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【第29話:げんこつ】

「ちょちょ!? 結局、何が起こったんだよ!?」


 僕がベヒモスを倒して城壁を直した後、鬼蜘蛛や他の守護者の人たちが集まっている場所まで歩いて戻ると、何故かみんな混乱しているようでした。


「そんなもん俺たちに聞いてもわかるかよ!」


「よくわかんねぇけど、こっちに取り残された魔物はこれで全部倒したんだ。それで良いじゃねぇか」


「良くねぇよ! いや、倒したのは良いんだが、それでもよくわかんねぇままじゃダメだろ!?」


 今の状況が把握出来てなくて少し混乱しているようですね。

 サギットさんたちも自身の戦いで必死だったのでしょう。

 僕がベヒモスと戦っている事は把握しているようですが、城壁が直したのが僕だと言うのは気付いていないようです。


「なら、さっきの少年じゃなぇのか?」


「そうよね? ベヒモスもお姉さまと協力してあっという間に倒しちゃったみたいだし?」


 と思ったのですが、どうやら状況的にほぼバレているようですね。

 面倒なの嫌いだし逃げてもいいでしょうか……?


 そっと鬼蜘蛛と祢々切丸の召喚を解除して、こっそりこの場を後にしようとしたのですが、


「ダイン~どこ行くのかな~?」


 いつの間にか後ろに回り込んでいたフォレンティーヌさんに首根っこを掴まれていました。


「え、えっと……僕はちょっと用事を思い出したので、一度孤児院に戻ろうかなぁなんて……」


 フォレンティーヌさんのジト目が絶対零度を発動している気がします!?


「ダメよ? 担当教官にそんな嘘をついちゃ~」


 凍えるような視線に震えながらも、なぜか僕は感情が芽生えたあの日の事を思い出していました。


 この世界に来てからマリアンナさんに一度だけ怒られた事を……。


 あの頃の僕は人の感情が今以上に良くわからなくて、ただただ面倒だと感じていました。

 その日もセリアがくれたお菓子を、僕と仲良くなりたくて少ないお小遣いで買って来てくれたお菓子を「こんなものいらない。僕にかまうな」って酷い言葉を投げかけちゃったんだよね。


 それでもセリアはやさしくって……、


「そっかぁ……でも、わたしね。諦め悪いから、またかまうよ?」


 そう言って、目に涙を貯めながら笑ったんだ。


 そしたら、それを見ていたマリアンナさんが初めて少し怒った顔を僕に向けて、やさしく、とてもやさしくコツンとげんこつをくれたんだよね。


「ダメよ? 家族にそんな事を言っちゃ」そう言って。


 げんこつは全然痛くなかったのに、それなのに何故か心が少し痛くて……。


 そんな事を思い出していると、ゴツンと頭に重い衝撃が走ります。


「い、痛い……」


 現実は甘くないようです。


「とりあえず、私だけにでもちゃんと説明してから孤児院に戻りなさい!」


 フォレンティーヌさんはそう言って小さくため息をつくと、今度はやさしく頭に手を置き、


「まぁ、悪いようにはしないから」


 そう言って今度は笑みを浮かべ、片目をパチリと瞑ったのでした。


 目にゴミでも入ったのでしょうか?


 ~


「ダイン……あなた、その異能の事は誰にも言わないようにしなさい……」


 フォレンティーヌさんに一通り何をしたのかを説明し終わったあとの第一声が、異能のことを黙っているようにという言葉でした。


 えっと……どうしよう?

 既に孤児院のみんなには少し話しちゃってます。


 そんな内心が顔に出たのでしょう。


「はぁ……誰かに話しちゃったのね。それで、誰に言ったの?」


 簡単に見抜かれてしまいました。


「同じ孤児院の子たちに、少しだけ……」


「あぁ、あの子たちね。あの子たちなら、まぁいいわ。でも、孤児院に帰ったら絶対に他の人に話さないように口止めしておきなさい」


「……はい。わかりました」


 と、返事はしたものの、ローズとリンスはともかくセリアとソニア(うちの元気担当)が心配です……。


 そんな僕の内心がまた顔に出ていたのでしょうか?

 フォレンティーヌさんは、その表情を真剣なものにあらため、


「ダイン。本当にちゃんと口止めするのよ。じゃないと……」


 一度そこで言葉を切って、悲しみを帯びた眼でこう言ったのです。


「あの子たちが殺されるわよ?」


「え!? 殺されるってどうしてですか!? 魔物にですか??」


 まさか孤児院のみんなが殺されると言われるとは思ってもみませんでした。

 自分でも激しく動揺しているのがわかります。


「魔物ではないわ。でも……魔物を使()()()()殺される可能性はあるから、魔物相手でも油断はしないでよ」


「魔物を使われて?? いったい命を狙ってくるのは誰なんですか?」


 僕が少し焦りながらそう尋ねると、フォレンティーヌさんは一度ゆっくりと目を閉じ、そしてこう言ったのです。


「孤児院の……グリムベル孤児院の奴らよ」


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