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【第39話:グリムベルの悪夢】

「おい……答えろよ。本当にダイちゃんなのか……?」


 どうしよう。僕の名前はダインだから、間違いないと思うんだけど……。


「答えろよ!!」


「たぶん?」


 あっ……つい反射的に素直に答えちゃった。


「たぶんって、何だよ!!」


 不味いですね。

 感情的にさせるという意味では成功なんですが、こちらも動揺してしまっています。


 仕方ないので、記憶が断片的だと正直に話しましょうか。

 僕の過去やグリムベルについても知れるかもしれないですし。


「ごめんね。僕は記憶が断片的で、君の事を不意に『ハヤトっち』って呼んでしまったけど、よく覚えてないんだ」


 正直に話した僕の言葉に、一瞬複雑な表情を浮かべて後ずさりしたかと思うと、ハヤトっちは不意にクツクツと笑い始めました。


「クックック……俺様としたことが取り乱しちまったぜ……とりあえず、お前がダインだって事は間違いないようだが、だから何だって話だよな……だいたいよ~こっちに来るのが遅すぎなんだよ!!」


 突然そう叫んだかと思うと、こちらに何か衝撃波のようなものを放ってきます。


 僕は咄嗟に前面に『次元遮断』を展開して防ぐと、


「おいで。祢々切丸(ねねきりまる)!」


 すぐさま祢々切丸を召喚し、続く攻撃に備えます。


「ハハッ! ダイちゃん、やるじゃねぇか!」


『なんだ? 中々とんでもない奴の相手をしておるのぉ。おっと、小僧、来るぞ!』


 四方八方から放たれる衝撃波を祢々切丸で斬り裂き、牽制に『衛星射撃』を放ちながら、今度は僕の方から斬り込んでいきます。


 しかしハヤトっちは、牽制で放った衛星射撃の攻撃はもちろん、僕が一瞬で間合いを詰めて放った祢々切丸の横薙ぎの一閃も避けることなく防ぎぎります。


「おらぁ! 『不干渉の衣』はそんな攻撃じゃ破れないぜ!」


 たしかに中々厄介な異能のようですね。

 正攻法の攻撃は、完全に無効化されてしまうようです。


「じゃぁ、これはどうかな?」


 とりあえず『次元遮断』でハヤトっちを囲んで身動きできないようにしてしまおうと思ったのですが……。


「だから無駄なんだよ!!」


 なぜか次元遮断の檻を素通りしてこちらに向かってきます。


「なるほど。自身を別次元におくような概念かな? それでこちらからのあらゆる干渉を無効化している?」


 僕がそう分析して呟くと、一瞬驚いた後、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべます。


「さすがダイちゃんだな! だが、理屈がわかってもどうしようもないぜ?」


『小僧! 後ろだ!』


 祢々切丸がそう叫ぶと同時に僕も気づきますが、ちょっと間に合いそうもありません。

 僕の真後ろで発生した衝撃波を避けきれず、僕は吹き飛ばされてしまいました。


 今まで全ての衝撃波が、ハヤトっちのすぐ側からこちらに向けて撃ち込まれていたのですが、どうやらそう思わせる罠だったようです。


「へぇ~? 至近距離で俺様の『妖波動』を受けて、ほとんどダメージなしか」


 確かにハヤトっちの言うように、『気功法衣』のお陰であまりダメージは受けませんでしたが、全く効いてないわけではありません。

 次々と放たれる衝撃波に耐えながらも『次元遮断』をいくつか展開してみますが、障壁として展開した内側の至近距離から放たれ、防ぎきれません。


「くっ!? これは中々キツイですね……」


 斬撃や温度変化には強い『気功法衣』ですが、衝撃に関しては完全に防ぐことは出来ません。

 ほかの異能はまだ使いこなせていないのですが、ちょっと練習済みの異能だけでは対応出来そうにありませんね。


 そう考え、ほかの異能を使おうとした瞬間でした。


「どうした! 第13孤児院の名が廃るぞ!」


『いかん! 同時に来るぞ!』


 ハヤトっちのその叫びとともに、至近距離から全方位同時に衝撃波が襲ってきました。


「かはっ!?」


 これはちょっと不味いですね……一瞬意識が飛びかけました。

 衝撃が逃げる方向がなくなったせいで、今までの比じゃないダメージに足元がふらつきます。


「どうした! そんなものか!」


 次々と全方位から同時に放たれる衝撃波に、咄嗟に発動させた『孤高の碇』で何とか凌ぎますが、最初に受けたダメージが大きい上にこれでは身動きが取れません。


「んっ? 確か『孤高の碇』とか言う欠陥防御か?」


「なぜ、僕の異能を知って……」


「ふははは! 昔孤児院で散々()()()()させられたじゃねぇか! そんな事も忘れちまったのかよ!」


「殺し合い?」


「グリムベルでは能力開発……ってか人体改造だな。と一緒にどこの孤児院でも行われていたじゃねぇか。バトルロワイヤルって形の殺し合いがよう!」


 やはり僕のいた孤児院は中々に特殊な孤児院だったようですね。

 少し回復のために『孤高の碇』で攻撃を防ぎつつ話を聞いてみる事にします。


「孤児院で能力開発ですか? そもそも孤児同士に殺し合いをさせるって何のために……」


「グリムベルの孤児はなぁ……本当は孤児じゃねぇ……。グリムベル因子っていうのを持って生まれちまったがために、世界中から攫われてきた哀れな子供(被害者)たちなんだよ。孤児院なんて名ばかりの人体改造を施す軍の人体実験施設のな!」


 グリムベル孤児院って、中々とんでもない施設だったんですね。

 子供を誘拐してきた上に、人体改造を施して、さらにはその孤児同士を殺しあわせるなんて……。


 同じ孤児院と言う名前を持つ施設でも、マリアンナ孤児院とは似ても似つかない施設です。


 僕がその事実に驚いている間も、ハヤトっちの話は続きます。


「まぁ……そんなクソッタレな施設も今はもう跡形もなく、無くなっちまってるけどよう」


 なにかを思い出すように黒い笑みを濃くするハヤトっちに、少し薄ら寒いものを感じます。


「無くなっていると言うのは……?」


「グリムベルの悪夢も覚えてねぇのかよ。各孤児院の生き残り13人で起こした反乱で、皆殺しにしてやったんだよ……国ごとよぉ!」


 その話を聞いた瞬間、僕の頭に過去の記憶が一気に流れ込んできたのでした。


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