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【第7話:あの時の子】

 街には、今日二度目の警報が鳴り響いていた。


「魔物の襲撃が続くなんて珍しいね。ギルドも見えたし急ごう……か……って、ローズ?」


 僕は続く襲撃に少しうんざりした気持ちを切り替え、先を急ごうとしたのだけれど、ローズの様子が何かおかしい事に気付く。


 僕の視線を追って、セリアも気づいたようだ。

 立ち止まり、ローズにどうしたのかと尋ねる。


「ねぇ、ローズ? ちょっと? ねぇってば!」


 しかし、返ってきたのは、


「えっ……うそ……」


 驚きと恐怖に声を引き攣らせたつぶやきだった。


「どうしたの? 魔物の襲撃は怖いけど、ローズがそんなに怯えるなんて……?」


 セリアも二度目の襲撃に恐怖は感じているようだが、この世界では魔物の襲撃は日常だ。

 必死に恐怖を押し殺し、冷静であろうとしているのが見てとれる。


 しかし、いつも冷静なローズの顔には隠しきれない恐怖の色が張り付いていた。


「た、ただの襲撃じゃないわ……警報の種類が違う……」


「え? ……本当ね。何の警報なの?」


 そう言えばいつもの警報と音が違う事に、今更ながら気が付いた。


「本当だ。ローズ。僕は初めて聞く警報だけど、これは何の警報?」


 僕はまだこの街にきて1年だ。

 知らない警報があっても不思議ではない。


 そう思って聞いたのだけれど、


「私も実際に聞くのは初めてよ。あなた達も守護者養成学校に通っていればそのうち習ったと思うのだけど……」


 ローズも実際に聞くのは初めてだという言葉に嫌な予感がした。



「これは……モンスターウェーブの発生を知らせる警報音よ……」



 その言葉に、僕もセリアも一瞬理解が追い付かなかった。


「うそ……モンスターウェーブって……ローズ、本当に……?」


 セリアがその顔を青く染めて聞き返すが、返ってきたのは無言の頷きでした。


『モンスターウェーブ』


 この世界で人がもっとも恐れる災厄。


 普段から魔物は、人を、街を襲ってくるが、それは多くても百匹ほどの魔物で、その種類も単一の場合が多い。


 しかし、モンスターウェーブは違う。


 普段徒党を組まないはずの魔物が、まるで訓練された騎士団のように陣形を整え、一糸乱れぬ動きで攻め寄せてくるんだ。

 しかも、その攻撃は一度では終わらず、最低でも数日にわたって波状攻撃をしかけてくる。

 過去には半年に渡って攻撃が続いたこともあるそうで、その時には世界最大の都市国家であるイシュタール帝国という国が滅びている。


「私も信じたくないけど、間違いないわ。この警報は確かにモンスターウェーブの始まりを知らせる警報よ……」


「そっかぁ。でも、とりあえず行き先は守護者ギルドでいいんだよね? 報告義務もあるし、急ごうか」


「え……? いや、そうだけど……いや! そうじゃくて!? ダイン! なんでそんな落ち着いているのよ!? モンスターウェーブなのよ!?」


 どうしてセリアは驚いているんだろう?

 僕だって話を聞く限り、モンスターウェーブなんてごめんなんだけど、起こってしまうものは仕方ないよね?


