【第36話:二つのグリムベル】
「この世界で一番の災厄は魔物だ。そして……その魔物を生み出しているのは、モンスターウェーブを起こしているのは……ハヤト様なんだよ……」
その明かされた衝撃の事実は、僕の思考を停止させるのに十分だったのでしょう。
まぁだから、仕方ないのかもしれないですが……頼んだのは僕なんですが……。
(ジリリリリンだぜー! 兄貴起きろぉ!!!!)
スナイパーの空気を読まない叫びに、何か納得のいかないものを感じるのは我儘でしょうか……。
そもそもジリリリリンって言うのはモーニングコールのつもりなのでしょうか……。
(あ、あぁ、起きてるよ……起きてるさ……ありがとうね。スナイパー。もう大丈夫だから……)
(そうか! まぁスナイパー様の仕事にミスはないぜ!)
僕はどうして遊び心を加えてしまったのだろうと若干の後悔を覚えながらも、脳内の会話を打ち切って話を再開する事にします。
「ちょっと、いえ、かなり驚きました。まさか魔物やモンスターウェーブが人の手によって生み出されていたなんて……」
「まぁそうだよなぁ……俺もその事実を知ったから、グリムベルの中の反抗勢力に加わったんだしな」
なるほど。そういう理由があったのですね。
「という事はフォレンティーヌさんもそれを知って……、という感じですか?」
「あぁ? どうだろうな? フォレンティーヌはオリジナルの一人だからな。もしかすると他に理由があんのかも知れねぇ」
そう言えば、オリジナルというのが何なのかをまだ聞けていません。
「サギットさん、そのオリジナルと言うのは結局何なのですか?」
「まずはそこを説明するか。オリジナルってのはな、元の世界の孤児たちの事だ。俺のようにこの世界で生まれ、この世界のグリムベル孤児院で育てられた者じゃぁない。あっちの世界のグリムベル孤児院出身の者のことだ」
何だかややこしくなってきました……。
「つまり……この世界メリアードにも、僕が元々いた世界にも、両方の世界にグリムベル孤児院が存在するという事ですか?」
「そうだ。12の孤児院は、それぞれの世界に存在しているらしい。俺も話できいただけだから、元の世界の方は本当かどうかはわからねぇが、まぁそんなの嘘ついても仕方ねぇだろ?」
「そうですね。で……やっぱりサギットさんも12までしか孤児院はないと?」
僕がフォレンティーヌさんに第13孤児院出身だと言った時、驚いていたのを思い出してそう言ったのですが、
「いや、グリムベル第13孤児院だけは、元の世界にしか存在しねぇらしい」
元の世界には確かに存在するという話でした。
「そうなんですか? しかし、どうして第13孤児院だけこちらの世界に作らなかったんでしょう?」
「俺も詳しくは知らねぇんだが、元々こっちの孤児院は向こうの世界からやってきた奴を受け入れるために増えていったらしい。だが、13孤児院の奴はもうこっちの世界に来ることは無いから作る必要は無いと聞いてたんだが……」
そう言って、僕に視線を向けるサギットさん。
「なるほど……それなのに、第13孤児院出身の僕がやってきたと」
「だな。なにせ、各孤児院のオリジナルは一人ずつ、ハヤト様が直接この世界に連れて来たらしいからな」
「つ、連れて来た?」
さっきから驚きの情報が多すぎますよね。
「ハヤト様の能力者ランクは明かされていないが、かなり多くの異能を持っているようでな。その中でも知られている異能の一つに『異界渡り』というのがあってな。自由に行き来できるわけではないらしいが、一人だけ連れて異世界を渡れるらしいんだ」
それは凄い異能ですね。
僕の30の異能の中にも異世界を渡れるような異能はありません。
「もしかして、その連れて来た人の数が12人とか?」
「なんだ? 良くわかったな。各孤児院に一人ずつ連れて来たオリジナルを所属させているんだ。ちなみに俺はフォレンティーヌとは違う第3孤児院出身な」
何となく直感でそんな気がしただけでしたが、正解の様です。
「でも、同じ孤児院出身なんですね。その割には少しよそよそしかったような?」
今思い返せば、あの場ではフォレンティーヌさんの事を「樹氷」と呼んでいた気がします。
「俺らこっちの世界の孤児らの最重要任務の一つによう。「陰からオリジナルを守れ!」って言うのがあんだよ。だから、俺たちはオリジナルの事を知っているが、オリジナルであるフォレンティーヌは俺たちの事は知らねぇってわけだ」
だから、あの場では同じ守護者としての顔見知り程度の間柄だったんですね。
「ん? それじゃぁ、僕に接触してきた理由って言うのは……」
この分だと守るだけでなく、監視の役目も担っていそうですし、恐らくサギットさんたちもフォレンティーヌさんの行方を掴めていないという事なのでしょう。
「あぁ、そうだ。感づいてるようだから話すが、この街にいる第4を除く全孤児院の手のものの監視下にありながら、フォレンティーヌは忽然と姿を消したんだ」
もう少し話を聞いてみると、オリジナルが派遣されている都市国家には、オリジナルが所属する孤児院以外の各孤児院の手の者が、必ず一人ずつ配置されているそうです。
しかし、ハヤトという人はかなり用心深いようですね。
他の孤児院の者たちもお互いに誰がグリムベル孤児院の手のものかが知らされていないようで、サギットさんも他のグリムベル孤児院の者が誰なのかはわからないという事でした。
おそらく裏切りにくい環境を作っているのでしょう。
それにしても、聞けば聞くほど話のスケールが大きくなっていきますね。
僕は若干辟易としながらも、今後どう行動すれば良いかについて考えを巡らせていました。
ただ、決して警戒を怠っていたわけではありません。
何故なら、僕はスナイパー以外にも創り出している汎用監視用の簡易人格に、周りの警戒させていたのですから。
しかし……その気配は、僕の警戒網を掻い潜って突然現れたのです。
「だれだ!?」
修練場の入口付近に何者かが立っている事に気付き、振り向きざまにそう誰何したのですが……。
「あらあら? ダインもずいぶん男らしい口調を使うようになったのね~♪」
そこに立つ予想外の人物に、更に混乱を深める事になるのでした。




