【第21話:修復】
みんな土まみれになりながら、呆然と立ち尽くし、まるでみんな血の繋がった姉妹のように仲良く口をぽかんと開けていました。
「さ、最小出力で撃てば良かったかな……み、みんな土まみれになっちゃったね?」
威力は抑え気味で放ったのですが、最小出力と言う訳でもありませんでした。
そう言って乾いた笑いで誤魔化そうとしたのですが……。
「ダ~イ~ン~!! ダインだけずるい!! なんでダインだけ綺麗なのよ!!」
え? そこ?
確かに僕だけ常時発動している『気功法衣』のおかげで、服には砂粒一つついていません。
もちろん僕にも土はいっぱいかかったんですが、すぐにパラパラと地面に落ちたので、服はいっさい汚れていなかったのです。
さっきまでは……。
「ダインお兄ちゃん、ずる~い!! それから……隙ありぃ!!」
愛情持って抱きついてくる行為は攻撃とみなされないようで、僕の腰に纏わりつくように抱きついてスリスリするソニア……。
僕の服にはソニアの抱きついた後がくっきりと、汚れとなってプリントされていました。
「あはは。ダインおにいちゃんの服にソニアちゃんがプリントされてるね」
ちょっと泣きそうになってたリンスも、ソニア柄になった僕の服をみて思わず吹き出して楽しそうです。
汚れたかいがあったかな? などと思っていると……。
「だ、ダイン!! 笑ってる場合じゃないわよ!? 外で戦闘起こってるこんな時に結界壊れちゃったじゃない!!」
やばいです。ローズが今まで見た事ないくらいに物凄く怒っています……。
「そ、それはほら……その……とりあえず『次元遮断』で……ね?」
僕のその言葉とともに、孤児院全体が一瞬何か陽炎のようなものに包まれたように見えたあと、外で続いていた一切の戦闘音が掻き消えました。
僕の数ある異能の中でも異色の異能『次元遮断』を使って、この孤児院をまるごと切り離し、あらゆる攻撃、いや、あらゆる干渉を受けつけないように隔離したのです。
「え? ちょっと!? ダイン! あなた今度は何をしたの!?」
「わわ!? ダインってまだ他にも異能使えたの♪ もしかして、もしかして、まだ他にも持ってるの!?」
あせるローズと、よろこぶセリア。
共通するのはどちらも驚いているところ?
「えっと……何をしたかと言うと、この孤児院と世界を切り離して、結界がわりに空間丸ごと隔離したって感じ?」
「え? どういうこと……く、空間まるごと隔離って……あぁ……何だか私眩暈がしてきたわ……」
「それで、他にも異能が使えるかって質問のこたえは……『いっぱい使える』かな? はっはっはっ」
「へ!? いっぱい!? いっぱいってどういうこと!?」
とりあえず笑って誤魔化すと、僕は懐からペンダントを取り出して魔力を流します。
誤魔化せてる気はまっくしませんが……。
「えっと……細かいのも入れたら全部で30個ぐらいかなぁ?」
その30個の中に『解析の片眼鏡』って言う、片方の瞳に魔法陣が浮かび上がる異能があるのは内緒です。
なにかそっちに走ったらダメだって、失った記憶が囁いている気がするんだ。うん。
「さ、さんじゅううぅ!!?? うわっ!? ダインやっぱり凄い!!」
「ちょ、ちょっと待って!? ダイン、30個って本当なの!?」
「リンスちゃん。ギフトってそんなにいっぱい貰えるものなの?」
「えっと、わわ、わかんないけど、おおくて2、3こって聞いた気がするよ?」
なにかみんな興奮して、収拾がつかなくなってきてます。
「その……僕のことは後で話すから、その前に守護結界の魔導装置直しちゃっていいかな?」
さっきの衛星射撃できっと装置が壊れてしまっているだろうから、マリアンナさんが帰ってくる前に直しておきたいのです。
マリアンナさんは、普段はすごく優しいけど、怒るとすごくすごく怖いから……。
「え? ちょっと待って……だから、ちょっと待って……直すって、ダインは何か物を直すことができるギフトまで持ってるの?」
「ん~? 直すわけではないんだけど、まぁそのギフトを使うと結果的に直る……みたいな?」
「そんなさも当たり前みたいに『直る……みたいな?』って……物の修復を行う事が出来るギフトを授かる人は、祈り手よりもずっと少ないのよ……?」
「いや、だから、物を直接直せるギフトってわけじゃないよ?」
「ん? どういうこと? 小さき勇者ダインよ。妾にもわかるように、もっと簡単に説明する事を命じます!」
セリアが何か芝居がかったふうに説明を求めてきますが、ちょっと聞き捨てならない言葉が含まれていますね。
「セリア、小さいは余計です」
僕がジト目で見つめ返しながら、感情の無い声でそう呟くと、
「あっ、はいぃ! ごめんなさい! でも~じゃぁダイン、もっと簡潔に教えて~」
僕が小さいのを気にしているのを思い出して、普通に頼んできました。
「簡潔にって……そうだな~。一言で言うと『対象の時間を巻き戻したり進めたりできるギフト』かな? いろいろ制約はあるみたいけどね」
「うわっ!? お姉ちゃん、伝説の時間系のギフトだよ!?」
「うん! ソニア! あの絵本の人と同じだね!!」
なに? 伝説って? え? え?
