【第9話:夢】
僕は導きの水晶を起動させた後、映像を見ていただけなのに何が起こったんだろう……。
「ダイン!? ねぇ! どうしたの!? 何があったの!?」
心配するセリアを安心させるため、せめて視線を向けて笑みを浮かべようとしたのだけれど、その笑みすら上手く作れなくなっていた。
「どうしよう!? ローズ! ダインが、ダインが……」
「セリア……あなたが……あなたが助けてあげるのよ。あなたなら出来るわ!」
「ローズ? な、何を言っているの? もしかして……」
「あなた『癒し手』に……マリアンナさんを超える癒し手になるんでしょ! なら今よ……こんな時に癒しの力を使わなくていつ使うのよ!!」
そうだ。セリアは10歳の時のギフト判定で、癒し手のギフトだと判定されたんだったな。
そのギフトを持っているからこそ、守護者養成学校への入学も認められたんだ。
「そんな……これから養成学校で習う予定だったのよ? そ、そんな……いきなりこんな……」
「じゃぁ、苦しむダインをこのままただ見ているの? 本当にそれでいいの?」
既に意識が朦朧としながらも、そんな話のやり取りをぼんやり眺めていると、覚悟を決めたのか真剣な眼差しで僕を見て頷いた。
「わかったわ……絶対に私がダインを治してみせるんだから!」
セリアはそう言って跪くと、両手を胸の前で組んで祈りを捧げ始めたのですが、とうとう痛みに耐えきれなくなった僕は、そこで意識を手放してしまったのでした。
~
(あ……れ? ここは……?)
それは、さっき見た映像の続きでした。
(僕は、夢を見ているのかな……?)
そこには荷の無くなった大きな台車と、見た事もないような電子機器やパソコンをチェックしている白衣の人たち。
(ん? あの子は何だろう? 何か凄く怒ってるみたいだけど?)
白服やスーツを着た大人に混じって、一人巫女装束の少女が僕を庇うように立って何かを訴えかけていた。
でも、庇われている僕の方は突っ立っているだけみたいだ。
(この場所に不似合いなのは白衣の人たちなのだけど、女の子の巫女装束の方が酷く浮いて見えるな)
ぼんやりとそんな感想を抱いていると、突然映像が途切れ、また同じ場所が映し出された。
(夕方?……時間が進んだのかな?)
今まで見ていた場所と同じ場所のようだけど、茜が差していて明らかに時間が違う。
巫女装束の女の子もいなくなっているし、そこにいる人の数も違うので、もしかすると時間だけでなく違う日かもしれない。
それに……地面のいたる所に、何かを掘り返したような穴があいている。
(ん? あれは……なん……だ!?)
それは巨大な蜘蛛だった。
大きさは5mでもきかないだろう。
しかし、僕が一番驚いたのは大きさではない。
僕が一番驚いたのは、その蜘蛛が鋼鉄で出来ていたことだ。
艶消し加工がされた鈍色の鋼鉄の蜘蛛は、その見た目の印象とは違い、まるで生きている本物の蜘蛛のように滑らかな動きで近づいてくる。
(あっ!? またあの輝く旋風だ!)
僕はまたあの強烈な痛みが襲ってくるのかと思って身構えたのだけど、しかし、今度は痛みは襲ってこなかった。
強烈な痛みから免れた事にホッとしていると、また場面が転換する。
(今度はどこだろう?)
そこは、さっきまで見ていた場所とは全く違う場所でした。
何かの大きな施設のように見えるけど、それにしてはやけに高い塀で囲まれていて、警備が物凄く厳重に見えます。
そんな風に観察していた時でした。
突然、その大きくとても頑丈に見えた塀が木端微塵に破壊されたのです。
そして、砂ぼこりが急に巻き起こった不自然な風にかき消されたそこには、
(あれは……僕!?)
僕と……あの巨大な鋼鉄の蜘蛛が付き従うかのように現れたのです。
(……機甲型式神システム……)
その鋼鉄の蜘蛛をみた瞬間、不意に頭の中にそんな言葉がよぎりました。
(え? 僕は今なんて……?)
あの鋼鉄の蜘蛛を見た瞬間、不意に頭の中によぎったその言葉『機甲型式神システム』。
(そうだ……あれは『20式鬼蜘蛛機甲』だ……)
しかし、心の中でそう呟いた瞬間、急速に映像が薄れていき、僕は意識を取り戻したのでした。
~
「……イン! ダイン! 気が付いたの!?」
ゆっくりと目を開けると、30cmぐらいの距離にセリアの綺麗な顔があった。
泣きはらしたのだろう。
目は真っ赤で、今にもまた泣きそうな顔だ。
「セリア……僕はいったい……」
まだ頭が混乱していて、状況が把握できないや。
「ダイン、具合はどう? もう痛みはなくなった?」
「ローズ……うん。頭が割れるように痛かったんだけど、もう全く痛くないみたい」
さっきまでの痛みがまるで嘘のように、頭は凄くすっきりしていた。
周りを見ると、どうやら僕はまだ導きの水晶が置いてある部屋で横になっているみたいだ。
時間もそれほど経っていないように感じる。
あ……今僕、セリアに膝枕してもらっているのか……。
ちょっと恥ずかしいな。
そんな風に徐々に状況を把握していっていると、突然大きな声で話しかけられた。
「おぉぉ! 回復したみたいだな! 嬢ちゃん凄いじゃないか!」
ただ、話しかけられたのは僕ではなく、セリアみたいだ。
「ダイン。セリアに礼を言っておきなさい。セリアが癒しの祈りをかけてくれたのよ」
凄いな。ギフトを持っていても使いこなすには普通何か月もかかるって聞いていたのに。
「ありがとう。セリア。大きな借りが出来ちゃったね」
「そそ、そんなの気にしなくていいわよ! そもそも借りとか言わないの! か、家族なんだから!」
なんだろう?
この一年で何度か似たような感覚を感じた事はあるけど、何か心の中に暖かいものを感じる……。
「カイさん、お騒がせして申し訳ありませんでした」
カイと言うのはこのおじさんの事だろう。
僕が倒れたあとに、ローズが助けを呼びに行った時に来てくれたみたいだ。
「ガハハッ! まさか癒しの祈りを成功させるとはなぁ!」
ギルド職員? それとも現役の守護者だろうか?
2m近い身長に、鋼のような肉体、無精ひげを生やしていて一見怖そうだが、僕たちに向けるその表情はとてもやさしそうだ。
「とりあえずもう大丈夫そうだな。呼びに行かせた癒し手はこっちで断っておくぞ?……で! この忙しい時に……コーネリアァァ!!」
前言撤回。とても怖そうです。
「ひぃぃ!? すいませんでしたーーー!!」
後で聞いた話だけど、やっぱり水晶勝手に使わしちゃダメだったみたい。
僕たちは、耳を引っ張られ、引き摺られていくコーネリアさんの後ろ姿を、ただただ見送る事しか出来ませんでした。
せめて心の中だけでもコーネリアさんに何度も謝っておこう……。




