【第27話:グリムベルの悪夢】
「きゃっ!?」
突然背後から現れたのがいけなかったのでしょうか。
フォレンティーヌさんを少し驚かせてしまいました。
「こんにちは? それとも、こんばんは? とりあえずさっきぶりです」
今、もう夕闇が迫ってきているんですが、この時間帯ってどっちが正しいんでしょうね?
「え? え? ダインなの!? なんでダインがこんな場所に?」
「ん~? 僕の孤児院が近いから? そしたら、フォレンティーヌさんを見かけたのでこっちに」
「へ? 近いから?」
いや、大事なのが抜けていましたね。
「あと……孤児院のみんなが不安そうにしていたので、早く終わらせようかと思って」
みんなのあんな顔初めてみたし、あのまま孤児院に閉じこもっていても、街が無くなったら意味がありません。
「そ、そうなの? でも、ちょっと相手が悪いわ。私の樹氷も砕かれたし、絶対零度も体が大きすぎて効果が薄いのよ。ダインは少し下がってなさい。あなたの能力なら援護なら任せても大丈夫でしょ?」
「援護は別に構わないのですが、危険というのがベヒモスの事なら、とりあえず隔離しておいたので大丈夫ですよ?」
僕が指をさした先では、次元遮断によって隔離されたベヒモスが、何とかその空間から逃れようと大暴れしていました。
厄介なベヒモスの雷撃も一切外に出る事はないので、逆に自分の身を焼いて自爆していますね。
「な、何あれ? ……いったい何をしたの……? ……ちょっとダイン! あなた異能は3つじゃなかったの!?」
しばらくの間、暴れるベヒモスを呆気に取られて眺めていたフォレンティーヌさんですが、我に返って僕に詰め寄ってきました。
「すみません。さっきは警報が鳴って中断したので、言い損ねてしまったんです」
僕のその言葉で修練場を飛び出したのを思い出したのか、少し深呼吸してから今度は落ち着いて話しかけてきました。
「あぁ、確かに……でも、私に負けない4つの異能を持ってるなんて……。しかも、凄い障壁を張れる異能なのね」
閉じ込められているベヒモスを見て「予想以上だわ」とか言ってますが、ちゃんと伝えといた方が良いですよね。
「あれは正確には障壁じゃないですけどね。あと、30です」
「え? 障壁じゃ無いの?」
「はい。あれは次元遮断って言って、空間を断絶する異能なんです。それでベヒモスを囲っているので、空間や次元に干渉する能力を持ってないと基本的には破れないはずですよ」
僕のその説明に少し目を見開いて驚くフォレンティーヌさん。
「す、凄まじい異能ね……? ん? 30? 何が30?」
「異能の数が?」
そして今度は大きく目を見開くフォレンティーヌさん。表情豊かな人だな~。
「・・・・・・・・・・・・」
あれ? 聞こえなかったのかな?
何だか硬直しているフォレンティーヌさんの側までよって、もう一度答えておきます。
「異能の数の事です!!」
「きゃ!? そ、そんな大声出さなくても聞こえてるわよ!! ちょっと混乱してたのよ!!」
この1年でかなりマシになったのですが、人の感情を読むのは苦手です。
聞こえていないのかと思いました。
こういう時はちゃんと謝っておきましょう。
「すみません。大きな声で驚かせてしまって」
「謝るのそっちなのね……驚いたのはどちらかと言うと大きな声にではないのだけど……まぁいいわ。それよりダイン? 本当に? 本当に冗談とかじゃなくて、30個も異能を持ってるのね?」
「はい。ところで、ベヒモスをどうしたらいいですか?」
隔離しているので被害は防げますが、ずっとこのままと言う訳にもいきません。
「そ、そうね。そうよね。これだけの異能を維持するのは大変よね」
次元遮断は発動時に少し魔力を消費するだけなので、維持は寝てても出来るのですが、どうするか考えているので邪魔しないようにしましょう。
「あぁ……ダインの事で混乱してしまって考えが纏まらないわ……とりあえず城壁の崩壊は防げてるけど……」
ベヒモスはちょうど城壁に頭を突っ込んだような状態で隔離しています。
幅5mほどは崩れてしまっていますが、城壁にも保護結界が張られていたので、そこまで大きく破壊はされていません。
よく見れば城壁の上にも衛兵が集まってきていますが、ベヒモスから距離は取ってくれているので倒すのに支障はなさそうです。
これなら何とかなるかな?
「フォレンティーヌさん。ちょっと衛星射撃は使用中なので、僕の方で何とかしようかと思っているのですが、構わないですか?」
「え? 衛星射撃? 使用中? どういう話? でも……そうよね……これだけの異能を使えるんですもの、他にも強力な攻撃能力を持つ異能を保有していても不思議じゃぁないわよね。わかったわ。でも、絶対に危なくなったら逃げるのよ。ダインはもしかするとグリムベルの悪夢を終わらせる希望になるかもしれないの。絶対に命を粗末にしないで」
グリムベルの悪夢ってなんでしょうか?
いろいろ気になる事がありますが、それは終わってからゆっくり聞くことにしましょう。
「大丈夫です。僕が危なくなることはないはずです」
でも、これを攻撃能力と言っていいのかな?
許可は貰ったし、危なくなければ良いみたいだからまぁ良いか。
僕は『式神奏者』であるものを召喚すると、『次元遮断』の檻を解除し、戸惑うベヒモスに向かって駆け出したのでした。
「な・ん・で! いきなり突っ込んで行ってるのよぉ!? 話聞いてたぁ!?」
後ろで何かフォレンティーヌさんが怒ってるのが凄く気になりますが……。




