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【第42話:シグルス包囲網】

 僕は暫く言葉の意味が理解できなかった。


「マリアンナ?」


 ……マリアンナさんの……事……?


 たまたま名前が同じだけ?


 きっとそうだ。

 城塞都市国家シグルスは1万人を超える人が住んでいます。


 でも……。


「いや……違う……」


 マリアンナさんはグリムベル孤児院の対抗勢力『暁の羊たち』のまとめ役の一人だと言っていた。


 その事実が、僕の都合の良い現実を否定します。


「自分勝手な考えに逃げちゃダメだ。そうだ。まずはこの状況を何とかして抜け出さないと……」


 そして、ハヤトっちをとにかく止めなきゃ……。


 それはわかっているのですが、気ばかり焦ってしまっているところに動揺が重なり、冷静に考える事ができません。


 第2の視界を見れば、今攻め込まれている西門が既に本格的な戦闘に突入しています。


(スナイパー! とにかく撃って撃って撃ちまくって!)


(兄貴……任せておけって言いたい所なんだが……)


 いつもならうるさいぐらいに元気にこたえてくれるスナイパーが、言葉を濁している事に急激に不安が広がります。


(既に手一杯だ……すまねぇ)


(手一杯ってどういう事……?)


(さっき、手薄な東門に向かう魔物の大軍を見つけたんだ。兄貴は戦闘中だったから、既にこのスナイパー様の自己判断で、そっちの対応にあたってるんだよ……)


 その言葉にあわてて街の東側に視界を移すと、数えるのも馬鹿らしいほどの魔物の群れを発見します。

 スナイパーが次々撃ち抜いているようですが、尋常じゃない数に完全には抑えきれていません。


「はっ!? まさか……」


 僕は第2の視界をそこから街の北側に向けるのですが……、


「北にも……」


 スナイパーが対応していない分、北側にはさらに倍する魔物の群れが南下しているではないですか。

 このままでは本当に城塞都市国家シグルスがこの世界から消えてなくなってしまいます。


 しかし、もしやと思って確認した街の南側には、魔物が攻め寄せる気配はありません。


 不審に思った僕は、そのまま僕のいる南の方へとさらに視界を動かしていくと……街よりも僕に近い場所でようやく魔物の群れを発見しました。


「この配置は……万が一、僕がこの拘束を解いた時の為か……やられましたね」


 そう。南にいた全ての魔物は、まるで僕からシグルスの街を守るかのように配置されていたのです。

 この魔物の群れを殲滅して街に辿り着くのには、いったいどれほどの時間がかかるのでしょうか……。


「そんな……無理だ……さすがにこんな状況どうすれば……」


 ダメだ……色々な事が処理しきれなくて、弱気になってしまってる。

 マリアンナさんの事は……直接本人に聞こう。

 だから、今はこの状況を抜け出す事だけを考えるんだ。


 僕の異能の中で、この拘束から簡単に抜け出せるのは『影渡り』です。

 支配されていない魔物なら『衛星射撃』で牧羊犬のように追い回せば誘導できそうですが、今は難しそうです。


「そうだ! フォレンティーヌさんはどこに!?」


 南側の魔物の動向を監視しているんじゃないのか?

 僕は『黒子』で人を見つけるだけの簡易人格を複数創り出すと、次々に指示を出していきます。


 そして、その間に『妖精の囁き』を使って概念上の妖精を創り出すと、いつでも飛ばせる準備を整えました。


「フォレンティーヌさん……お願いだから5km以内にいて下さい……」


 催眠効果は期待できなくなりますが、最大5kmぐらいまでなら声を届ける事が可能です。


 しかし……僕の願いは届きませんでした。


 簡易人格の一人からの発見報告にしてがって視界を向けますが、


「6kmぐらいか」


 残念ながら範囲外です。


 女神様、この一年、欠かさず続けていた朝晩の祈りは無駄だったんですね。そうですか。


「ご飯前のお腹が空いている中、我慢して祈ってたのに……あっ!?」


 ちょっと拗ねて女神様に八つ当たりしてたら、フォレンティーヌさんたちに何か動きがありそうです。


「あっ!? 街の方に向かっちゃう!?」


 これは不味いです。

 女神様のバチが当たったのでしょうか。

 これからも欠かさずちゃんとお祈りするので、許してください……。


(スナイパー、少し『衛星射撃』借りるよ。被ったら不発になるから、そのつもりでよろしくです)


(承知したぜ!)


 射撃のタイミングが被らなければ使えるし、今スナイパーが足止めしている東側は魔物しかいないようだから、不発が何度か続いても大丈夫でしょう。


 それよりも僕の脱出を優先させます。


「フォレンティーヌさん、他の『暁の羊たち』の皆さん、気付いて下さいね……」


 とりあえずフォレンティーヌさんたちには聞こえないだろうけど……、


「……あと、ごめんなさい……『衛星射撃』!」


 先に謝っておきましょう。


 僕は、街の方に向かおうと動き出したフォレンティーヌさん達の前方を塞ぐように、次々と射撃していきます。


 それはもう隙間の無いほど念入りに。


 あっ、ちゃんと威力は最小出力で撃ってますよ?


 それでも当たれば大怪我ですが……。


 ~


 撃ち続ける事、5分ほどでしょうか?


 衛星射撃に混乱していたフォレンティーヌさん達ですが、何とか僕の意志に気付いて進む方向を僕のいる方向に向けてくれました。


「良し! そのまま進んでくださいね……あっ、そっちじゃない! 『衛星射撃』!」


 危ない……今のはちょっと近かった……。

 ちょっと大量の土を頭から被っただけだから、きっと許してくれるでしょう。大人だし。


「しかし、なんか牧羊犬になった気分ですね」


 このままいけばあと5分もしないうちに僕の『妖精の囁き』の範囲内に入りそうです。


 そう思い、少し安心した時でした。


(兄貴!! 不味い! 西門が破られた! おまけに北側の魔物がもう少しで北門に辿り着きそうだぜ!)


 スナイパーから最悪の報告が飛び込んできたのでした。


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