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間の図書館  作者: タン塩
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図書館司書

 (はざま)の図書館―――

 そこは現在、過去そして異世界、更には神世のありとあらゆる本が集まる場所―――

 この場所には一般に出版された本、古書や珍書等の滅多に手に入れられない本、果ては人の目に触れてはならない魔導書に神によって書かれた本―――

 更に更に図書館の中には売店やビデオスペースまである―――




 沢山の本に囲まれた、本来はかなりスペースが有ったであろうカウンターの中に二人の男女が入っている。

 

 「さっ、三十回目の修正!これでどうですか!?」

 彼は今図書館のホームページの見出しを作っていた。しかし目の前の女にことごとくダメ出しを食らっているのだ。

 女は受け取った修正案を読み、その整った眉を寸分も動かさずに言い放った。


 「ボツ」


 男は泣いた。

 この男が何故この間の図書館で働いているのか。それは3ヶ月前に遡る。




 日が暮れ、電柱の影が背を伸ばす中、道の真ん中を冴えない表情で歩いている男がいる。

 折り目の無いスーツに身体を包み、しかしそれとは対称的にだらしなく緩めたネクタイがちぐはぐな雰囲気を感じさせる男 本野紙折(しおり) 男はため息を盛大に吐きながらそれに釣られるように愚痴を漏らす。


 「ハアァ~、あ~もう面接やだ。疲れた。就職したくねえわ。」


 紙折は先程までとある企業の面接を受けてきた所だった。

 面接官3人に受験者3人のオーソドックスなスタイル。

 途中までは順調だった。しかし会話の内容が色々あってレスリングになったのが行けなかった。そこからはメチャクチャだ、いきり立った面接官達が急にラリアットかましてくるわ、受験者側はお返しとばかりにコブラツイストやキャメルクラッチを食らわすわ。

 最終的に受験者側がスーツという弱点を突かれ、KO負けして終了した、が今考えると面接官明らかにあの流れを狙っていたのでは……三人共ムキムキの上、一人マスク被ってたし。

 と、そんなことを考えていると家に着いた。

 商店街の中にある少し大きめの本屋、それが俺の実家だ。

 整然と並んだ本棚、だが、綺麗に並んでいるのはそれだけで本体である本は順序も適当に並び、カウンターの中や本棚の上に乱雑に積み重なっている。本好きがこの現状を見たら、まず泣きそして笑い最終的に憤死するんじゃなかろうか。そんな惨状だ。

 

 「あっお兄ちゃんおかえりー」


 カウンターの奥から頭だけが飛び出してきた。こいつは 本野(つづり) スポーツ万能で学校の成績は優秀その上図に乗るから本人には言いたくないが容姿端麗現在高校二年の俺の妹だ。


 「ただいま~。何か用か?」

 「うん。お父さんから手紙が来てるよ。今時、手紙なんて古風だよねぇ」

 

 綴から手紙を受けとる。

 綴は手紙を渡すと仕事は終えたとばかりに頭を引っ込めて自分の部屋へ戻ってしまった。


 家の親父 本野(おび)は基本家に居ない。

 本職は本屋であるはずなのだが、何故かいつも世界中飛び回っている。たまに写真を送ってきたかと思えば、なんかドラゴンみたいなのに乗っている写真だったり、魔王っぽい服装の人と肩を組んでいる写真だったりして我が親ながら胡散臭過ぎる。

 まぁ、そんな人なのだがそんな親父が俺に手紙とは……読み終わったら自動で消滅したりしないよな?

 恐る恐る、手紙を開封する。


 『紙折へ 

 この手紙を読む頃には俺は既にこの世に居ないだろう』

 「えっ!」

 『冗談だよ?怒った?(・ω<) てへぺろ』

 

 手紙を地面に叩きつけた。


 『たたきつけんなよぉ~』

 「そう思うんなら書くんじゃねーよ!」

 

 というかなんで叩きつけてんのわかんだよ!どっかから見てんのかよ!


