【第28話:祢々切丸】
「な・ん・で! いきなり突っ込んで行ってるのよぉ!? 話聞いてたぁ!?」
後ろで怒っているフォレンティーヌさんはひとまず置いておいて、僕は召喚したものに命令を下します。
そう言えば、うっかり発声しないで異能を発動させてしまいましたが、それでフォレンティーヌさんは怒っているのでしょうか?
「とりあえず質問は後にして、まずはベヒモスからだね。おいで! 祢々切丸!」
僕は並走して飛んでいる大きな刀『祢々切丸』を手元に呼び寄せると、両手でしっかりと握り締め、横一文字に軽く振ってみる。
「うん。身体が覚えているから、大丈夫そうだね」
この刀『祢々切丸』は、その長さが2mを超えるとても長い刀です。
鞘に入れていると僕では抜くのが大変なので、今回は召喚する時に鞘を抜いた状態で召喚してあります。
そして、この祢々切丸の最大の特徴は……魂の宿る刀だという事です。
自らの意志を持ち、一人で飛び回る事が出来る不思議な刀なのです。
ただ、ペンダントから授かった知識には……、
『小僧か。久しぶりでは無いか』
「え? しゃ、しゃべった……」
話が出来る事までは知らされていませんでした……。
『なんだ? 小僧……お主、なんか複雑なことになってやがるな……』
「複雑? ですか?」
『あぁ……ん? ところで敵はあのデカ物でいいのか?』
「あ、うん。あいつを刈り取ろうと思ってるんだ。祢々切丸で斬れる?」
『誰に聞いてやがる!』
「ごめん。じゃぁ、このまま突っ込むよ!」
祢々切丸を抜いてから、確かにこれで斬れないイメージが全くわきません。
僕は駆ける速度を一段階あげると、怒り狂うベヒモスに正面から挑みかかります。
「グモォォォ!!!」
僕が真正面から挑んだからでしょうか? 舐めるなとばかりに雷撃を飛ばしてくるベヒモス。
別に舐めているわけではないんだけど、とりあえず祢々切丸で雷撃を斬り裂いて散らしておきます。
「えぇ!? 雷を斬ったの!?」
かなり引き離したので距離は結構ひらいていますが、フォレンティーヌさんも追いかけてきているので、雷はもう少し気を付けて斬った方が良さそうですね。
その後、3回ほど雷撃を斬って巨大なベヒモスの足元まで辿り着くと、驚きの表情を浮かべ後ずさるベヒモスの鼻先に狙いを定めます。
「逃がさないよ?」
まるで追い詰められた鼠のように噛みついてきたベヒモスを、半身になって踏み込み、飛びのくように躱します。
そして死角から近づいて軽く鼻先を斬り上げると、ベヒモスの巨体を仰け反らせ、その顎先を掻い潜って喉を掻き斬りました。
「・・・・・・!?」
喉を斬られて声の無い悲鳴をあげるベヒモスの脇をそのまま駆け抜けると、祢々切丸を薙ぎ払うように大きく振り抜き、右前足を根元から断ち切ります。
そして、振り抜いた力を利用して舞うようにくるりと廻ると、左前足に同じ運命を辿って貰いました。
「暴れても無駄だよ」
前足を失って前のめりに倒れる巨体を躱して側面に抜けると、倒れて低くなったその大きな頭に飛び乗り、
「大人しく刈られてね」
祢々切丸を根元まで突き立てたのでした。
~
「私は夢でも見ているの……?」
そう呟きながら僕に近づいてくるフォレンティーヌさん。
「え? 僕知ってます! それ白昼夢って言うんですよね?」
これも本で読みました。
起きているのに見る夢とか妄想の事ですよね?
僕はそんな体験した事ないから、どのような体験なのか気になります。
「あぁ……そうね。もうそういう事でいいわ……」
あれ? 何かフォレンティーヌさんの目が怖いです!?
「と、ところで、こんな所にベヒモスがあると邪魔ですよね! 浸食! 『幻想世界』!」
今度はちゃんと異能の名前を忘れずに叫びました。
これでバッチリですね。
僕は『幻想世界』という異能を発動させて現実世界を浸食し、ベヒモスの躯を幻想世界に取り込んでいきます。
ベヒモスの巨体を数秒で幻想世界で浸食し終えると、そのまま解除して完了です。
とても簡単なお仕事ですね。
「ぇぇぇ~……今度は何よ……何がどうなったらベヒモスの巨体が消えちゃうのよ……」
とりあえず邪魔なベヒモスは片付けたので、次の作業に移りましょう。
「えっとフォレンティーヌさん。ちょっと僕の側まで来て貰えますか?」
僕がそう言うと「なに? まだ何かあるの?」と凄く投げやりにこちらに歩いてきます。
「えっと、次はちょっと大掛かりになるし、僕にも少し隙が出来るかもしれないので、念のために守ってて貰いたいんです」
あくまでも念のためですが、ちょっと集中しないといけないので、僕の身を守って貰えるようにお願いしました。
すると、フォレンティーヌさんは意識を切り替えるように頭を左右に振り、
「わかったわ。何をするか知らないけど、とりあえずダインとは絶対に敵対したくなくなったから、守ってあげる」
そう言って周りを見回し、警戒を強めてくれました。
「僕は敵対するつもりなんて無いですよ? でも、ありがとうございます」
どうして敵対したくないと言ったのかはわからないですが、邪魔が入る前に終わらせたいので僕も意識を切り替えます。
「行きます! 『時の箱舟』!」
もちろん対象はこの崩れた巨大な城壁です。
さすがにかなり巨大なので、意識をあまり他に向けすぎると中断してしまいそうです。
ベヒモスが体当たりで崩した大きな瓦礫が、雷撃により弾け飛んだ小さな欠片が、まるで映像が逆回転するように、まるでパズルのピースが一つずつ合わさっていくかのように、元の形を取り戻していきます。
「良し! だいぶん慣れてきたぞ……」
そこからはあっという間でした。
この時の箱舟の扱いにも慣れてきたので、さらにその速度をあげ……、
「これで良し!」
元の頑強な城壁としての姿を披露してくれたのでした。




