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【第45話:蹂躙】

 目前に迫る魔物5000に対して、こちらは鬼蜘蛛100体。


 街に向かうだけなら一点突破を狙うのが楽なのですが、このあと第2第3の魔物の群れが待ち構えている事を考えると、後顧の憂いを断つためにも少しでも数を減らしておきましょう。


 僕は鬼蜘蛛部隊に指示をだし、やや扇型の横一線に展開します。

 点ではなく、面で接敵し、殲滅できるように。


「鬼蜘蛛! まずは接近前に数を減らす! 鉄糸のブレス用意! ……放て!!」


 特に鉄糸のブレスという正式名称があるわけではないが、無数の鋼鉄製の糸をブレスのように放射状に吐き出すので、そう呼んでいます。


 そしてその効果は並のブレスより強力です。


「「「す、すげぇぇぇ!?」」」


 100体の鬼蜘蛛から一斉に放出された鉄糸のブレスは、前方に展開していたゴブリンやオークの魔物数百体を一瞬で貫き、その活動を永遠に停止させます。


 この『20式鬼蜘蛛(ふたまるしきおにぐも)機甲』には、もっとちゃんとした遠隔攻撃手段が備わっているのですが、そちらは移動しながら使う事が出来ないですし、何より人を背中に載せて使用すると危険なので使用できません。


 なので、今回は次々と鉄糸のブレスを放って魔物を蹂躙していきます。


 途中、鉄糸のブレスをくぐり抜けてきた魔物や、魔法などの遠隔攻撃手段を持つ魔物が反撃を試みてきましたが、8本ある脚を器用に使って的確に防いでくれたので、背に乗る『暁の羊たち』の皆さんも誰一人怪我をせずにすみました。


「戦いにすらならなかったわね。行軍速度を落とす事すらせずに倒し切るなんて……」


 魔物の群れを抜けると、フォレンティーヌさんが呆れたように呟きます。

 結局、最初に待ち受けていた5000の魔物の群れを蹂躙し終えるのに、20分もかかりませんでした。


「まぁ本番はハヤトっちが動きを見せてからですからね」


 僕はそうこたえると、目の前に迫る次の魔物の群れに意識を向けたのでした。


 ~


 その後、待ち受ける魔物の群れ第二陣を同じように蹂躙していると、僕の護衛として追従し、すぐ後ろを飛んでいた祢々切丸が話しかけてきました。


『小僧! 前方のデカいのは鬼蜘蛛ではちょいと梃子摺るだろう? ちょいと行って露払いをしてくるぞ!』


 突然僕にそう告げると残像を残して見えなくなります。

 身勝手な行動は慎んでもらいたい所ですが、既に僕の視力でも捉えるのが難しいほど遠くに行ってしまいました。

 遠くに見える第3陣の魔物の群れを強襲しにいったようです。


「鬼蜘蛛だけでも余裕で倒せると思うんだけど、出番無いから痺れを切らしたんだね……」


 まぁでも、第3陣の魔物の群れは、サイクロプスなどの大型の魔物が中心だったので、鉄糸のブレスだけでは倒せないかもしれません。

 ここはありがたく感謝しておきましょう。


「なぁ、サバロンさん、オレ達いる意味あんのか……?」


「こいつの背中に乗ってしがみついてるだけなんだが?」


「知るか!? 俺に聞くな!!」


 近くの鬼蜘蛛の背に乗っている人たちが拗ねても困るので、この後の事を話しておきましょう。


「サバロンさん、この後もう一度魔物の群れを突破したら、あとは街までに敵はいません。だけど、街は数万の魔物に包囲されていますし、既に西門は破られていて一刻を争う状況です」


 スナイパーの支援がなければ、もうとっくに他の門も破られて、今頃街は魔物たちに蹂躙されていた事でしょう。


「このまま僕が街の防衛にあたれれば問題ないのですが、ハヤトの動きが読めません」


「ハヤトの野郎か……」


「はい。彼が動けば僕が対応するしかないと思うので、サバロンさんたちはこの鬼蜘蛛たちを率いて、防衛戦の援護に回って欲しいんです」


「そうだな。本当ならこの腕の仕返しをしてやりてぇとこだが、オレじゃ10秒も持たずに殺されるだろうからな。しかし、鬼蜘蛛の群れを率いるっていったいどうすんだ? 誰の命令でも聞くわけじゃねぇだろ?」


 どうやらサバロンさんの腕を奪ったのはハヤトっちみたいですね。

 何があったのか少し気になりますが、それは後で良いでしょう。


「はい。この魔物の群れを抜けたら、一時的、限定的な鬼蜘蛛の命令権を与えますので、鬼蜘蛛たちを連れてってください」


 僕が遠隔から命令出来ればいいんですが、あいにく機甲式の鬼蜘蛛は僕から1kmほど離れると動作不能になってしまいます。

 そこで、対象が魔物の時に限って命令を出す事が出来る、限定的な命令権を与える仮の契約を結んで、南を除く三つの門に鬼蜘蛛を率いて応援に向かって貰おうというわけです。


「なんかよくわからねぇが、こいつらを防衛戦やってるとこまで連れてって、魔物を殺せって命令すりゃぁ良いんだな?」


「はい。西門以外の門も既に危ない状況ですので、出来るだけ急いで駆けつけてあげてください」


「わぁったよ。それぐらいなら任せろ」


 説明が終わって数秒、ちょうど前方にいた最後の魔物が、その顔に無数の小さな穴を穿たれて倒れていきます。


「これで第二の魔物の群れを突破しましたね。次の魔物の群れは少し手間取るかと思ったんですが、祢々切丸がもう半分以上倒してますから、このままの勢いで一気に突破してしまいましょう」


「ダイン、なんか私の常識がガラガラと音を立てて崩れ去っていくんだけど……。そもそも突破って言ってるけど、全滅させちゃってるからね?」


「まぁ全滅させないと南門も守らないといけなくなりますから。それより、申し訳ないのですが、フォレンティーヌさんには僕と一緒に来てもらえないかと思っています。正直かなり危険だと思うので判断はお任せしますが、どうしますか?」


 オリジナルであるフォレンティーヌさんには、出来ればマリアンナさんの所に一緒に来て貰えないかと思っています。


 ただ、ハヤトっちとの戦闘になれば、フォレンティーヌさんを守りながら戦う余裕などあるわけもなく……。

 危険だから無理強いは出来ないと聞いてみたのですが、返事は悩むことなく返されました。


「もちろんついて行くに決まってるじゃない。私も真相とか知りたいし、もとより覚悟は出来てるわ。これでもグリムベル孤児院出身なのよ?」


 フォレンティーヌさんの言う「グリムベル孤児院出身」という言葉の意味が、重みが、今はよくわかります。

 幼少の頃に攫われて異能の開発を施され、ただ戦う技術だけをひたすら磨き、最後にはまるで蟲毒のように殺し合い、そこを生き残ってきたという事がどれほどのことなのか。


 そして「それに、あなた一人を死なせはしないわ」と、片目をパチリとしながら続けます。

 ゴミでも入ったんでしょうか?


 でも……その言葉に、何故だか胸に暖かい何かが広がっていくように感じます。


「ありがとう、ございます」


 自然に零れたその言葉を最後に、僕は口を閉ざし、シグルスの街に意識を傾けていくのでした。


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