【第31話:スナイパー】
~時は少し遡ります~
「狙い撃ちます! 『衛星射撃』!」
僕がその掛け声とともに元カボチャ畑を破壊……じゃなくて、試し撃ちをしていた時、実はもう一つ別の異能を試していました。
その異能の名は『黒子』。
任意にもう一人の人格を脳内に創り出し、別の事を考えさせたり、周りを警戒させたり出来る異能です。
僕は衛星射撃の試し撃ちが上手くいったので、新たにもう一人の人格を創り出す事にしたのです。
せっかく遠隔で攻撃できる強力な異能なので、遊ばせておくのは勿体ないですからね。
それに、少しでも早くこのウェーブを乗りきれれば、結果的に怪我人も減ってマリアンナさんの負担も少なくできます。
(とりあえず僕自身の人格をベースにして……あとは真面目過ぎると味気ないので、遊び心を加えて少し砕けた感じに。あっ、でも忠実な人格にしておこう)
単純な事をさせるだけなら、僕の命令を遂行するためだけの、人格と呼べないようなものでも構わないのですが、今回は僕の性格をベースに少しアレンジしてみました。
あとは名付けをすれば完了です。
(お前の名前は「スナイパー」だよ。衛星射撃の使用権限を与えるから、街の外にいる第一ウェーブの敵の殲滅をお願い。くれぐれも街の人を巻き込まないように注意してね)
僕の知識は無条件で参照できるようにしてあるので、事細かに指示を出さなくていいのが楽で良いです。
(オフコース! 兄貴! このスナイパー様に任せておきな!)
ちょ、ちょっと僕の遊び心が暴走している気がします……。
(あ、あぁ、よろしくね。スナイパー……)
(ノンノンノン! ノーーーープロブレム! 兄貴は大型空母にでも乗った気で待ってな! 乗った事ないけどな!)
そして、イッツァジョークだぜ! と続けます……。
ホントに大丈夫でしょうか……。
やはり、たまに様子を……いや、こまめに様子を確認する事にしよう。
~そして現在に戻る~
「とまぁ、そういう訳で、その後は延々とスナイパーがひたすら撃って撃って撃ちまくった結果、押し寄せていた魔物を全部倒しちゃったというわけなんです」
ちなみに、スナイパーも話し方が少しアレなだけで中々優秀でしたよ?
途中、(うひゃひゃひゃひゃ!)とか変な笑い声をあげながら撃ちまくっていた気がしますが、それぐらいですし。それぐらいですし!
「だから本当は正門に行って、どのような感じで倒したのかを直接この目で確認しようと思っていたんですが……僕はこのまま孤児院に帰りますね!」
そう言って歩き始めたのですが……、
「ふぉ、フォレンティーヌさん?? あの……また足が凍ってきて、冷た痛いかなぁって……」
今度は一瞬で僕の下半身が丸ごと覆われるような巨大な氷に包み込まれています。
「ちょっと黙って……今、頭の中を整理しているから、そこで凍ってなさい」
本当に目で絶対零度の異能を発現していると言われても信じるレベルの冷たい視線です!?
~3分ほどお待ちください~
「あの……そろそろ冷たさが限界かなぁ~なんて……あ、何でもないですっ……僕このまま黙って凍ってまーす」
そそ、それから更に1分ほほど、ほどでしょうかか……。
フォレンティーヌさんはその視線を冷たい視線からジト目に切り替え、深くため息をつきながら話し始めました。
あと、何とか無事に解凍中です……。
「それで……ダインはその『衛星射撃』とかいう異能を『黒子』で創り出した人格に任せて、魔物数千匹を倒したと?」
「そうですね。街中では少し使いにくい異能なんですが、外なら高火力の攻撃を撃ちまくれるので……」
ただ、衛星射撃の火力を最大に上げてもベヒモスクラスは倒せないでしょう。
鬼蜘蛛で倒したアーマーボアぐらいなら、一匹ずつ火力を集中させれば何とか倒せますが。
それでも防御に特化した大型の魔物であるアーマーボアが倒せるという事は、第一ウェーブの主戦場にいたほとんどの魔物が倒せるという事で、
「結局、もう一匹いたベヒモスとマウンテンタートルっていう小山みたいな大きな亀の魔物を七枚盾の人たちに任せたら、残りはだいたいスナイパー一人で倒せました」
一部の魔物を除いてほとんどの魔物をスナイパーが倒しちゃったんですよね。
本当に優秀です。ちょっと話し方はアレですが。
「そ、そうなのね……ところで確認なんだけど、その衛星射撃と言うのはどこから誰が撃ったかはわからないのよね?」
「そうですね。僕がこういう異能を持っているのを知っていたら疑われるかもしれないですが、まずバレる事は無いと思います」
状況から僕だとバレる事はありえますが、今回は恐らく大丈夫でしょう。
まず、城壁の外での攻撃は全て黒子に任せて、僕自身は少し目立つ形で城壁内で戦っていたのでアリバイがあります。
その上、僕はこちらの戦いでは一度も衛星射撃を使用していません。
スナイパーに衛星射撃の使用権限を与えていても僕も使う事は出来るのですが、同時には使えません。
途中からスナイパーが奇声を発しながら撃ちまくっていたので、邪魔して絡まれても面倒だと思って……でも、結果オーライですね。
「バレないなら……ダイン! 絶対に知らぬ存ぜぬで白を切りとおすわよ!」
「あ、はい。僕は全然かまわないですが、どうやって誤魔化すんですか?」
とりあえず僕は黙っていれば良さそうですが、どうやって誤魔化すのか気になります。
「神の裁きよ……」
「え?」
「神さまが怒って魔物に天罰を与えたとか何とか、そんな噂を流しまくるわ! こっちの世界の人たちは皆神様を信じているからきっと大丈夫よ!」
「は、はぁ……神様怒らないですかね?」
確かに孤児院のみんなは神様を信じていますし、癒しの力も神の恩寵だと本気で思っています。
ギフトにしてもそうですね。
まぁ僕もフォレンティーヌさんもギフトを持っていないのでわかりませんが、本当に神様がいても不思議ではない世界です。
だから神様はいるのかもしれませんが、今回は神様に「ごめんなさい」して許して貰いましょう。
「とりあえずダインはどこにも寄らずに孤児院に帰りなさい。あと、明日にでも守護者養成学校にまた顔を出すから、ちゃんと出てくるのよ? その時に全部話すわ」
「わかりました。色々ありがとうございました。また明日よろしくお願いします」
少し疲れた顔ではありましたが、その整った顔立ちに笑みを浮かべ、
「じゃぁまた明日ね。一応、気を付けて帰るのよ」
そう言って小さく手を振るフォレンティーヌさんでしたが……次の日も、その次の日も、その姿を再び見る事は出来ませんでした。




