【第8話:導きの水晶】
「ん~聞きたいことはだいたい確認できたわ。あなた達から質問や確認しておきたいことはある?」
僕たちが特にありませんとこたえると、コーネリアさんは報告書を机でトンと整えて立ち上がる。
「じゃぁ、さっきも言ったけどここの隣の部屋に水晶が置いてあるから、勝手に使っちゃって。何か良いギフトを授かっていると良いわね」
この一年間の間に何度かマリアンナさんに検査を受けてくればと勧められたんだけど、10歳の誕生日から1ヶ月以内じゃないと有料だという話を聞いて遠慮していたのだ。
でも、無料ですぐ済むならお言葉に甘えてダメもとで受けてみようと思う。
「ダインなら何か魔眼系のギフトとか持ってるかもね!」
「ギフト貰える人って10人に1人ぐらいなんでしょ? 僕は何も無いんじゃないかなぁ?」
意外と多くの人がギフトを授かるのだけど、そもそも他の世界からきた僕にこの世界の神様から授かるギフトがあるとは思えなかった。
お金を払って貰ってまで検査を受ける気にならなかったのも、それが理由の一つだ。
とは言え……僕もどこかで期待している自分がいて、ちょっとわくわくしているんだけどね。
「え~ダインなんでもそつなくこなすし、何か授かってると思うんだけどなぁ~」
「なんでもってのは大袈裟だけど、色々なことを出来る事とギフトを授かるかどうかは関係ないと思うよ?」
「ほら。そんな話してないで早く水晶を使ってきなさい。コーネリアさんのご好意だけど、他の職員に見つかったら何か言われるかもしれないわよ」
確かにローズの言う通りだ。
ちゃんとコーネリアさんから許可を貰っているけど、さっきの感じだと彼女にそんな権限は無い気がする。
雑用ばっかり押し付けられるって愚痴をこぼしてたし……。
「あぁ……じゃぁ、急いで終わらせてくるよ」
そう言って一人で部屋に入ろうとしたのだけど……。
「セリア? 何してるの? 判定は一人でやるようにって言ってたよね?」
当たり前のように僕についてくるセリア。
「えぇ~? 私も入りた~い!」
「セリア、ダメよ。水晶を使う時は集中しないと正確に判定できないし、他の者が一緒に入るのは禁止されているわ」
「ごめんね。セリア。そういう事だから、ローズと一緒にここで待ってて」
僕はそう言うと隣の小さな部屋に入ったのでした。
~
部屋の中は非常に殺風景なものだった。
古びたテーブルと椅子が一つずつ置かれているが、他には何も無く、テーブルの上に置かれた僕の頭ほどの大きな水晶があるだけだ。
部屋には窓もなく、扉を閉めると真っ暗になりそうなものだが、水晶がぼんやり発光しているため、薄暗い程度にとどまっている。
「これが『導きの水晶』か。こうして見るだけだと、ただぼんやり光るだけの普通の水晶に見えるね」
しかし見た目は普通でも、神から授かったギフトがどういったものなのかを教えてくれる貴重な水晶だ。
使い方は簡単で、水晶に手を乗せ、ゆっくりと魔力を流すだけらしい。
すると、頭の中にイメージが浮かんでくるんだって。
水晶なんだから、てっきり水晶に何かが映し出されるのかと思ったけど、軽く光るだけらしい。
「とりあえずやってみようか」
僕はそう呟くと、水晶に手を乗せてゆっくりと魔力を流し込んでいく。
「うわっ!? 凄い光りだした!?」
あまりの光量に、思わず驚いて魔力を流し込むのを止めてしまった。
「あれ? こんなに光るものなんだっけ?」
聞いていた話では、水晶がキラキラ輝いて綺麗だったって話だったんだけど、ギラギラ輝いてたよ?
あんなの直視したら目がつぶれそうだ……。
「とりあえず気を取り直して、もう一度!」
また水晶が眩く輝きだすが、今度は直視をさけていたので、集中してそのまま魔力を込め続ける。
すると、目を開けているのにまるで幻を見るかのように、頭の中に映像が流れだした。
それは不思議な映像だった。
僕は木深い森の中、木々に溶け込むように建つ社の前に立っていた。
そこには僕以外にも沢山の人がいるのだけれど、何故か数人を除いてみんな場違いな白衣を着ている。
音は無かったので何を話しているのかまではわからないが、みんな何か作業に忙しそうだ。
すると、そこに2mはありそうな大きな台車に載せられた何かが運ばれてくる。
(あれは? なんだろう? 何かとても懐かしい感じがする……)
積まれている何かは大きな布がかけられていて、何かはわからない。
そんなよくわからない映像が暫く続き……僕が動き出した。
(……いったい何をするつもりなんだろう?)
僕はさっき運び込まれた巨大な台車の前まで行くと、両手を前に突き出し、手を次々と色々な形に変えていく。
何が起こるのか興味深く観察していると、台車の周りに突然旋風が現れ……光りだした。
だけど、その光景を最後まで見る事は出来なかった。
「痛っ!? ぐぁぁぁぁ!?」
突然、頭が割れるような激痛に襲われ、光に包まれた台車の上の何かが何故か消えていく光景を最後に、僕は現実に引き戻されてしまったのだ。
「ダイン!? どうしたの!?」
僕の苦悶の声が聞こえたのだろう。
セリアが扉を開けて部屋に駆け込んできた。
「あ、頭が……割れそうなんだ……」
僕はそうこたえるのが精いっぱいだった。
「いったい何が起こったの!?」
「セリア落ち着きなさい! こういう時に身体を揺すっちゃダメ!」
「でも! ダインが苦しんで!?」
二人が来てくれたのは助かったけど、こうしている間にも頭の痛みがどんどん酷くなっていく。
「ダイン。何があったの? 説明できる?」
「ぐっ……」
ローズのその問いにこたえたいのは山々だったんだけど、口を開いても出せるのは苦悶の声だけだった。




