【第3話:嘘じゃないのに】
「魔物が襲撃してきそうだから? じゃないわよ!? どこにも魔物なんていないじゃない!?」
魔物の群れはまだかなり上空にいて、ここからだと豆粒より小さく見える。
セリアはまだ魔物の群れを見つける事が出来ないでいるようだし、慌てるのも仕方ないのかな?
もう少し待っていればセリアにも見えるようになるんだろうけど、魔物が現れるのがわかっているのに、そんな悠長に待ってるわけにもいかないしね。
僕はとりあえず、セリアと同じように目を凝らして空を眺めているローズにこの後どうするべきかと話しかける。
「それでローズ。警報鳴らした後はどうしたら良いの?」
「……え? あ、えっと……そうね。とりあえずいつも通り避難しましょ。状況の報告とかは後ですればいい事になっているから。……ところでダイン……あの薄い点みたいに見えるのが何か本当に見えるの?」
ローズは魔物の群れらしきものを見つけたみたいだが、信じられないといった風に尋ねてきた。
「そうだね。たぶん50匹ぐらいかな? もう守護者ギルドも近いし、とりあえずそこに向かいながら話そうか」
「わ、わかったわ。セリア! 目を細めても私たちじゃまだ見えないわ。まずはギルドに向かうわよ!」
「え? う、うん。わかった。ダインがこんな嘘つくなんて思えないしね」
そう言ってその場を後にし、守護者ギルドに向かおうとしたのだが、ちょうど通りがかったゴーレム馬車から降りてきた一人の若い男に声を掛けられる。
「おい! そこの君! 警報を発動したのは君だろ? 魔物なんていないじゃないか!?」
この世界ではゴーレムの技術が発達している。
その商人らしき男の人が乗る馬車も、本物の馬ではなく、馬型のゴーレムが馬車を牽くゴーレム馬車と呼ばれるものだった。
その20代前半に見える男の人は、どうやら僕がいたずらか何かで警報を発動させたのではないかと疑っているようだ。
本当は一刻も早くギルドなどの安全な場所に避難したいのですが、どうもそういう訳にはいかないようです。
「えっと……あの点みたいに見えるのが魔物の群れ、たぶんソーンバードの群れなんですけど……見えます?」
ソーンバードとは、非行型の魔物の中では一番多いとされている、紫の毛に覆われた鳥型の魔物だ。
翼を広げても1mほどの比較的小さな魔物なのだが、上空からいきなり鋭い爪や嘴で襲い掛かってくるため、その高い遭遇率とあわさってこの魔物による犠牲者は多いらしい。
「んん? ……見えんぞ? どこにもいないじゃないか……。やっぱり悪戯じゃないのか!?」
いかにも目が悪いですといった厚いレンズの眼鏡をしているし、そりゃぁ見えないよね……。
「ちょっと!? ダインはこんな事でぜったい嘘ついたりしないんだから!」
「そうは言っても魔物なんてどこにもいないじゃないか!? 勘違いじゃないのか!? まったく! どうして罰則なくしたんだろうな」
元々、間違って警報を発動した場合に罰則があったらしいのでその事を言っているのでしょう。
だけど、罰則を恐れて警報を発動するのを躊躇してしまい、被害が拡大してしまう事が続いたため、今は故意に発動させない限り罰則はなくなったんだ。
恐らく商人のこの人は、警報が出るとすぐさま門が閉じられ、街の通行も制限されるため、面倒なことをしてくれたとイラついているのだろうけど……本当に魔物がそこまで迫っているんだけどな……。
「話にならないわ! ダイン! ローズ! こんな人放っておいて早く避難しましょ!」
セリアはそう言ってギルドに向かおうとしたのだけれど、頭に血の昇っている男に腕を掴まれてしまう。
「きゃっ!? 痛い!? 何するのよ!!」
「さては逃げる気だな! お前ら故意に嘘の警報発動させたんだろ!」
最初は気持ちもわからないでもないと思っていたんだけど、さすがにこれは目に余る。
僕はそっと二人に近づいて男の手を握り、指の関節をきめてセリアの腕を放させる。
「いってぇ!?」
あれ? そう言えば、なんか自然にできちゃったな。
「お兄さん。ちょっと冷静になりましょう。僕は嘘なんてついていないし、勿論いたずらで警報を発動したりしていません。それにソーンバードの半数がこの辺りに向かっているように見えます。急がないと危ないです。早く一緒に避難しましょう」
しかし、逆上した男の人はぜんぜん僕の話を聞いてくれません。
「この餓鬼!! 下手に出てたらいい気になりやがって! オレは元Cランクの守護者だぞ!」
守護者は見習いのFランクから始まり、その実力と実績を認められることでE>D>C>B>A>Sとランクが上がっていくランク制度が採用されている。
ランクが高いほど守護者ギルドから支払われる報酬もあがり、難易度の高い危険な任務を任されるようになるのだけど、Cランクといえば実力者として一目置かれるようなランクだ。
本当にCランクならね。
いくら元とは言え、Cランクの身のこなしには見えないし、Cランクなら前衛後衛に関わらず、ある程度の身体強化の魔法が使えるはずだ。
あれ? なんで僕はそんな事がわかるんだろう?
「えっと、とりあえずお兄さん。もう身体強化使わなくても見えるんじゃないかな? あれ」
そう言って、普通に見えるようになったソーンバードを指さすのだった。
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