「僕だって喜んでるわけじゃないよ? 面倒だし?」


「め、面倒って……」


 目を見開いて驚くセリアだけど、そこにローズが口を開く。


「ちょっと俄然ダイン(の過去)に興味がわいてきたんだけど、とりあえず言ってる事は正しいわ。まずはギルドに急ぎましょ」


「きょきょきょ興味!?」


「はいそこ! セリアが思ってるような意味じゃないから、そんなとこ喰いつかない」


「え? そ、そうなの?」


「ん? 興味とか喰いつくとか、どういう意味?」


「ダインは気にしないでいいの!!」


 ちょっと聞き返しただけなのに、凄い剣幕で怒られてしまった……。


 ~


 守護者ギルドには、それからほどなくして到着しました。


 ローズが言うには、モンスターウェーブの始まりを告げる警報は、魔物襲撃の警報と違い、すぐに襲撃があるわけではなく、だいたい数時間から数日の猶予があるようです。

 何でも、城塞都市国家指定の『眠り巫女』が神託を受ける事で、事前に発生を予見できるのだとか。


 そのため、特に今魔物の襲撃などが起こっているわけではなく、何事もなく守護者ギルドに着く事が出来たというわけです。


「うわ~! 僕、間近で見るの初めてだけど、凄い建物だね~」


 魔物襲撃時の対策本部も兼ねる場所のため、その建物は堅牢そのもので、まるで街中に突然現れた砦のようです。


「なんか緊張感ないなぁ……怯えていた私が馬鹿みたいじゃない」


「本当ね……まぁでも、ダインのお陰で少し冷静になれたわ」


 何かジト目で見られているけど、二人とも落ち着きを取り戻したようだし良しとしよう。


 しかし、そのまま僕たちは守護者ギルドの正面入り口に向かったのですが、そこでちょっと困った事になりました。


「何だお前らは? 警報が聞こえなかったのか? 物珍しいからってこんな所に来ていい状況じゃないんだ! 早く家か避難所に避難しろ!」


 既に厳戒態勢が敷かれて入場制限がかかっている上に、ピリピリしていて話もろくに聞いて貰えず、すんなり中に入れそうにありません。


「何よあいつ! 人の話も聞けないの!」


 しかし、セリアが怒っていると、そこにちょうどギルド職員の制服を着た女性が通りかかったので、話しかけて事情を説明してみます。


「ん? どうしたの? 君たちは? ちょっと私急いでるんだけど?」


 見るからに急いでいたので、声をかけると最初は少し不機嫌そうに返されましたが、ローズが守護者養成学校の職員だと身分証を呈示して事情を簡単に説明すると、聞き取りをするからとようやくギルドの中に入れてくれたのでした。


 ~


「それじゃぁ、モンスターウェーブの前の警報を鳴らしたのは君たちなのね」


 女性職員の名前はコーネリアさん。

 普段はギルドで受付嬢をしているらしいけど、今は非常事態で色々雑用を任されていて、さっきも衛兵の詰め所まで言伝てを頼まれたのだとか。


 そして僕らからの聞き取りも、他の職員が手が離せないからとそのまま任されたようです。


「はい。私たちと言うか、ダイン……この子が凄く目が良いので」


「凄いわね~。私も警報が鳴ったとき外にいたからすぐ空を確認したんだけど、全然わからなかったわよ? 何かその手のギフトでも持っているのかしら?」


 この世界には『ギフト』と呼ばれる特殊な能力を授かる人たちが大勢いる。

 守護者や衛兵をしている人は、だいたい何か戦闘に役立つギフトを持っているし、簡単な魔法が使えるようなギフトを授かっている人はかなりの数にのぼると思う。


 だいたい孤児院のみんなも全員ギフト持ちだったりするしね。


 ちなみに『癒し手』やさっき話にあがった『眠り巫女』なども、そういうギフトを授かった人だとも言える。

 つまり特定のギフトを授かった場合につけられる名称だね。


 でも、僕は自分にそのギフトと呼ばれるものがあるかは知らなかった。

 まぁこことは違う世界の生まれみたいだし、何も無いとは思うんだけどね。


「どうなんでしょう? 僕は調べた事が……いえ、調べた記憶がないので……」


「えっ!? 10歳になったら誰でも調べるでしょ?」


 さっき名前と一緒に歳は12歳だと伝えているので、それなら調べているんじゃないかと。

 ほんとはもっと上のはずなんだけど……もう12歳で登録されちゃってるんだよね……。


 あぁ何か凹んできたぞ……。


「コーネリアさん。ダインは1年前に城壁の側で倒れていた子なんですけど……知りませんか?」


 僕が城壁の側で倒れているのを発見したのは、護衛依頼を終えて街の城門に向かっていた守護者の人だったと聞いている。

 なので、ローズはギルド職員なら報告とか受けて知っているんじゃないか言っているうようだ。


「あぁぁぁ!! あの時の子なのね! 仲の良い同僚が報告書を纏めてたから知ってるわ! とすると……記憶喪失だって話だった気が……」


「はい。僕は倒れていた前の記憶がほとんどないんです」


 そう言うと、申し訳なさそうに謝ってきた。


「ごめんね~嫌な事を聞いちゃったわね」


「いえ。気にしてないので大丈夫ですよ。今は家族もいますし」


 そう言って、セリアとローズに視線を向けると、嬉しそうな笑みを返してくれた。


「そっか~そういう事なら良かったわ。あっ、それなら後でギフト調べてみる? 私はすぐ仕事に戻らないといけないから付き合ってあげれ無いけど、聞き取り終わったらギフトの有無を調べてみたら? 『導きの水晶』が隣の部屋にあるから勝手に使っていいわよ」


 こうして僕は、ギフトの判定を受ける機会を得たのでした。

 少しわくわくしながら質問に答えていたのは内緒です。


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