 『まあそんなことは置いといて、綴から聞いたぞ。就職で難儀しているそうらしいなm9(^Д^)プギャー

 そんな可哀想な紙折君に朗報で~す。俺が昔勤めてた職場から求人が届いたからそこを紹介してやろう。ある意味ではいい職場だから頑張って働いてみろ。詳しくは別紙参照な。

 じゃあ近いうちに家に帰るから』

 

 親父が昔働いてた職場?親父が今の本屋以外で働いていたというのは初耳だが…それにあの親父が勧めてきた仕事だ。なにか裏があってもおかしくない。

 手紙に付随されていたもう一枚の紙を開く。そこには業務内容や説明の日付等が書かれていた。


 「業務内容―――図書館司書の補佐等々…親父のやつ図書館で働いてたのか。場所なんかは―――あれ?書いてないな。記入漏れか?」


 紙折が求人票を読み込んでいると紙がにわかに輝きはじめる。光はだんだんと強くなり、やがて部屋全体に光が充満すると輝きは消え、紙折が立っていた場所には手紙が残されるのみだった




 紙折は気が付くと見知らぬ場所に立っていた。さっきまでいた自宅ではない。もっと広い場所だ。しかし屋外ではない。辺りを見回して混乱する頭を整理させようとする。

 まず辺りを見て視界の大部分を占めるのが本棚だ。紙折の背丈より高い、褐色の材質で出来た本棚が列を作るが如く大量に並んでいる。そしてその本棚に収められているのは当然のように本だ。大きさも厚さも様々だが、棚には一つの空白もなく見える全ての棚に収められている。列の間から奥を見ると、どこまでも本棚が並んでいて、果ては霞んで見える。上を見上げると何階もの吹き抜けになっていて空高くに天井が見える。

 あまりの現実感のなさに後退った紙折は背後にぶつかる。よく見るとそれはパソコンや書類などが乗ったカウンターだった。

 この大量の本棚やカウンター……ということはここは


 「図書館……?」

 「そのとおりです。」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃい!!」


 背後からの声におおいに驚く紙折。

 声がした方を向くとスーツ姿の女性が立っている。

 

 「お待ちしていました。本野紙折さん」


 なんで俺の名前を…ってよく考えたら一つしかない。親父(あいつ)だわ。




 俺が会ったスーツの女性、名前はアインさんと言うらしい。アインさんは立ち話もなんだからと座る場所に案内してくれた。本棚ばかりだと思っていたが、棚の間を抜けていくと開けた場所が有り、ソファや机、椅子が並べられていた。多分本を読むためのスペースなんだろう。

 紙折とアインは適当な椅子を選び座る。聞きたいことは山積みだ。


 「あの、まずここはどこなんですか?」

 「ここは『間の図書館』です」

 「間の図書館(はざまのとしょかん)?」

 「はい。次元と次元の間に存在し、ありとあらゆる書物を収集、保管する場所になります。もちろん図書館なので貸し出しも行っています」

 

 そんなバカな!とか非科学的な!とか言いたいところだがだが手紙に飛ばされて来たり、この図書館のあり得ない広さなんかを目の当たりにしてしまっている現状納得するほかない。


 「最近は出版される本の数も増大し、私一人では手が回らなくなっていたところでした。そこで貴方の父親――帯さんに求人を出してはどうかと提案され、貴方を採用と相成ったわけです。」

 「なるほどー、そうだったんですか。

 ………は?採用?ど、どういう意味ですかっ!?」

 「適当な人材や意見・方法などをとりあげて用いることですが」

 「いや、そういう意味じゃない!古典的なボケを…。そもそも俺は求人票すら出してない!」

 「帯さんが貴方を候補に挙げたときに全て書いていきました。」

 

 何やってくれてんだあのくそ親父が!

 珍しく良いことしたと思ったらこのざまだよ!次会ったときは顔面にドロップキックを食らわしてやる。


 「犯罪じゃねえか!そんなの無効だろ!ノーカン!ノーカン!」

 「次元の狭間は治外法権です。更にこの書類は稀に来る悪魔のサタンさんから貰った契約書で破ったものは毛髪が全て無くなるという呪いが掛かるそうです」

 「くっ!じゃ、じゃあ一旦入ってすぐ辞める!」

 「辞めた場合にも毛髪が無くなると書いています」

 「逃げ場がねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 


 そうして俺は『|間の図書館(はざまのとしょかん)』で働くことになった。



書くのって難しい

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