものと一冊の本を差し出す。
「これは?」
「あちらでの生活を助けてくれるものです。あちらに行ったら確認してください」
天照大神に言われ、受け取ったものを見る。神の力を形にする“神銀”、これといって特徴のない一冊の本、そして小さな箱。天照大神がああ言った以上本当に役に立つ物なのだろう。今更それを疑いはしない。
俺の足元が輝き出す。それと同時に何やら幾何学模様が浮かび上がる。魔法陣というやつだろうか。
「これでお別れですね。八雲、あなたに幸多からんことを」
天照大神が微笑む。その瞳に光るものがあったがここで指摘するのは野暮だろう。ついさっき会ったばかりだし、血の繋がりは全く無いのに、実の母親よりも母親のように感じた。そして俺との別れを悲しんでくれている。これが母親か……。
気がつくと、俺の頬を伝うものがあった。頬に触れて初めて自分が泣いていたことに気づく。驚いた。見ると天照大神も同じような表情だった。
足元の光が一層強くなる。そろそろお別れだ。
「色々と気にかけてくれてありがとうございました。あっちでも頑張ります。母さん」
自然とそう言っていた。初めて感じた母の愛ゆえかはわからないけど、俺はこの人(神)を母と呼びたくなったのだ。天照大神の瞳が大きく見開かれる。最後に親孝行できた気がして嬉しくなった。そうして俺は光に包まれたのだった。
あぁ……こんなに内容を変えて大丈夫なのだろうか。前の方が良かったと思われても仕方ないけど、自分を信じて頑張ります。メンタルが豆腐な作者なのでどうか温かい目で読んでください。
以前出てきたキャラはなるべく出す予定なのでご容赦ください。




