【第30話:正門前の戦い】
「命を狙ってくるのは、グリムベル孤児院の奴らよ」
「え? どうしてそんな事を……?」
僕は正直理解できませんでした。
この一年マリアンナ孤児院で過ごした事で、あそこの人たちはみんな家族だと思っています。
それなのにグリムベル孤児院の人は、そんな同じ孤児院にいた者の命を狙うというのです。
「詳しいことは、また落ち着いた時にでも話すけど、奴らは手段を選ばないわ。もし、あなたが今の孤児院の子たちを大事に思っているのなら、素性がバレればあの子たちも危険に巻き込まれると思った方がいいわよ」
「大事に思っていません」
「いや……今わたしに嘘ついてどうするのよ……とにかく誰に聞かれても黙っているようにちゃんと伝えておくのよ」
どうして嘘をすぐわかったんでしょう……。
「わ、わかりました。絶対に誰にも話さないように説得します!」
とにかく孤児院に帰ったら、セリアとソニアにしっかり言い聞かせておかないといけませんね。
大量のお菓子が効果的でしょうか?
「それで問題は守護者たちだけど、幸い今ここにいる守護者はサギット率いるお人好しクラン『ヒトノタメ』だから、しっかり口止めしておけば大丈夫だと思うわ。だからこっちは任せてあなたは一度孤児院に帰りなさい。まだ正式な守護者じゃないんだから」
確かクランと言うと守護者の中で仲間を募って、依頼や防衛線時に共に行動するグループだったはずです。
みんな顔見知りのようでしたし、息があっていたのはそういう事だったんですね。
しかし、クラン名『ヒトノタメ』って、お人好しそうなサギットさんにぴったりの名前だ。
「わかりました。ありがとうございます!」
僕はフォレンティーヌさんに深く頭を下げて、
「それじゃぁ、後の事、よろしくお願いします」
そう言って、その場を後にしたのでした。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「……ちょぉっと、待ちなさい!!」
……そ、その場を後にしようと思ったのですが、フォレンティーヌさんに呼び止められました。
「ナ、ナンデショウ?」
「……どこ行く気?」
「コ、コジインニモドルトコロデスヨ?」
僕はそう答えたのですが、フォレンティーヌさんは僕が向かっていた反対方向を指さし……。
「あっちがマリアンナ孤児院……それで……」
そして『雪の羽衣』を纏って僕の前に回り込むと、今度は僕が向かっていた方向を指さし、
「こっちにあるのは……正門よ? 今主戦場になっているセ・イ・モ・ン!」
そう言って凍るような視線で見つめ……、
「ほ、本当に足が凍っています!?」
僕の足が凍って地面にひっついてしまっていました!
「ダイン? 私の話聞いてた? ねぇ? 色々危険だってこと話したわよね!?」
「き、聞いてました! 聞いてましたから!? そ、それ以上は危ないです!? あ、足が凄く凄く冷たいですっ!?」
足が本当に完全に凍り付くかと思うほど冷たかったのですが、何とか少し緩めてくれました。
「聞いてたのなら、な・ん・で! どうして正門に向かおうとしたのよ!! 今、正門では凄く激しい戦いになっているのよ!? つまりこの街の守護者のほとんどが集まってるの! どういう事かわかる!?」
「ど、どういう事でしょう……?」
「あなたのそんな飛びぬけた能力を見せたら、絶対にグリムベルの手の者にあなたの存在が見つかってしまうって事よ!!」
「え? そ、そうなんですか?」
それはちょっと不味いですね……。
「あぁもう!? 本当は私も早く正門の戦いに戻らないといけないのに!」
あれ? でも、そうなるとどうしてフォレンティーヌさんは能力を普通に使っても良いんでしょうか?
「フォレンティーヌさん? どうしてフォレンティーヌさんはバレないんですか?」
僕がそう言うと、数秒迷う素振りを見せた後、
「ふぅ……。本当は、ダインに状況をちゃんと説明してから改めて話すつもりだったんだけど……」
もう一度迷いの表情を浮かべて、意を決するように口を開きました。
「私も……そのグリムベルの手の者なの。でも……勘違いしないでよ! 私は今の理不尽なこの世界に疑問をいだく一部の同志と共に、グリムベルの悪夢を終わらせるために動いているの!」
何か複雑な事情があるようですね。
やはりどこかで一度じっくり話を聞かせて貰った方が良さそうです。
「大丈夫です。僕はフォレンティーヌさんを信じますから、今度ゆっくりとお話を聞かせて下さい」
まだフォレンティーヌさんと話すようになって短いですが、絶対に悪い人でないのは確かです。
「そ、そう? ありがと。そう言って貰えると助かるわ。本当に今は時間がないから。サギットたちももう正門に向かっちゃったし、私も向かわないと。第一ウェーブにしてはかなり魔物の数も多いし、何匹かベヒモスみたいな高ランクの魔物が混ざってるのよね……。負ける事はないと思うけど、被害が大きくなりすぎると次のウェーブがきつくなるし……」
どうも戦況があまり良くないと思っていて、先の事を心配しているようですね。
それなら、僕もフォレンティーヌさんに信用してもらうために、隠さずちゃんと伝えておかないといけません。
「フォレンティーヌさん」
僕は少し真剣な表情でフォレンティーヌさんの名を呼びます。
「ん? どうしたの? もう孤児院に戻る?」
「はい。僕はもう正門には向かいません。本当は結果をちゃんとこの目で見たかったんですが、このまま孤児院に帰ります。ただ、状況を少し伝えておこうと思って」
「え? 結果?? 状況を??」
まだ話の途中なのでフォレンティーヌさんは、少し戸惑っているようですね。
「はい。実は僕の異能に、遠くの敵を空から攻撃出来る『衛星射撃』という異能があるんですが……」
「ちょ、ちょっと待って……わたし凄く嫌な予感がしてきたんだけど……」
「ベヒモスと戦っている間もず~っと撃ち続けていたら、ついさっき……ちょうどフォレンティーヌさんにげんこつを貰ったぐらいでしょうか? 最後の一匹を撃ち抜きました」
「……つ、つまり?」
そして、まるで僕が説明を終えるのを待っていてくれたように、
「もう正門前の戦いは、第一ウェーブの防衛戦は終わりました」
戦いの終わりを告げる警報が鳴り響いたのでした。