「……驚かない。私はもう驚かない。私はもう驚かない。私はもう……」
ローズがまるで暗示のように何か繰り返し呟いています……。
「何かよくわからないけど、とにかくそのギフトで守護結界の装置を直そうと思うんだ。ローズ、どこにあるか知らない?」
今僕が発動させている『次元遮断』は、敵の攻撃から身を守るという意味ではとても強力だけど、一度展開したら誰も通れなくなっちゃうし、狭い空間だと空気もなくなっちゃうから、ずっとこのままと言うわけにはいかないのです。
「……もう驚かない、私! ダインっ! ついてきて! でも、あとでお義母さんにはちゃんと話するからね!」
あぁ……黙っていてはくれないようです……。
でも、ちょっとやりすぎちゃったのは自覚しているので、ここは素直に謝って怒られましょう。ぐすん。
~
守護装置が置いてあったのは、家の裏手にある小さな倉庫の中でした。
「わぁぁ……真っ二つに割れちゃってる~」
「す、すごい、ぱっくりと割れてるね」
ソニアとリンスがその倉庫の壁に設置されていた装置が、綺麗に真ん中からヒビが入って二つに割れているのを見て、呟いています。
「ダイン、これだけど……ほんとに直せるの?」
「ダインが嘘つくわけないよ~早くやってっみせて!」
ローズが少し心配そうに聞いてきたのですが、セリアは微塵も疑ってないようです。
セリアが僕のことを信じてくれるのは嬉しいのですが、なんでもすぐ信じちゃって、あまり疑うことを知らないので、将来誰かに騙されないか不安ですね。
まぁでも、今回はおそらく問題なく直せるので、
「わかったよ。それじゃぁ、ちゃちゃっと直してしまうから……少し、3歩ほど下がろうか?」
また、ちびっこ二人とセリアが手を伸ばせば装置に手が届く近さで、目をキラキラさせて待ってるので、悪いけど少し下がってもらいました。
「じゃぁ行くよ? 『時の箱舟』」
僕の言葉にあわせるように装置全体が薄っすらと光に包まれました。
しかし、数秒待っても何も変化がない事に、
「あれ? 何も起こらないよ?」
セリアが首を傾げてそんな呟きをこぼします。
「大丈夫。もう少し見てて……ほら」
僕がそう言って装置を指さした直後、真っ二つに割れていた装置は、一瞬で一つになり、修復が完了したのでした。
しばらく変化が無いように見えた間も装置の時は遡っており、僕がさっき射撃した時間を超えた瞬間に、元の正常な状態に戻ったのです。
僕は装置が修復されたのをとある異能を一瞬発動させて確認すると、『時の箱舟』を解除して装置の時を今の修復された状態に固定します。
これで修復は完了です。
「ほ、ほんとに修復してしまったわ……私はもう驚かない……私はもう驚かない……」
ローズには落ち着いたら何かお詫びにお菓子でも買ってこようかな……。
「すごーーい! ほんとに絵本に出てきたギフトみたい!」
「ダインお兄ちゃん、すご……にゃぎゃっ!?」
セリアがまた僕に抱きつこうとしたソニアと小競り合いをしていますが、こっちは放っておいて大丈夫でしょう。
いつもの事だし。
「とりあえず守護結界も起動したみたいだし、『次元遮断』は解除しちゃうね」
そう言って異能の力を切った瞬間……。
「え!? なんの音!?」
今まで遮断されていた戦闘音にまじって聞こえてきたのは、間近から聞こえる無数の魔物の咆哮でした。




